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第11話 ハッピードリーム

一日遅れてしまいました。すいません。しかも、急展開すぎです。

 目を開けていられないほどの眩しい光に包まれていた。その光はだんだんと消えていき、やがて完全に消えた。そこで、英雄が目を開けるとそこは岩場ではなかった。周りを見渡しても誰もいない。遠くから声をかけていたラミもすぐ目の前に居た舞の姿もどこにも見えなかった。

 自分の立っている場所は、見たことがない住宅街だった。自分の格好はいつの間にかスーツに変わっている。そして、目の前にある一軒家の表札には小郷とある。しかも、その家は英雄の家と大きさもデザインも全く一緒だった。


「一体、何が起きたんだ……」


 とにかく自分の居場所を確認するためにスマホを出す。GPSで自分の居場所を確認すると自宅前だった。見た目こそ自分の家そのものだが、周りの景色が違うために受け入れられなかった。まるでここにしか家がないような暗闇しか見えない。街灯は見えるし、近くに家も建っているようだが、灯りが点いているのは自分の家だけだ。時刻はまだ午後の九時だ。この時間帯でほとんど全ての家の灯りが消えているのはおかしい。

 次にラミに連絡を取ることにした。


『この電話番号は現在使われておりません』


 英雄は再び困惑した。電源が入っていないとかならまだわかったが、使われていないということは既に解約したということになる。ついこの間まで使っていたのにそんなことが考えられるだろうか。

 次に桃覇に連絡を取ることにした。


「……頼む、出てくれ……!」

『もしもし?』

「桃覇か!? よかった……」


 声が聞こえた瞬間、英雄は少し安堵した。


『一体、どうしたの? そんなに慌てて』

「どうしたのって、舞ちゃんがいなくなって探していたらいつのまに自分の家? の前に居てだな……」

『何言ってるの? それに舞ちゃんがいなくなったっていつの話をしているの?』

「ついさっきだろ。お前とラミと俺で探していただろ!」

『一体、何年前の話をしているのよ。確かに、そんなこともあったけどね。それより、今、家の前なんだよね?』

「そ、そうだけど、何か変なんだよな」

『そうなの? とりあえず、中で話そうよ』

「は?」


 玄関の扉が開くと桃覇の姿が見えた。小走りで、英雄に寄る。


「ど、どうしてお前がここに!?」

「どうしてって、夫婦なんだから当たり前じゃない」

「はぁ!? つまり、結婚したってのか!? 俺が! お前と!?」

「な、なんでそんな否定的なの!?」


 桃覇がショックを受け項垂れる。


「結婚六年目にして、もう離婚の危機なの……?」

「おい、六年って一体……」


 桃覇を再びよく見ると、以前より女らしい体型になっていた。周りのいつもと違う景色を見る。自分は未来にでも来たのだろうかという疑問が湧いてきた。


「どうしたの? 様子がおかしいよ?」


 心配そうに英雄の顔を覗き込む。


「わからないんだ……何が起きたのか……」

「とりあえず、家に入ろう? 詳しい話を聞かせて」


 優しく背を叩き、英雄の手を引いて家に入る。玄関に入ると桃覇に似た小さな女の子が駆け寄って来た。


「おとうさーん、おかえりー!」


 英雄は内心ひどく慌てていたが、幼い女の子に冷たい態度は取りたくないので父親のふりをすることにした。


「ただいまー! 良い子にしてたか?」


 膝をかがめ、目線を合わせて頭を撫でる。


「うん!」

「そうかぁー、偉いなぁ」


 女の子は嬉しそうに眼を細める。


「ほら、桃香そろそろ寝なさい」

「はーい」


 桃香と呼ばれた女の子は、二階に上って行った。

 桃覇と英雄は、リビングに向かった。テーブルを挟んで向かい合わせに座る。


「それでどうしたの? 英雄」

「その前にさ、あの女の子って俺の娘なのか?」

「自分の娘のことを忘れたの!?」

「……記憶にない」


 少し怒り混じりの質問に気まずそうにそう答えた。


「記憶喪失……なの?」

「わからん。でも、俺はついこのさっきまで岩場に居たはずだ。そこまでの記憶はちゃんとある」

「だいぶ前ね」


 だいぶ前という発言で、今が何年なのかが気になった。


「結婚六年目って言っていたな。今年は何年だ?」

「20XX年よ」


 それは、英雄のいた年から14年後だった。


「マジかよ……抜け落ちすぎだろ……」

「どうするの?」

「俺には記憶を失った自覚はないが……なんだか俺だけ置いてけぼりにされた気分するからな。その記憶を取り戻したい」


 英雄は決心を固めた。


「英雄……!」

「そのためにとりあえずは病院にでも行くか」

「そうだね。それじゃあ、方針も決まったことだし、お風呂にする? それともご飯?」

「……お前からそんな台詞を聞く日が来るとはなぁ」

「ど、どういう意味!?」

「いや、深い意味はない」


 英雄は少し笑った。


 その後、普通の家庭のようにお風呂に入り、夕飯を食べ、今までにない心地を味わった。現在と対して変わらない生活のはずだが、桃覇が居る。娘が居る。それが、何故だかとても心地よかった。


 時刻は午後十一時を周っていた。


「そろそろ寝ようか」

「少し早い気もするけど、まぁいいか」


 英雄はいつものくせで二階の自分の部屋に向かう。そして、桃覇も一緒に入ってきた。


「あれ? 俺の部屋ってこんな感じだったか?」

「何を言っているの? そう言えば記憶が無いんだっけ……ここは私たちの寝室よ」

「ちょっと待て。ここにはベッドが一つしかないぞ」


 ダブルサイズのベッドが一つ置いてあった。


「一緒に寝るから問題ないでしょ? 夫婦なんだし」

「え、あぁ、まぁ、そう、なのかもしれん」


 二人でベッドに入り、英雄の心臓はこれまでにないほど早く鼓動していた。英雄は、桃覇に背を向けて眼を閉じる。


「ねぇ、英雄。もう寝ちゃった?」


 寝れるわけねぇだろとツッコミたかったが、口に出せなかった。桃覇が少し動いたかと思うと英雄の背中にピッタリとくっついた。


「不安だよね。記憶がなくて……当時、私のことを好きじゃなかっただろうし」

「それは違うぞ」


 英雄は桃覇の方を向いた。


「不安が無いとは言わないが、俺は昔からお前のことが……嫌いだと思っていたけど」

「嫌いなの!?」

「ずっと気になってた。この左眼の傷のこともあるけど、本当はその前から好きだったからな」


 英雄と桃覇は互いに名を呼び、そのまま顔を近づけていく。唇が触れそうなほど近くなった時、視界がひっくり返った。


「痛ってぇー!」


 体はベッドの下敷きになった。


「そう言う台詞は現実で言ってあげなさい」


 ベッドからなんとか這いずりでて、桃覇も一緒に救い出す。


「別にそれを助ける必要ないのに」


 そう言ったのは、ラミだった。


「どうして、お前がここにいるんだよ?」

「あなたはここが未来の世界だとでも思っているんだろうけど、この世界の真実はただの夢よ」

「はぁ!? 何言ってんだよ。現実に俺には娘だっているんだぞ!」




「まったく、性質が悪いわね」


 ラミは英雄の胸倉を掴んだ。


「歯を食いしばりなさい!」


 ラミは往復ビンタを喰らわせた。何度も何度も。英雄は止めろと口に出したくても、速すぎるビンタで口を開くこともできなかった。


「はい、おしまい」


 英雄は頬が腫れあがっていた。


「なんでこんなことすんだよ!」

「周りを見れば答えがわかるわ」

「どういうことだ」


 ラミに言われた通り周りを見た。その景色は真っ白で何もない空間だった。上も下もわからない。地面に立っているのかさえあやふやになりそうな景色だった。


「ここは魔法道具の中よ」

「それじゃあ、今までのはなんだったんだよ?」

「さっきも言ったけど、夢よ。この魔法道具が作り出した幸せな夢」

「別にそんな幸せでもなかった気がするが……」

「満更でもなかったくせによくそんなことが言えるわね」


 英雄は図星を突かれ、何も言い返せなかった。


「単なる痛みで現実に引き戻すことができたのは、ラッキーだった。もう少し、あの子の近くに居たら簡単には引きもどせなかったかもしれないわ」


 英雄はあの子という言葉で舞を探していたことを思い出した。


「そう言えば、舞ちゃんは!?」

「あの子も今頃、夢の中よ」

「そうか……もしかして舞ちゃんもああやって起こすのか?」

「今度は殴っても覚めやしないわ。最も強く魔法道具の効果を受けているだろうからね」

「それで、どうするんだよ?」

「とりあえず、見つけてから考えるわ」


 ラミは真っ白な空間を歩き始めた。英雄はそれに続いて歩く。


「そういや、ラミも夢を見ていたのか?」

「見ていたわ」

「よく自力でどうにかできたな」

「この魔法道具ハッピードリームの製作者なんだから当たり前でしょ」

「それならなんとかできないのかよ」

「なんとかするために今、行動してるんでしょうが」

「そういやそうだった」


 数分とかからず眠っている舞の姿を見つけた。ラミと英雄はそばに近寄り、様子を見る。


「大丈夫なのか?」

「さっきも言った通り、夢を見ているわ。夢から覚めなきゃここから出ることは叶わない」

「それでどうすれば起こせるんだ?」

「夢から目覚めさせる条件は二つ。一つは、夢だと自覚させること。もう一つは、ここから出たいと思うこと」

「……一体どうやってそれをこなすんだ」

「今からこの子の夢の中に入る。ちょっとこっちに来なさい」


 ラミは英雄の腕を掴み、もう片方の手で舞の額に触れた。そして、景色は一瞬にして変わった。英雄にとってもラミにとっても見覚えのない家の前に立っていた。表札には美濃の文字が書かれていた。


「どうやらあの子の家の前みたいね」

「俺の時と同じような感じか」

「それはわからない」

「それでどうするんだ?」

「とりあえず、ぶち壊す」


 ラミは玄関を破壊して中に侵入する。


「そんなことしていいのかよ!」


 そう言いながらラミについて行く英雄。


「どうせ夢の中よ。現実には関係ない」


 リビングの中に向かうと舞とその両親と思われる人物が居た。両親は舞を守るように抱いていた。


「舞、ここから出るわよ」

「どうして私の家からでなくちゃ行けないの?」


 舞の目は、ラミを見据え怒りに満ちているのがよくわかった。


「ここはあなたの家じゃない。夢の中よ」

「何言ってるのよ! そんなわけないでしょ」


 舞の両親は、舞を気遣い言葉をかける。何を言っているのかは英雄たちにはよく聞こえなかった。

 英雄はラミに近寄りそれでは駄目だと諫めた。その姿が、舞の視界に入った。


「お兄さん! どうしてここに……!?」

「さっき、ラミがいっただろう。ここは君の夢の中だ。そして、君を夢から覚ますためにここに居る」

「お兄さんもそんなことを言うの……」


 両親の腕の中で震える舞。しばらくすると顔を上げた。


「こんなのお兄さんじゃない!」


 両親の腕を払い、舞は立ち上がった。


「今の私ならなんでもできそうな気がする……」


 舞は何もないところで手を横に振った。


「う、動けない……! 夢だからってなんでもありか!?」

「彼女自身の夢だから当然と言えば当然ね」


 英雄もラミも体を微動だにできなくなっていた


「お父さん、お母さん! 悪いやつらを捕まえたよ!」

「あぁ、よくやった」

「すごいわ」


 両親は、舞を褒めたたえる。本来、異常な事態であるにもかかわらず両親になんの戸惑いも見えないのは夢であるが故なのだろう。所詮は、子供が作り出した想像に過ぎないのだろうと英雄は思った。

 そこで英雄は一つ賭けを思いつき、ラミに口を出さない様に言い、ラミはそれを了承した。


「なぁ、舞ちゃん」

「何? 偽物のお兄さん」


 思い通りにならない存在である英雄は、舞にとってもはや偽物あるいは邪魔者としか思えなくなっていた。


「本当にここは現実だと思うか? 君はそんな力を使えたのか?」

「そ、それは……でも、こんな幸せな世界捨てたくない。夢なら覚めて欲しくない!」

「自分にとって都合のいい世界はとても居心地が良いと思う。嫌な思いをすることもない。覚めない夢なら現実と変わらないかもしれない。けど、ずっと幸せであるというのは退屈と大差ないんじゃないか?」

「何言ってるのお兄さん? 幸せなんだから退屈なわけないでしょ!」


 何を馬鹿なことを言っているのだと舞は怒った。


「そうでもない。人はどんなことでも慣れる。幸せに慣れればその幸せは感じられなくなっていく」

「それなら新しい幸せを見つければいいでしょ!」

「新しい幸せもいつかは慣れる。それを繰り返せばいつかは尽きる。夢の中は一人の想像の産物でしかないからな」

「……それならどうしたらいいの?」


 舞は大人びているとはいえ、まだ子供であるため想像力と思考力に乏しく説き伏せられていた。


「帰ろう。現実の続きで幸せを探せばいい。現実の方が予想もできない幸せがあるかもしれない。それに、どうせなら自分の力で幸せを手に入れた方がいいだろ?」

「わかりました。私は現実に帰ります。でも、条件があります」

「なんだい?」

「私と付き合ってください」

「考えておくよ」

「嘘ですね」


 舞は英雄の発言に食い気味にその言葉を発した。英雄はそれにギクリとした。


「でも、いつか奪ってみせます。略奪愛です」

「アハハ……」


 英雄は乾いた笑いが出た。ラミと英雄の身体の自由が戻り、しばらくすると周りの景色は一瞬にして白くなった。


「これでようやく出られるわ」

「一体、何時間かかったことやら……」

「そんなには経ってないと思うわ」


 舞はその発言に驚いた。


「私、一週間はあの夢の中に居たと思ったんですけど!」

「夢の中って、時間の流れが一定じゃないからね。実際は一時間も経ってないわ」

「そうなんですか……」


 ラミはブツブツと何か呪文を唱えると景色は元の岩場に戻っていた。ラミは即座に魔法道具ハッピードリームを回収した。


「英雄―! ラミちゃーん! 舞ちゃーん!」


 遠くで桃覇が呼んでいる。


「舞、桃覇が呼んでいるわよ」

「ラミちゃんも呼ばれてるじゃない」

「あなたを探して来たのだからあなたが行ってきなさい」

「わ、わかったよ」


 ラミと舞がらしくない会話をしているなと英雄は傍から聞いていた。


「それで、あなたがあんなことを思っているなんて意外だったわ」

「別にそんなんじゃない。それにほとんど漫画やらアニメやらゲームやらアニソンやらの受け売りだ」

「……! やはり素晴らしいのね、あの作品たちは」


 ラミは何故か感激を受けているようだった。


「そんなところで共感できるのはこっちにとっても意外だよ」


 ラミに変な親近感を覚える英雄だった。


だいたいしかあってない次回予告


ラミ「あなたって桃覇が好きだったのね」


英雄「別にそんなんじゃねぇよ」


ラミ「それじゃ、あなたが見ていた夢を桃覇に教えてこようかしら」


英雄「やめろ」


ラミ「冗談よ。それで夏休みは終わりを迎えるけど、課題は終わらせたの」


英雄「そんなテンプレみたいなことはやらかさねぇよ」


ラミ「へぇー」


??「……そろそろ出番が欲しいなぁ」


英雄「いきなり出てくんな。ってか、誰だよ」


??「それは次回のお楽しみ」



天城「あってる、あってない関係ない感じになってきましたが、次回『転校生来る』是非見てください」

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