001話 プロローグ
今から約18年前、生まれたばかりの赤子に超能力を持つものが現れ始めたのをきっかけに、この世の仕組みは一変し、子供でありながら絶大な権力を誇る者まで現れだした。
そして今、この世界には各国から選りすぐりの超能力者を集めた学園都市が7つ存在し、超能力の研究と強化を試みていた。
この超能力に後発型というものは未だ発見されておらず、大人に超能力を使える者はいなかった。
正確には、18年前から現れたので、現在の学園都市にいる3年生が第一世代ということになる。
高校一年になった俺、綾瀬リンは、日本の一般的な高校への入学式の日を迎えた。
「リンっ!」
「おう、おはよっ」
小さい頃からの腐れ縁の佐藤タカアキと同じ高校を受験し、見事二人とも合格。
そして今、生い茂る木々の隙間から太陽の光が差し込む綺麗な自然公園を通って、一緒に入学式に向かっていた。
公園を抜けると、空に浮かぶ宣伝用飛行船のモニターに学園都市の盛大な入学式のニュースが流れていた。
「いーよなー、あいつらは、超能力を持って生まれたってだけで、将来安泰だもんなぁ」
羨ましそうにモニターに映る学生を見ながら呟いた。
「そうとも限らないだろ?超能力を持って生まれた奴は強制的にくだらない争いに巻き込まれるんだから、俺はこの気楽な人生の方がよっぽどいいさ」
「まぁ、確かに、リンにはこっちの方があってるよね」
後方から、これまた幼馴染の瀬織アヤノが会話に入ってきた。
「おはよっ!二人とも」
「おうっ」
と軽く挨拶をして三人で高校へ向かった。
一般の高校の入学式ってのは、まぁ特に何も面白いもんもなく、普通に午前中で終わった。
高校の校門で立ち止まった。
「どっか、飯食ってく?」
タカアキが言うと
「いいねっ!いこいこっ」
「どこに?」
「うーん」
「そーだっ!学園都市に行った日本の特待生の式典あるんじゃなかったっけ?見に行ってみようぜっ!」
目をキラキラさせながら提案した。
「いいねっ!それ!」
「えー、面倒くさいんだけど…ワックとかでテキトーに済まそーよ」
「ブツブツ言ってないで行くよっ!」
「早く来ないと置いてくぞっ」
俺の意見など聞く間もなく、二人は走り出していた。
式典のせいか、昼間だというのにいつもより混み合う電車の中で
「それで?どこ向かってんの?」
「式典だろ?」
「式典の場所は?」
「セントラルに飛行船が来るらしいからその辺じゃない?」
「なるほどね」
はぁ、めんどくさい。
式典なんて絶対人混みハンパないじゃん…
電車とバスを乗り継いで、セントラルへ向かっているのだが、すでに車内が大混雑で、どんどんモチベーションが下がっていった。
乗り換えた電車は式典会場に直通のもので、さながら通勤ラッシュのようだった。
「すっげぇーなっ!これみんな式典見に行くのかな?」
満員電車で押し潰されながらタカアキが叫んだ。
「そうでしょっ」
アヤノも元気いっぱいだった。
「だから嫌だったんだ」
ボソリと呟いた。
なんでこんなに元気なの…
「ふぅ、やっと着いた…」
電車を降りると、一息つく間もなく
「いててててっ」
と降りる乗客に道の端まで追いやられた。
「もうっ、何してんのっ!」
「早く行くよっ!」
本当に、なんであんなに元気なんだろうか…
改札を出ると、会場までの道は、既に道が見えないくらい人で溢れていた。
「飛行船が来るのは1時間後っぽいね」
「先に飯食おうぜっ」
「おっ、それには賛成」
もう腹ペコだ。
「まったく…」
呆れる二人を他所に、近くにあった案内地図で店を探した。
そして適当な店で昼食を済ませると飛行船到着まで残り僅かとなっていた。
「どっから見ようか?」
「んー、この辺混むよね〜」
辺りを見渡して見物できそうな場所を探し始めた。
「あっ!あの歩道橋なんかいんじゃねぇか?」
昼食を食べた店の前から、遠くに大きな歩道橋が見えた。結構離れてるせいかそんなに人も多くなさそうだった。
「よさそうだね、私ちょっと、あっちのモールで買いたいものあるから先行ってて」
「おうっ」
と別れ、タカアキと歩道橋へ向かった。
歩道橋に登ると人混みの先の上空に既に飛行船が見えていた。
「おっ!あれじゃね?」
はしゃぐタカアキを横目に俺は一人、空の雲を眺めていた。
よく晴れた穏やかな日だった。