第12話 転校生来る
一ヵ月近くも開けてしまいました。誰に文句を言われているわけでもないですが、週一で投稿すると自分で決めておいてこれはないかなと反省しています。
例の魔法道具から解放され、ホテルに戻った後に英雄はことの詳細を桃覇に話した。桃覇はそれを黙って聞き、聞き終えたら英雄を褒め称えた。英雄はそれが照れくさくて、否定していた。その様子を舞は羨ましそうに見て、ラミはニヤニヤしながら見ていた。
翌日、地元の駅まで戻ると舞の母親が車で迎えに来ており、家まで送ってもらえることになった。道中、舞の母親から礼を言われた。英雄はそれに対して、舞と旅行に行ってあげて欲しいという話をした。今回の旅行、本当は両親と行きたがっていただろうということを理由として上げ、舞はそれを認めた。それを受けて、舞の母親は、次の機会に舞と一緒に旅行に行くことを約束した。
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夏休みも明け、だるそうに桃覇と一緒に登校する英雄がいた。
「あぁー、暑いしだるい。」
「夏はいつでもそうじゃないの?」
「そうだが、だるいのは学校だ」
「……もう引き籠ったりしないでね」
「もうしねぇよ。これ以上、迷惑掛けるのも嫌だしな」
「よかった」
学校の駅近くまで辿り着くと桃覇が思い出したように話す。
「そういえば、今日転校生が来るらしいよ」
「へー」
英雄は興味なさそうに返事を返す。
「わかってたけど、興味なさそうだね。一緒のクラスになるのに」
「そうなのか。面倒事にならなきゃいいけど」
「心配事はそこなんだね」
「興味ないからな」
学校に着き、教室が違うために別れる。転校生が来るせいか少しざわつき気味の教室にどうでもいいなと思いつつ席で時間が来るのを待つ。始業式で話を聞き流し、教室に戻ってくると担任と噂の転校生が現れた。
「湊火央凛です。女の子みたいな名前ですが男です」
髪は長い上に白く、肌も病的な白さだった。細身の体型は風が吹けば倒れてしまいそうな程だった。担任からの話によると、これまでほとんどを入院生活で過ごしていたため身体が弱いらしい。
席は英雄の隣になった。
「よろしく」
「あぁ」
短くそう返事をした。
本人が病気だったという話を聞いていたためか、質問攻めをしようとする者はいなかった。その雰囲気の中、気遣って仲良くしようと話しかける人に対して、湊は極めて自然体に応えていた。
昼休み、いつものように桃覇が英雄を一緒に昼食を取るためにやってきた。
「英雄! 一緒にお昼食べよ」
「まったく、いつもいつも……」
自分を下の名前で呼ばれることに小さく不満を垂れる。毎日のように繰り返され、慣れてしまったため言い返すこともなくなっていた。
「ちょっと」
英雄は湊に袖を掴まれた。
「何だ?」
「僕も一緒に行っていいかな?」
英雄は拒否しようかとも思ったが、隣に居る人間との仲を悪くする必要もないかと思い了承した。
外は暑いためか中庭に人に姿は見えなかった。英雄は人が居ない所が好きだったため、そこで昼食を取ることを提案した。桃覇と湊はそれに反対しなかった。木陰をなんとか見つけ、そこに座る。英雄も桃覇も弁当を持ってきていたが、湊は水しか持っていなかった。
「あ、悪い。購買に寄った方がよかったか?」
「いいよ。何も食べなくても平気だから」
桃覇はその言葉で湊を心配し始めた。
「本当に大丈夫? 私のお弁当あげるよ?」
「ありがとう。でも、大丈夫だから」
そう言って、湊はサプリメントを口に入れ水で流しこむ。
「なにかしら食わないとそのうち倒れるぞ」
「いつものことだから平気だよ」
桃覇と英雄は少し罪悪感を覚えながら、弁当を食べた。途中何度も弁当を分けようとしたが、湊はそれを断った。
「そう言えば、英雄ってあだ名かい?」
「いや、本名だよ。小郷英雄(こざと ヒーロー」
「そうなんだ。やっぱり、からかわれたりするの?」
「……普通、そんなこと聞くか」
「あ、ごめん。悪気はないんだ。僕は女の子みたいな名前だからさ、学校に行ってたらからかわれたのかなって」
英雄はそれで気まずくなった。湊には湊なりの悩みがあるのだと反省した。
「へぇー。そう言えば、私転校生君の名前聞いてなかった」
「僕は湊火央凛って言うんだ」
「ホントに女の子みたいな名前だね。私は古道桃覇って言うんだ」
「なんだか、勇ましい名前だね」
「私もそう思う。だから、もう少し女の子っぽい名前が良かった気もするけど、自分の名前は好きだよ」
「そうなんだ。僕もだよ」
桃覇と湊は楽しそうに笑う。英雄は不快な気分になっていた。その理由は、名前の話をされたからか、それとも桃覇が楽しそうに話しているせいか。自分自身でも分からなかった。
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放課後、英雄はあることを考えていた。英雄は、桃覇の父である武に言い渡されたトレーニングをでき得る限り毎日行ってきた。今までトレーニングをしたことがなかった英雄だったが、不思議なことに苦痛はほとんどなかった。疲れこそすれ、筋肉痛が起きたりすることはなかった。それでも、筋肉がついてきたことを実感できるぐらいに体格が良くなっていた。そろそろ技を教わってもいいのではないかと思い、道場に向かうことにした。既に武と連絡を取り、桃覇が来ないことを確認していた。
「古道さん」
「やぁ、見違えたな英雄君」
「わかります? 自分でもだいぶ筋肉が付いてきたのが実感できました」
「それもあるが、君は既に私や桃覇の領域に近づきつつある」
「え? でも、トレーニングしただけなんですけど」
「後は、感覚的な説明になるからそれを自覚できるかにある」
トレーニングを決心してここに来た時も思ったことだが、それとは魔力のことを指しているのではないかと思った。もしそうなら、自分が思っているより早く習得できる予感がしていた。
「英雄君は、気とか気功術というのは知っているか?」
「漫画とかでは良く聞きますね」
「信じられないかもしれないが、イメージ的にはそれに近いものが君や私にはある」
ある意味予想通りだと英雄は思っていた。桃覇も魔力を持っていたことから考えられることだった。
「多分、気とは違うんだろうが、見えない力が身体の内にあるという点では一緒だ。それを引き出すことで、一気に破壊力を高める」
武は、道場の壁を殴ると拳は壁を貫通する。
「極限まで高めれば、威力はもちろん反動による痛みもない」
「そこ壊しても大丈夫なんですか?」
「あっ……! ママに怒られる……」
武は、一瞬しょんぼりすると咳払いをして真剣な顔に戻る。
「この体の内にある力を自覚できれば、今すぐにでもこれぐらいの破壊力を出すことが可能だ」
「すみません。多分ですけど、その力の正体、知っています」
「……え?」
「推測の域は出ていませんが、今日これで確信に変わる気がします」
英雄はポケットティッシュを取出し、掌に置いた。
「いきなり、なんだい?」
「今から見せるのはマジックでもなんでもありません。小さいころから隠してきた力です」
英雄は掌に集中するとティッシュは風に吹かれたように空中に浮かび上がった。英雄に一切の挙動はなかった。
「ただの手品みたいに見えたと思いますけど、この力が古道さんの言う力なのではないかと思っています」
「それが本当なら君は確実に私を超えられる。誰も会得できなかった奥義も使えるようになるかもしれん」
「本当ですか!?」
誰も会得できなかった奥義という言葉に心惹かれた。英雄の目は今までになくキラキラと輝いていた。
「あぁ、本当だとも。君は私よりこの力に詳しいようだしね。さぁ、そろそろ話は終わりにして技を教えよう」
それは技を教えるというよりは、盗めという方が近いものだった。武は普段、破壊力を増す術を一瞬で行うが、その過程をゆっくり行い英雄に見せた。それをマネさせるという教え方だった。言葉では説明できないのでそうすることしかできないとのことだった。
「これが古道流の基本型。鉄心体だ。やってみなさい」
英雄は見様見まねで、武と同じ動作をする。なんとなく力が腕に込められているような感じがしていた。
「良い感じだ。そのまま私に打ってみなさい」
「わかりました」
武はボクシングのミットを構えるように両手を出す。
「はっ!」
掛け声とともにパンチを放った。英雄は遠慮しなかった。する必要もないと思っていた。パンチが当たると予想以上の反発が起きる。
「うおっ!」
武は、そのまま尻もちを着いた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「うむ……手の骨にヒビが入ったかもしれん」
「そ、それって……大丈夫じゃないじゃないですか!」
「問題ない。一日あれば治る。それより、やはり君には素晴らしい才能があるようだ」
「そ、それよりって……」
「古道流を覚えれば怪我の治りも良くなる。常人の何倍、何十倍もな。だから骨にヒビが入ったぐらいじゃ、大したことない」
「そうですか」
怪我をさせて申し訳ないと思ったが、本人が大したことないと言っているので問題ない……でいいのだろうか。
「それと気になることが一つ」
「なんですか?」
「そこで見ているのは君の友達かな?」
「はぁ?」
武が指をさした方向をみると、湊がいた。
「な、なんでお前がここにいるんだよ!」
「いや、気になったからつい」
「ついでこんなところまで来るやつがいるかよ!」
学校からここまで二時間近くはかかる。
「だって、気になって……」
英雄は呆れてため息を吐く。
「なぁ、このことは誰にも話さないでくれよ」
「どうして?」
「別にいいだろ。知られたくないんだよ」
「いいけど、条件が一つ」
「何だ?」
「僕もここで鍛えたい」
「はぁ!? そんなことできるわけ……」
「いいぞ」
英雄は勢いよく武の方を見た。
「なんで!?」
「門下生はいくらでも欲しい。断る理由がない」
「そ、そりゃそうかもしれないですけど……」
「何をそんなに嫌がっているんだ?」
「コイツがなんか気に食わないだけです」
湊はその言葉に若干ショックを受けたようだった。
「それで君はどうしてここで鍛えたいと思ったのかな?」
湊は話しかけられて、少し間が空いた。
「あっ、僕ですか? 僕は小さい頃から病気がちで一時は命に係るような重いものにかかったこともあります。それで少しでも丈夫な体が作れたらと思ったんです」
「いい心がけだ」
武は腕を組んでうんうんと肯く。
「君も何か変わった資質を持っていそうだ」
武が湊の傍に近寄った。すると一瞬何かが光ったように見えた。
「どうしました?」
湊が尋ねる。
「あ、いや、なんでもない」
武は、何故か狐につままれた様な気分を味わった。それは、英雄も同様だった。何かが無くなった。というよりは感じられなくなった。そんな感じだった。
「それでは、今日のところは帰ります。次の土曜から通わせてください」
武は、快く了承した。
「さよなら。古道さん。小郷君」
湊は、道場を立ち去った。
「なんだか不思議な男だな」
「不思議というより不気味な気がします」
「まぁ、そういうな」
英雄はそれに対して無言だった。
「……俺も帰ります」
「そうか。それじゃ、帰る前に渡したいものがある」
武は道場の奥から一つの巻物を持ってきた。そこには古道流奥義書と達筆な字で書かれていた。
「これって……」
「奥義書だよ。と言っても、私にはここに書かれた技を一切使えないし、そもそも中身が日本語じゃないから読めない」
「それって、俺が持つ意味あります?」
「君になら理解できるんじゃないかと何となく思っただけだよ」
英雄はジト目で武を見た。
「お、信用してないな。古道流を極めた者の勘は良くあたるぞ。勘で宝くじの4等を何回か当てたことがある」
今まで何回買ったかは知らないが、微妙だ。いまいち、凄さがわからない。しかも、それは勘というよりは運だ。
「あー、余計に微妙な雰囲気になってしまったな。そうなってしまった、ついでにもう一つ。正直、私が古道流で使える技は鉄心体しかない」
「え?」
意外な真実にポカンとしてしまう。
「これだけ使えれば相手も鉄心体を使わなければ、攻撃のほとんどが必殺になってしまうからな。覚える必要がない。それでも、さらに君が力を求めるならそれしかないだろ?」
武が奥義書を指して言う。
「つまり、もう俺がここに来る必要はないということですか?」
「あれだけ使えれば必要はないな。まぁ、何か困ったことがあったらいつでも来るといい」
「ありがとうございます」
「それじゃ、また機会があったら会おう」
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英雄は家に帰って早速、奥義書を開いた。
「これは……!」
そこに書かれていた文字は英雄にとっては馴染みの深いものだった。それはいつか解読した封印の本と同じ文字だった。
やる気のない次回予告
英雄「ようやく強くなれそうな予感」
モブ女「キャー!」
チンピラ「へっへっへ」
英雄「危ない!」バキッ!
チンピラ「ぐぉっ!」バタン
英雄「大丈夫ですか?」キラン
モブ女「は、はい」ドキッ
という夢を見たのさ。
英雄「なんてテキトーな」
天城「こんなことがあるかもしれない次回「祭りに近づく呪いの影」是非見てください」