007話 犬猿の仲
「こらこら君達、いきなり何やってんのさ」
呆れた感じで、すたすたと教師がやってきて
「まぁいいけどさ」
と軽く済ませると
「それよりアヤセ、お前の能力は、ひょっとして氷の造形なのか?」
と少し真剣な表情で尋ねてきた。
まだ動揺していて、すぐに反応できずにいると
「おーい、アヤセくーん?」
「はっ!あっ、まぁそんな感じですっ」
「ふむふむ、割と氷はレアだからね。頑張りなさいな」
そう言うと、嬉しそうに他の生徒の方へ歩いていった。
先生が去ると見ていた連中が寄ってきて
「すげぇなお前!」
「カガリさんの攻撃防ぐなんて!」
彼女はクラスでは結構有名な能力者のようで
、その彼女と互角、もしくわ、それ以上ともとれる攻防を繰り広げた俺に、見ていたクラスメイトから賞賛の声が浴びせられた。
少しずつこっちに慣れていこうと思ってたのに、初日からいきなり目立ってしまった…
「ちょっといいかしら?」
生徒たちの後方から女生徒の透き通った綺麗な声が響くと、群がっていた生徒たちが一斉に散っていき、そちらへ目を向けると、品のある、綺麗な金色のショートヘアが目立つ、女生徒が、こちらへゆっくりと歩いてきていた。
「編入生…だったかしら?カガリさんの攻撃を防ぐなんてたいしたものだわ」
近づきながら話を続けた。
「どうも…?」
「あなた、アヤセさんでしたっけ?私と…」
そう言いかけた時
「ストッープっ!アヤセはあたしがもらう」
カガリさんが怪訝そうに割って入ってきた。
「ふふっ、よっぽど彼が気に入ったんですのね。キスまでするなんて」
皮肉交じりに言うと
「お嬢様には到底真似できないだろ?」
カガリさんも負けじと挑発した。
話についていけない俺は意を決して聞いてみた。
「あのー、さっきから組むとかなんとか一体何の話?」
二人は顔を見合わせ、
「もしかして知らないのかしら?」
「まじで?」
「何を?」
「もうすぐ新入生を対象とした学内チーム戦が行われるのよ。当然ランクや学内序列の変動にも大きく関わってくる大事な試合よ?」
「初耳ですね」
「どんだけテキトーなんだウチの担任は」
呆れる二人、いや、三人…
「まぁ、そういうわけで私と組みましょう?」
と俺の右手を両手でギュッと握った。
「いーや、あたしと組もうっ」
「えーっと…」
曖昧な返事で間を持たせて、頭を回転させ、不自然でない方へ話をそらした。
「そもそも、あなたの方は名前も知らないんですけど…」
金髪ショートヘアの女生徒に言うと、握っていた手を離して一歩下がった。
「私としたことが…これは大変失礼しました。私はアリス・ファーレンハイトと申します。」
とスカートの裾をつかんで上品な礼をしたのだが、いかんせん短いスカートでやる挨拶じゃあないせいで、見えそうだったので、顔を両手で覆った。
「かわいい反応をなさいますねっ」
とこちらも小悪魔っぽい笑みをこぼした。
「それで?どっちと組む?」
そのやりとりを不機嫌そうに見ていたカガリさんが、話を戻したので
「というかチーム戦だったら別にどちらか選ばなくても三人で参加すればいいのでは…?」
とまぁ無難な正論を言うと、二人は一度顔を見合わせてから、同時に
「冗談だろ?」
「冗談でしょ?」
と言って、すぐに睨み合った。
「えーっと…それはどういう理由で?」
「こんな乱暴で自分勝手な人と、チームなんて組めませんわ」
「こんな貧弱なやつと組んだって勝てないね」
「貧弱かどうか試してみますか?」
「おもしろい」
二人が今にも勝負を始めようとしたその時、都合よく実技授業終了の鐘が鳴り響いた。
「今日はここまでだ。時間外の許可のない能力の行使は校則違反になるから気をつけろよー?」
これまた都合よく、教師による注意の呼びかけが聞こえて、仕方なく
「チッ」
「ふんっ」
同じ教室に向かうはずなのに、二人はそれぞれ別の出口へと歩いていった。
とりあえず一旦二人とも引いてくれて助かったけど、本当にチームの件はどうしたもんか…