006話 焔の華
学園都市では、午前中に通常の高校と同じような授業をやった後、午後は完全実技でほぼすべての時間を超能力の研鑽に使うのだった。
霊鳳院にある屋内闘技場のうちで、一番小規模な場所ということで移動してみると、大きな鉄の扉に閉ざされた向こうには、円形の、それこそ俺が通うはずだった《普通の高校》の入学式を行った体育館4つ分くらいの広さの、周りを対超能力の特別製の壁に囲まれた空間があった。
これで本当に小規模なのかよ…
こっちに来てから驚くことばっかでマジで疲れてきた…
しばらくして、別の入り口から担任らしき女性がやってきて何やら説明し始めた。
「えー、まぁ超能力に限ったことじゃあないけど、だいたいの物は磨けば磨くほど強くなるよな?」
「超能力に関しては一番長い時間修練できたのが今の3年生、いわゆる第一世代だ。」
「そして君らは第三世代相当運の良い方だと思っていい」
「ただし、今のところ第三世代はほとんどが、Sランクにすら到達していない」
「これは問題だよなぁ?」
「世界で三番目に恵まれている世代の君らからこの年になって未だ、ほとんどSランク超えがいないなんて…」
「しかも特にこの1-Fには問題児が多いようだしな…」
と付け加えて、俺の方を睨んだ。
因みに俺は公式記録によると第三世代ではなく、第十八世代ということになるらしい。
未だ歩けもしない連中と同世代って言われても、とても複雑な気分だ…
「と、いうわけでだっ」
「これからビシビシ鍛えていくから覚悟するよーにっ!」
「それで今日は二回目の実技だ。昨日に引き続き二人一組になって能力の確認をしてもらう」
先生がそう言うと皆それぞれ昨日組んだであろう人とあっという間に組み始めた。
「あの、俺はどうしたらいいですかね?」
「ん?あぁ、そういえばいなかったな。まぁ気にすることはない。ちょうどもう一人昨日の授業をサボった問題児がいるからそいつと組めっ」
そう言って後方でデカいアクビをしている女生徒を指差した。
「はぁ」
とため息をついて女生徒の方へ向かった。
というか俺は別にサボったわけじゃないんだけどな…
「あのー?あなたと組めって言われたんだけど、いいですか?」
特にコミュ障という訳ではないけど、初対面の人と話す時は割と緊張する。
それが綺麗な女性ならなおさらだ。
「あん?なんだあんた、ぼっちか?」
綺麗な真っ赤な髪と真っ赤な瞳をして、とても高1とは思えないくらい発育の良い身体が露出の多い服で覆いきれていなかった。
「俺も昨日の授業に出てなかったから」
「おっ?なんだサボり仲間か」
「いやサボりじゃなくてさ、今日編入してきたんだよね」
そう言うと、担任の方を見て呆れたような表情をした。
「それであたしと組めって?酷いこと言うね、あの教師」
不思議そうに見ていると
「あたしは篝綾音、一応よろしくっ」
「えーっと、俺は綾瀬凛、よろしく?それで一体何をすればいんだろう」
「あー、まぁ超能力ぶっ放せばいんじゃねーの?」
ニヤリと笑うと左手をこちらへ向けて唐突に叫んだ。
「焔の弾!」
こちらへ向けられた彼女の左手が、紅く燃え盛る炎に包まれ、そのまま広がっていき、彼女の叫びと同時にこちらに向かって弾かれた。
「へっ?ちょっ、まっ」
広い闘技場を凄い速さで駆け抜け、あっという間に目の前まできた。
咄嗟に両腕を交差させ、爆発の火を消した時のように能力を使って打ち消した。
煙と共に衝撃波が広がっていき、床には俺と彼女を結ぶ直線上に焦げ跡がクッキリと残った。
おぉ!という感じに驚いて、
「なかなかやるじゃん!今日は退屈せずに済みそうだっ」
続けざまに何度も炎の塊を放った。
「あんたの能力はなんだぁ!?あたしの焔を消したってことは水か風かなんかか?」
叫びながら攻撃の手は止まない。
こちらは慣れない能力を連続で発動させるので相当体力を消耗させてしまっていた。
「はぁはぁはぁ…いや、どっちもハズレかな…」
まだ超能力を使い始めて数日、自分がどれだけの時間、能力を使っていられるのか正確にはわからなかったけど、限界が近いことは何となくわかった。
「もったいぶるねっ、んじゃあ次で最後だ、これを凌いだらあんたの勝ちってのでどう?」
「別に勝負してるわけじゃ…」
「いくよっ!焔龍落とし」
叫びながら両腕を上にあげ、炎の塊が上空で巨大な龍の形を成していき、彼女が腕を振り下ろすのと同時に、まるで生きているかの如く、唸り声をあげてリンに襲いかかった。
先ほどまでそれぞれの能力の確認をしていた生徒達からも、カガリの放ったド派手な技に目を奪われた。
「すげぇ!」
「なんてデカさだっ」
「あいつ死ぬぞっ」
轟音とともに襲い来る龍を呆然と眺めながら
「おいおい…この大きさは消しきれないんじゃ…」
俺の能力でこの絶望的な状況を乗り切るにはどうしたらいい…?
一瞬の間に、脳をフル回転させて考えた。
氷でバリアのようなものを作ればふせげるのか…?
それとも普通に炎に溶かされるんだろうか…
時間も選択肢もないっ!
一か八か、溶かされない方に賭けるしかないっ!
「くっそっ!!氷の壁っ!!!」
両手を前に出し、前方で燃え盛る龍を覆えるほどの大きさの壁を目の前に造形した。
次の瞬間、龍の形を成した炎の塊は、氷の壁にぶつかり、大量の白煙のみを残して、跡形もなく消滅した。
「はぁ…はぁ…間にあっ…た…」
疲れ切って、その場に倒れこんだ。
どうやら賭けには勝ったみたいだな…
炎で溶けないとなると、これは割と強い能力な気がしてきたな…
それにしても、まだ超能力に目覚めて3日と経ってないのに、さすがにこれは、力を使いすぎたよな…
「なるほど、氷…か」
「うぉぉっ!」とクラスメイト約40人分の驚愕の声と歓声が広い闘技場に響いた。
「すげぇなっ、あの二人!」
「やばっ!」
「ほぅ…」
見ていた教師も遠くで感心していた。
「約束通りあんたの勝ちだね。その氷、あたしの焔を防ぐなんてただの氷じゃなさそうだけど」
仰向けに転がっている俺に手を伸ばしながら話した。
「ありがとう」
手を取り立ち上がると
「こっちこそありがとな」
と言うと握っていた手を離し、俺の胸ぐらを掴んで引っ張り、強引に唇を重ねた。
俺はというと、慣れてなかったせいで、顔を真っ赤にして、大慌てで後退した。
「ふぇっ!?一体何を…」
彼女は動揺する俺を見て、小悪魔っぽい笑いをこぼし、言った。
「改めてカガリ・アヤネだっ!よろしくなっ」