015話 藤堂会長
いわれるがままについていくと、ホテルのような綺麗な廊下を抜けた先に、何とテニスコート2個分はあるであろう、修練場のような部屋が完備されていた。
「ここでいったい何を…?」
「今からSSランクというものを少しだけお見せしますわ」
「はい…?」
嫌な予感は的中したようだ。
「ここの壁も学園の闘技場同様、特別製ですので遠慮は無用ですわ」
そう言うと会長は、真剣な表情つきになって、途中用意したであろう日本刀をゆっくりと抜刀した。
その佇まいが、すでにその実力を物語っているようだった。
刀を抜いた瞬間、一瞬にして空気が変わり、気づくとこちらも身構えていた。
「参ります」
刀を構えると同時に物凄い殺気を放ち、言った。
刀を低く構えたまま、さながら瞬間移動でもしたかのように一瞬で俺の目の前に移動した。
それはとても肉眼で追えるような速さではなく、目の前に移動した会長の目に、一瞬怯んだ俺は、体勢を崩した。
その隙を見逃すはずもなく、会長は刀を振り抜いた。
「一ノ型 雷砲 」
「くっ、氷の壁っ!!」
会長が刀を振り抜くと同時に、不恰好なまま後方に倒れこみながら目の前に氷の壁を造形した。
この技には結構慣れてきていて、すぐに展開できるようになっていた。
会長の放った斬撃は、カガリさんの大技を打ち消した溶けない氷の壁に、クッキリと刀の跡を残した。
体勢を崩して後方に倒れ、刀に対して斜めに氷の壁が造形されたおかげで、会長の剣先は俺まで届かなかったようだ。
「ティファの言っていた通りのようですね…」
嬉しそうに呟いた。
「本気で死ぬかと思いましたよ…」
「これで遠慮なく能力を使えますね」
「え…?」
さっきの移動は超能力じゃなかったのか…?
そんな馬鹿な…
「その技、確かに物凄い防御力のようですが、それではまだ足りませんよ」
再びこっちへ向かって走り出した。
今度は速いと言っても眼で追える程度の速さで
「氷の弾丸っ!」
こちらへ向かってくる会長めがけて、さんざん練習した氷で作った弾丸をとにかくたくさん放った。
まるで豆腐でも斬るかの如く、その全てを斬り落とし、構わず前進してきた。
彼女が俺の目の前に来たところで先ほどと同様に、今度は、より分厚い壁を広範囲に展開した。
先ほどと同様に前から斬り込んでくると思い込んでいた俺は、一瞬のうちに会長の姿を見失った。
キィィィィンッ!
後ろから振りかざされた会長の刀と俺の張った氷が衝突し、高い音が鳴り響いた。
目の前から会長が消えた瞬間に全身を氷で覆っていた。
刀を持ったままの会長に尋ねた。
「会長の能力は瞬間移動なんですか…?」
だとしたら最初の移動も超能力ということになってしまうが…
「いいえ、最初のあれは正真正銘身体的なものです。」
「だったらどうやって…」
「私の能力は『影の操作と移動』で、影から影へ移動したり、影を使って分身を作ったりと様々ですが、今使ったのは影への移動の方ですよ」
「なるほど…」
剣技だけでも相当なもんだというのに、影を操る能力完備とくれば、そりゃあ強えわな…
「完璧に後ろをとったと思ったのですが、まさか自分の体ごと覆うなんて…予想外でした…」
「いえいえ、今のは会長が寸止めする気で剣を振ったから防げただけで、前の壁にほとんど力使ってたんで、普通に斬り込んでれば、今頃俺の首と胴は繋がってなかったでしょう…」
ははっ、と笑いながら言ってみたのだが、よくよく考えてみると全然笑えない…
「ほとんどの新入生は最初の一撃で終わるでしょうから、十二分に自信を持ってよろしいかと思いますよ?」
「はぁ…」
「これで、より一層、アヤセさんへの期待が高まりましたわ」
変わらぬ美しい笑顔でそういった。
時刻はすでに22時を回っていた。
「そろそろ遅くなったんで帰りますね」
「そうですね、今度はぜひ優勝祝いをご馳走させて下さいね」
そんな期待されても…
結局さっきの勝負も会長が本気でやっていないのが何となく伝わってきて、あまり自信にはならなかった…
ははっと苦笑いをしてエレベーターに乗り込むと
「その時はぜひ、泊まっていって下さいね」
長い黒髪で和装がよく似合う清楚な感じの彼女からは、とても予想がつかないセリフがでて、驚き、一瞬戸惑ったのだが…
閉まるエレベーターのドアの隙間から顔を真っ赤にしているのがみえて、あまり言い慣れていないのが伝わってきた。
エプロンの時と同様に、強く可憐な藤堂会長の可愛い姿は、割とマジで反則です…