016話 重力操作
〜翌朝〜
部屋中に鳴り響くアラームの音で目を覚ました俺は、カーテンが開けっ放しの窓から、寝起きの俺を容赦なく襲う太陽の日差しを、片手で遮りながら、時計に目をやった。
「7時か…今日は、わりと無難な時間だな…」
昨日も一昨日も、アラームが鳴り響く前に起きたせいで、スマフォのアラームは決められた時間に音を出すという単純な仕事をする前に解除されて、その機能を全うできていなかった。
しかも、スマフォのアラームは解除し忘れると後になって変な場所でなったりするから大変だ…
始業30分前とだいぶ早く着いてしまった…
ほとんど人がいない静かな校舎の一室、1-Fの教室には、すでに朝霞レンの姿があった。
スライド式の開けっ放しになっているドアをくぐって、静かな教室へ入り
「おはよう、早いね」
挨拶をすると、一人、スマフォをいじっていた朝霞は、こちらを見て驚き
「そっちこそ、どうしたんだ?いつも開始ギリギリか遅刻なのにっ」
まだ編入して3日と経っていないのに、もうすでに『いつも』がつくほど俺の遅刻キャラが定着してしまってるのだろうか…?
言ってもまだ2回しか、登校してないじゃん?
早くない…?
そんなことを脳裏に浮かべながら答えた。
「んー、そろそろ慣れたのかも」
「早いな、まだコッチに越してきて4日くらいだろ?」
いや、早いのは遅刻キャラ認定の方…
慣れてないから最初の2回は遅刻したと、もっと普通に受け取って欲しいもんだ。
などと、俺がまたしょうもないことを考えていると、朝霞レンは少し嬉しそうに話題をふってきた。
「それよりさっ、例の1年のSランカーのこと、少し見えてきたぜっ!」
机に腰掛けたまま「来い来い」という仕草をして、よばれたので、近くまで行くと、さっきまでいじっていたのは、スマフォではなく学生証だったみたいだ。
その学生証から映写機のように立体映像が映し出され、ピッピッと慣れた手つきで軽快に操作し、そこからウィラードの個人データを映し出した。
「ウィラードの方は、名前が分かってたから探すのは簡単だったよ」
name: ウィラード・カルヴァーニ
rank : S
grade & class: 1-A
skill : 重力操作
「つっても詳しいことは書いてないんだけど、能力が公開されてたんだよね」
「重力操作…って…」
映し出された文字列に目を向けながら、思ったまんま口にすると、
「その反応、わかるわー、能力名だけでチートなのがわかるよな…」
やれやれといった感じで、ひょいと肩をすくめて答えた。
俺は以前のショッピングモールの時のテロリスト達を思い出した。
あの五人は大きな揺れの後、地面にめり込んでいて、あの時は何が起きたのかわからなかったけど、能力が重力操作なら納得だ…
あんなのどうやって防いだらいいんだろうか…
少し黙った俺を見て
「どうした?」
「いや、前にあいつに会った時のこと思い出してさ…」
「ウィラードに会ったことあるんだ?」
「まぁね、『お前らに勝ち目などない』みたいなこと言われた気がする…」
「かぁー、やな奴だな…」
「まぁ、事実なんだろうけどね…」
映し出されたウィラードの情報が消え、今度はクラス名簿表の写真のような物が表示された。
「それで問題のもう一人のSランカーについて何だけど…こっちに関しては名前とか能力はさっぱりで、クラスだけG組らしいってのがわかったから、こんなかの誰かだとは思うんだけど、これ以上は特定できなかった」
昨晩、会長に聞いたときのことを思い出して、まぁ、大した情報ではないにしろ、一応レンには伝えておこうと思い
「そういえば、俺も一個だけ噂を聞いたんだよね」
と切り出した。
「へぇ、どんな?」
「今年の新入生のSランカーの内の一人は、実力だけで言ったらすでにSSと同等かそれ以上って話」
「はぁ!?そんなんもう勝ち目ないじゃんっ…というか、もしその一人がウィラードじゃなかったら、もう一人の方は重力操作よりチートな能力持ってるってことじゃね!?」
「そうなるよな…」
うん、これが普通の反応だよ…
それからしばらく、考えたってわかるはずもないSランカーについての不毛な会話を続けているうちに、少しずつ教室に人が集まり出した。
その様を見て、自分たちが、だいぶ早く来ていたのを思い出し、レンに尋ねてみた。
「というか、レンはいつもこんなに早く来てんの?」
「いんや、今日のうちにSランカーの顔だけでも把握しておきたくてね。G組の連中に聞き込みしようと思って」
「なんで今日のうち?試合は4日後からじゃん?」
「なんでって、明日対戦表が出るからさ。対戦表が出てからは皆そういうことに関して口が堅くなるんだよっ」
なるほど…それでわざわざ早く登校してきたのか…
その熱意には素直に感心する。
まぁ、それはいいとして…
対戦表が明日発表なんて聞いてないぞ…
まったく、あの担任は、さすがにちょっとテキトーすぎる気がしてきたな
心の内で担任への不満をぶつけているうちに、レンは腰掛けていた机からひょいっと飛び降りて、右手を軽く上げながら
「そういうわけだから、そろそろ行ってくるぜ」
得意げにそういうと、ちらほらと人が集まりだした校内を、1-Gの教室に向かって走っていった。