019話 重役会議
対戦表が公表され、初戦の相手がD組ということがわかったのだが、高校から入学、しかも編入生の俺にはクラス以外に特に知り合いもなく、全然ピンときていなかった。
チームメイト二人は初戦など眼中にないようで、準決勝で当たるウィラードのことしか考えてなかったし…
レンの言っていた『シード』というものが正しいなら、ウィラード達『A1』と当たる前に、Bブロックの一番下、第三シードであるところの『B1』に勝たなくちゃいけないんじゃないだろうか…
初戦はともかく、その辺はもっと対策とか考えた方が良いような気がする…
俺たち四人、他の新入生達、一部の上級生達が講堂に群がる中、学園内にある様々な豪華な建造物の中でも一際目立つ『霊焔堂』と呼ばれる、高く高く聳える建物の最上階にて、霊鳳院学内序列上位10番までの者のみが参加できる重役会議が執り行われていた。
赤、茶、金で彩られた派手な廊下の先に、これまた、とびきり豪華な両開きの重い扉に閉ざされた部屋があり、中へ入ると中央に縦長円形のテーブルがしっかりと固定されていた。
一番奥の全体を見渡せる席に、霊鳳院序列1位と霊鳳院総代表の生徒会長という二つの肩書を持つ、藤堂麗奈が陣取り、その後は左側の奥から順に2位4位6位8位、右側の奥から3位5位7位9位と座り一番手前の、これまた全体を見渡せる席に10位の者が座った。
因みに、現在の学内序列上位10位以内に一年生は一人も入っていない。とは言っても一年の最高序列は12位と、かなり惜しいところには入っているらしい。
「珍しく全員揃ってんな」
「どっかの自己中なおっさんが来てるからだろ?」
対象を特定できるような、あからさまな皮肉を言う者をスルーして、一番奥の者が話を始めた。
「皆さんお揃いのようなので、会議を始めさせていただきますね。始めに、モニターに3日後から始まる新入生のみの試合の対戦表を写しておきました。ちょうど今頃、これと同じものが第一講堂にて発表されています。」
「ふんっ、どうせ『沈黙の支配者』か『重力馬鹿』が優勝すんだろ?」
「この大会の結果によっては、この中の何人かとは、この部屋で会うのは最後になるかもしれねーな」
「まぁ、その二人のどちらかが優勝したら、まず間違いなく10位以内には入るでしょうね」
「ん?その二人のチーム以外に優勝の可能性があんのか?」
「ないでしょ?」
「んじゃあ10位は確実に入れ替えじゃん」
「とうとう来たかって感じだな」
他のランカーが新入生の話で盛り上がっていると
「さすがに、そんなくだらない話をするために集まったわけじゃないんやろ?さっさと本題に入りや」
不機嫌そうな、鋭く、男子にしては高めの声が序列三位の席から響いた。
少しの沈黙が訪れ、全体の注目が3位の席に踏ん反り返っている、黒髪短髪の、大樹のように、横ではなく縦に大きい、大柄な男に向けられた。
「たまに来たと思ったらこれか?」
「トップランカー様は何をしてもいーってか?」
「その通りや。現代のシステムでは強さが全て、弱い奴らに興味ないわ」
「そういうあんたも今は3位じゃねーか」
「そうだよ、サボりすぎなんだよ。だから信頼されねぇんだ」
「さっきから騒いでいたんは、お前ら4位以下やろ?」
『一触即発』、3位の男と4位以下の数名が、今にもリアルファイトをおっ始めようと、立ち上がった時、先ほどとは対照的に高く綺麗な声が響いた。
「皆さんそれくらいで、土御門君の言う通りですよ、今日はそんなことを話すために集まったのではありません」
立ち上がっていた数名の生徒も席に座り、全員が一番奥の会長の方を向いた。
会長の一声できちんと静かになるあたり、会長の実力と性格に対する信頼は確かなもののようだ。
静かになると再び会長は話し始めた。
「皆さんもお気づきでしょうけど、今年は新入生の大会が例年より一ヶ月早いですよね?」
「そうだっけ?」
「えぇ、その理由についてですが、例年新入生の試合を行っている今から約一ヶ月後に、急遽、都市対抗戦が行われることが決定しました。」
一番奥の女性が厳しい表情でそう伝えると、一瞬にして場の空気が変わった。それまで、ヘラヘラしていた者や、「興味ない」という感じに退屈そうにしていた者も含め、全員が真剣な表情になった。
「マジかよ…」
「ずいぶん急だな…」
「試合の形式は?」
「詳しいことは、まだ決まっていませんが、出場可能人数は各都市12人になりそうです。」
再びざわつき、お互いの顔を見合わせる。
「それじゃあ、ここにいる10人と一年のS二人でいいんじゃねぇか?」
「まぁ、そうなるだろうね」
「メンバーについても、登録までしばらく猶予がありますから、とりあえず今日は、対抗戦があるという報告だけです。」
「ん?じゃあ、もう解散?」
「最後に、一つだけ、ここにいる方は全員上級生ですから問題ないとは思いますが、対抗戦が決まった以上、様々な組織からのスパイ活動や妨害活動が始まるでしょう。十分に気をつけてください。」
バラバラではあるものの、皆しっかり返事をして、散り散りに解散していった。