003話 奇跡
気がつくと、見慣れない天井、独特の匂い、一定のリズムで鳴る機械、見渡すまでもなく病院の一室にいることがわかった。
重傷かと思いきや普通に起き上がる事が出来たのでそこまでの怪我ではないようだ。
他の二人は無事なんだろうか…
しばらくして、看護師がやってきて、意識の回復した俺に気づき、慌てて医師を呼びに行った。
言っちゃあ悪いけど、とても胡散臭い顔の中年のおっさんがやってきた。
「いやぁ、綾瀬くん。ビルの下敷きになって生還するなんて、とんでもない奇跡だよ。まったくっ」
「今は何時ですか?」
「あれから約一日経っている」
「そうですか…あのっ、俺の他に学生がいませんでしたか!?」
慌てて尋ねると
「安心しなさい。君以外の二人はほぼ無傷で、既に家に帰している」
「そう…ですか…」
詳しくは覚えていないけど、どうやら皆無事だったようでなによりだ。
医師と入れ替わる形で堅苦しいスーツを着た若い男が入ってきた。
「意識が戻ってくれて良かった。私は日本政府直属の超能力監査委員の日下です。」
「超能力…?」
「あの状況下で「生還した」というのは奇跡では済まされない。我々は超能力という奇跡によるものだと考えているんだが、超能力を保持しているものがそれを隠すのは重罪であると承知しているかな?」
「そりゃあ、もう、そもそも、生まれた時にする検査で判明するんですから、偽ることなんて出来るはずない」
「では君は超能力なしにあの場を切り抜けたと言うのかね?」
「……」
「その点について、詳しく覚えていないんですけど…逃げる途中、後方で爆発が起きて爆風と一緒に炎が迫ってきて、咄嗟に手を伸ばしたら、炎が消えたんですよ」
「それが超能力でないと?」
「いや、だから…その…何ていうか」
少しの沈黙の後
「昨日発現したんじゃないかと…」
そう言うと
「はっ!?」
それまで冷静沈着、どちらかといえば寡黙なタイプのイケメンが驚きのあまり変な声を上げた。
「そんなことはあり得ない!前例がないっ!」
取り乱したまま話を続けた。
「いやー、そんなこと言われても…事実今まで一度だって検査で反応があったことはないんで…」
「……」
「今回の検査結果はもう知ってるんですよね?」
「ま、まぁ、いずれにせよ、超能力を持っている以上その責任を果たしてもらうことになるっ、君はどこか希望はあるかい?通るかはわからないが申請はできるからね」
「何の希望ですか?」
「察しが悪いね、七つの学園都市の中でどこに行きたいかい?って話だよ」
「はい?俺普通の高校に入学したばっかりなんですけど…」
「当然、編入だよ」
「特例すぎて私一人では判断しかねるが、まず間違いなく編入ということになると思う。」
「そういう話なら希望なんてないですね。言うなれば今のまま普通の高校に通いたいってのが希望かな」
笑いながらそういうと少し厳しい表情になって
「持つものは持たざるものの分も、それを使う義務があると考える。」
そう言うと
「私はこれで失礼するよ、編入の詳細については、おって連絡があるはずだ」
と出て行った。
病室で一人、どういうわけか個室だったので本当に一人になり、事実確認も兼ねて右手を開き昨日と同じことができるか試してみた。
開いた右手に氷でできたきれいな結晶が現れたのをみて、諦めとともに、俺を巻き込んだ神に、多少なりとも愚痴をこぼしたい気分になった。