013話 猫好きの少女
しばらく追っていると再び見覚えのある場所へやってきた。
この綺麗な建物はこの前迷い込んだ時に見た気がする…
「さすがにその手にはもう引っかからないぞっ」
建物の柵の外で小動物が出てくるのを待つことにした。
いくら入ってないとはいえ、女子寮を長時間見ていたら、それはもう入ってなくても十分アウトだった。
小一時間くらい経って
「ん?」
視線を感じて振り返ると、銀髪ショートヘアの小柄な女生徒が少し離れたところからこっちを見ていた。
「キャー」と騒ぐわけでもなくただひたすら「じーっ」と見ていた。
「えーっと…」
どうしたらいいんだろうか…
「何かよう?」
開き直って聞いてみた。
「……」
何も反応はない。
「………」
こちらも見つめてみた。
「………」
しかし反応はない。
「んー」
なんも思いつかん。
「あっ!」
考えていると柵の中から猫が飛び出してきた。
「うぉぉっ」
と飛びかかり、再び小動物を捕まえた。
「はぁはぁはぁ…かあれ?カードキーは?」
その猫は何も咥えていなかった。
「なんだ、妙にあっさり捕まったと思ったら、お前もう一匹の方か!」
がっくしと肩を落とすと、先ほどまで無反応だった少女が無言のまま微妙に近寄ってきた。
「猫すき?」
「別に…」
おぉ、喋った!
これ絶対猫好きだ!
そう思って抱えていた猫を少女の方に向けると、無表情のままピクッと少し反応した。
「やっぱり猫好きでしょ?」
「別に…」
猫を少女から遠ざけると、今度は、あからさまに落ち込んだ。
ちょっと楽しくなって何度か繰り返した。
「はっ…!」
いかんいかん
猫を少女の方に向けて
「撫でてみる?」
と聞くと無言で頷き、無表情のまま猫を撫で始めた。
「キミの猫なの?」
普通に喋れるんじゃないか…
「いや、多分野良だと思うけど…?」
「そう…この子に免じて覗きは見逃してあげる」
「本当にっ?ありが……って!覗きじゃないからね!?」
猫に夢中でまるで聞こえていないようだった。
もう一匹の猫がいる柵の向こうの大きな木を指差して言った。
「そうだっ、あそこにコイツと同じような猫がいるから捕まえてきてくれない?俺その猫に寮の部屋の鍵取られちゃってさ…」
我ながらなんて情けない事だろうか…
猫に鍵を奪われ、見知らぬ少女に助けを求めるなんて…
「………猫に鍵を…?」
「そうそう!」
「ぷっ…」
と小さく笑うと、抱えていた猫をおろして、もう一匹の猫のいる木に手を伸ばした。
「ん…?なに…してるの…?」
その短い手が届くはずもなかった。
「空間転移」
変わらぬ無表情のまま、両手を前に伸ばし、木の上の猫を自分のところまで一瞬で移動させてしまった。
「おぉー!」
素直に驚いたのでパチパチパチっと拍手して称賛した。
「バカにしてるの…?」
こちらを睨みながら不機嫌そうに言った。
「いやいや生で初めて見たから普通に驚いた」
「初めてって…変な人…」
「キミには言われたくないよっ、それよりカードキー取ってもらってもいいですかね…?」
女生徒の抱えた猫が咥えているものを指差して言った。
「………」
「本当だったのね…ただの変態さんかと思った」
「誤解が解けて何よりだよ」
たいして離れてもないのに超能力でカードキーを渡してきた。
「この距離でわざわざ能力使わなくても…自分でできることは、楽せず自分でやった方がいいと思うぜ?あれ?今俺いいこと言ったくさくね?」
「変態にはあまり近づかない方がいいかと思って」
「あっれー?まだ誤解解けてなかったの!?」
「そろそろ戻らなくちゃ、バイバイ、変態さん」
華麗にスルーして、地面に優しく猫をおろし、ゆっくりと女子寮の門をくぐっていった。
結局彼女は誰だったのだろう…