005話 迷子
〜翌日〜
早く寝たせいで5時に目が覚め、朝の散歩をしようと外に出た。
「それにしてもとんでもなく広いな、これが学校とは思えない」
辺りを見ながらゆっくりと歩いて行った。
さすがに、この時間だと誰もいなかった。
しばらく歩いて行くと、変な生き物に遭遇した。
猫のような感じなのだけどどこか普通と違うような。
撫でようと思い、手を伸ばすと、ガブッと噛まれてしまった。
「いってぇー!」
痛がっていると楽しそうにジャンプして、何やらカードらしきものをくわえた。
「ん?何もってんだ?」
顔を近づけてみると、カードキーだった。
「あぁー!いつの間に…」
「ニャン」と鳴くと後方に走っていった。
「えっ!?ちょっ、まって!!」
慌てて追いかけた。
「はやっ!何だあいつ」
結構運動神経には自信があったのだが、あっという間に置いてかれてしまった。
仕方なく探して回った。
まぁ、これだけ広い学園でよく知りもしない道を走り回ったら当然…
「うん、迷子だ…いやいや、やばいぞ」
時計を見るとすでに6時30分を過ぎていた。
今から2時間以内に猫を見つけて部屋まで戻って準備をして登校しなければならない。
あてもなく走り回っていると時間はあっという間に過ぎていった。
するとその時、見知らぬ女性に声をかけられた。
「ちょっと、そこのあなた!そこで何してるの!ここは女子寮、男子禁制よっ!」
緑色の長く綺麗な髪をなびかせた美女がやってきた。
「えっ!?あぁ、すみませんっ!知らなくてっ!」
「知らないはずないでしょ!」
「うわっ!」
気づくと地面に横たわっていた。
どうやら、この美女に投げ飛ばされたらしい。
「さぁ、何をしていたのか正直に話せば退学は免除してあげるわ」
「いや、猫に部屋のキーを奪われまして、慌てて追いかけてたらここに迷いこんでしまったんです…」
「ねこ?」
「ひょっとして、この子のことかしら?」
見上げると先ほどの生き物が美女の胸に抱かれていた。
「あー!そうです!その猫ですよっ!」
「鍵なんてもってないわよ?」
猫を前に持ち上げながらいった。
「そんなっ…」
「つくならもっとマシな嘘を考えなさい!」
とその時、頭上でミシッという音が鳴り、見上げると木の枝の先にもう一匹同じような猫がいた。
「あっ!あいつですよっ!」
と叫ぶのと同時に、木の枝が猫の重さに耐え切れず、猫もろとも落下しだした。
咄嗟に起き上がり猫の落下地点に走った。
ドンッ
と鈍い音が響いた後、ドサっと猫の着地する音が聞こえた。
まぁ同じ場所に向かって上を見ながら走ったら、そりゃあぶつかるのが当然ってもんで、美女とぶつかり倒れたところに猫が乗っかった形になって、結果的に猫は無傷のようだった。
「いったぁ」
頭を押さえながらこちらを睨む美女、こちらもまぁ、同じくダメージを受けているのだが、今はそれどころじゃあない。
「ほらっ!この猫!」
「へっ?」
と猫のほうを見ると、口にカードキーをくわえていた。
「えっ!?本当だったの!?」
慌てて顔を真っ赤にしながら、
「ごめんなさいっ!」
頭を下げて謝ってきた。
「いえいえ、いいんですよ。勘違いしてもおかしくない状況だったんで…」
猫からカードキーを取りながら言った。
「それにしても同じ猫が二匹いたんですね…」
「えぇ、誰のって訳でもないけど、女生徒に人気の兄弟よ」
起き上がって、手を伸ばしながら
「さっきは本当にごめんなさいね。私は2年のティファール・レイブンよ、だいたい皆ティファって呼ぶわね」
と自己紹介されたので、
「あっ、俺は一年の綾瀬凛といいます。」
「そう、やっぱり一年生だったのね。まぁ猫を助けようしてたから悪い人じゃないのはわかったけど、これからは無闇に女子寮に入っちゃダメよ?」
「はいっ、すいませんでしたっ!失礼しますっ!」
逃げるように走り去った。
実際時間もかなりやばかった。
それからしばらく走り回って、やっと男子寮を見つけた頃には、既に1限の鐘が鳴り終わっていた。
急いで着替え、支度を済ませて校舎に向かった。
「すみませんっ!遅刻しましたっ!」
と昨日藤堂会長に言われていた教室に入った。
「ん?お前は確か…編入生の綾瀬だっけか…?初日から遅刻とは良い身分だな」
授業をしていた先生が言うと
「編入生?」
「入学式の次の日に?」
「そもそも学園都市に編入ってどこから?」
と、たちまち教室がざわついた。
「まぁいい、さっさと席につけ」
一番後ろの空席を指差して言った。