第1話 魔王召喚失敗?
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いつからだ。自分が凡人に過ぎないと思い知らされたのは。
いつからだ。自分自身を不幸だと感じるようになったのは。
いつからだ。笑っている人間を羨ましく、憎たらしい存在だと思うようになったのは。
いつからだ。全てが憎いと思うようになったのは。
そうして、俺は世界の滅亡を企んだ。
そして、その目的に一歩前進できたのか、それともただの失敗なのか。
魔王召喚によって呼び出したはずの魔王は幼女だった。
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一年前、俺は祖父の書斎から二つの本を見つけた。一つは全く知らない文字で書かれた本。もう一つは、日本語とその全く知らない文字が書かれていたノートだった。
ノートを見る限り、日本語を勉強するために書かれたノートのようだった。俺はそのノートを基に本を翻訳した。高校受験も控えていたこともあって、なかなか集中する機会はなかったが少しずつ分かるようになっていった。
翻訳しているうちに、本の内容が封印について書かれていることがわかった。また、祖父の書斎を漁っているうちに例の文字で書かれた祖父の日記も発見した。上手く翻訳できなかったが、主な内容は魔王を封印したと書いてあった。幼い時に祖父が自慢していた記憶はあって、当時は信じていた。今は半信半疑ではあるが、確かめてみようと思った。
高校は中学の奴らが行かないような遠いところを目指して勉強をした。担任や親には成績的に厳しいので反対されたが、俺のことを知っている奴のそばには行きたくなかったから頑張った。
しばらく、翻訳をやめ勉強に集中した。俺は勉強が嫌いで苦手だった。それでも、遠くに行きたくて頑張った。俺がどれだけ中学時代の奴らが嫌いだったかがよくわかる。
高校には無事合格。晴れて中学時代一緒だった奴とはお別れだ。そう思っていた。
1人だけ、俺と同じ高校に来た女が居た。そいつは幼馴染だった。可愛い少女だと思う奴が大半だろうが、暴力的な上に隠しておきたい俺の秘密を簡単にもらす。俺のことが嫌いなのかとも思うが、何故かどこに行くにしても俺に付いて来ようとする。それは小さい頃からずっと同じでとうとう俺の親から聞き出し同じ高校にまでやってきた。
そして、俺の黒歴史を漏らす。周りの奴らはそれをネタに俺をいじる。
軽く殺してやりたいぐらい全てが憎くなった。
嫌になった俺は引き籠った。それからは、ずっと本の翻訳を続けた。翻訳を終えた後は、実行あるのみだ。
祖父の家には馬鹿でかい土地があり、立派な日本庭園がある。その屋敷の地下に魔王の封印はあった。そこには和とも洋ともつかない妙な形をした壺があり、すぐ後ろにある壁には、漫画で見たような魔方陣のようなものがあった。
俺は翻訳した本を基に呪文を唱えた。
呪文を唱え終えた時、壺が揺れた。揺れ方が段々激しくなり壺が割れた。地面に壁にあるものとはまた別の形の魔方陣が現れた。
そして、そこから煙のような靄が噴出し何も見えなくなった。
しばらくして理科の実験で聞いた水素爆発のような『ポンッ』というような音が聞こえ、そして靄が晴れた後に居たのは――幼女だった。
「え、えぇぇぇえええ!」
「#$%&!」
その幼女は小学生低学年といった感じだ。幼女はとんがり帽子に黒マントという、いかにも魔法使いっぽい恰好をしていた。しかも、ブカブカ。それに魔法使いっぽい格好なのに刀を持っている。そして、何を言っているかわからない。
「えっと、君は誰?」
幼い子供に話しかけるように喋った。
よくわからない言葉を発していたが通じるのだろうか?
疑問に思っていると、何かブツブツと言い始めた。そして、顔をあげた。
「これで通じるか?」
「おぉ!? 日本語話せたの?」
「通訳魔法ぐらい使える。私は魔王だからな」
これが魔王……なのか?
「ここはどこだ? 何故か力が出ないし、服はブカブカだし……ブカブカ?」
幼女は自分の体を触っていた。特に胸辺りを重点的に。
「ち、縮んでいる。わ、私のナイスバディがーーーー!」
何か凄い落ち込んでいる。一体何を落ち込んでいるんだ?
「っていうか、でかくて気付かなかったけどお前はトレイスではないのか?」
どこか聞き覚えがあるが、思い出せない名前だ。
「違うよ」
「……そっかぁ、今年は何年?」
急になんだ?
「201X年だよ」
「……それは何の暦だ?」
質問の意図がよく理解できないが
「西暦」
一応答えておく。
「聞いたこともない暦……もしかしなくても、ここって異世界!?」
「話がさっぱり見えてこないんだけど」
「ちょっと待って! 話しかけないで!」
何かぶつぶつ言いながら、下を向いている。
幼女は唐突にこっちを向く。
「ねぇ、ここはなんていう国なの?」
「日本だけど?」
「き、聞いたことない。やっぱり、間違いなく異世界だ……」
幼女はまた落ち込んでいた。
「え、えっと何を落ち込んでいるんだい?」
「今の事態を飲み込めないのよ! っていうか、子ども扱いしないで! 私はあなたより年上だし、魔王なのよ!」
「いやいや、それは嘘でしょ」
「嘘じゃないもん! ……でも、こんな姿じゃ威厳も何もないから仕方ないか。魔力もかなり減っているし」
「それで、君の家はどこ?」
「魔王城」
「だから、そんな嘘は……」
でも、この子は一体どこから現れたのだろう? 日本語以外の言葉を喋っていたと思ったら、日本語使い始めたし……
「仕方ない」
幼女は帽子を取り外した。その頭には小さな角のようなものが生えていた。
「触ってもいいよ」
言われた通り触れてみる。硬いし、何かでくっ付けたという感じでもない。
「えっ? これ作り物じゃないの?」
「だから言ったでしょう。やはり、この世界では魔物は一般的でない……というより存在しないのでしょう?」
「魔物って、どういうことだ?」
「そのまんまの意味だよ。魔物がいないどころか魔法も使えないみたいだし」
何が何だかわからない? 結局、この子は何者なのだろう?
「ちょっと状況整理をしてみた感じ、私は封印されていたみたいだ。それを君が解いた。そうだろう?」
「俺がしたのは魔王召喚のはずだけど……?」
「そんなわけないじゃない。ちょっとその手に持っている本、私に見せてみて」
言われた通り渡してみる。
パラパラとめくっている。
そして、パタンと閉じた。
「やはり、君が私の封印を解いたんだよ。この本は魔王召喚の本なんかじゃない。多少中身は変えられてはいたけど、私が書いた封印術の本そのものだよ」
「その本は本物だったわけか。……すごいな」
「何がすごいもんか。君の封印解除は不完全だ。これを見て」
幼女は地面にできた魔法陣を指さす。
「この中に私の表面上の9割の魔力が取り残されてしまった。まぁ、結果的にはそれで助かってもいるけど」
「はぁ」
「君の解き方だと、封印が解除された時に漏れた魔力が爆発するようになっていたわ。漏れていた量が極僅かだったから音が鳴る程度で済んだけど、私の全魔力が爆発したと考えたら……恐ろしい」
「どうなる?」
「この世界、この星、宇宙がどのくらいの大きさかは知らないけど、私の世界だったら間違いなく全てが跡形もなくなる」
ちょっと、規模が大きすぎて想像もできない。けど……
「上手くいけば俺の目的叶ったじゃん! 畜生っ!」
「君は随分と荒れた性格をしているみたいだね。君は私の世界の勇者の一族にそっくりなのに」
「勇者なんてやめてくれ。虫唾が走る」
「それは悪かったわね」
沈黙が訪れる。一体何を話したらいいんだ。
「そろそろ帰るわ。私の世界がどうなっているか気になるし……」
「あっ、そういえば……」
「何?」
「トレイスって俺のじいちゃんの名前だ」
「……ちょっと待って。それは本当? それであなたの祖父はどこに……?」
「四年前に死んだよ」
「いくつの時に!?」
「12の時」
「あなたの年齢は聞いてない! あなたの祖父がいくつの時に死んだかって聞いてるの」
「68」
「まずい! これは非常にまずい! 急いで帰らないと」
何かすごく慌てている。
「私は元の世界に帰る! 帰らなくちゃ!」
幼女は走って、壁にある紋章に走って行った。
途中で、自分の服の裾を踏んでこけた。
「痛っ、てそんな場合じゃない!」
そのまま立ち上がり走って魔法陣の中に消えていった。
「うわ、消えた」
魔法陣に触れてみると、ただの壁だった。
「どうやったんだろ」
ふと、足元を見ると刀とよくわからないけど八角形の箱のようなものが落ちていた。
気になったので刀を手に取った。
「軽っ!」
本物と思わしき刀を初めて持ったが、レプリカでももっと重い。鞘に収まっていないむき出しの刀身のままだし……
そんなことを思っていると急に刀が輝きだした。
「な、なんだ!?」
光っているのは、刀だけじゃなく八角形の箱もだった。
目も開けられないほど、眩しく輝いた。
しばらくして、目を開けると箱が消えていた。しかし、刀は手元に残っていた。
「一体、なんだったんだ?」
結局、光の正体はなんだかよくわからなかったが、この刀に俄然興味がわいた。
試しに、封印を解くための本の端を斬り落としてみることにした。
「あれ?」
端を何回斬ろうとしても、何の感触もなく切れている様子もない。
思い切って突き刺したところ、地面まで突き刺したはずなのに何の跡も残らなかった。
刀の峰を叩くと確かに金属に触れた感触はある。
次は、指の先を斬ろうとしてみた。もちろん、先の先だ。斬れないだろうけど念のため。
目をつぶり思い切って、指を斬る。痛みも何もない。思った通り斬れていなかった。
「鈍刀にしても、これは異常だな」
何の役にも立ちそうにない。と思ったが脅かすには十分かもしれない。その気になれば、体の中にも仕舞えそうだ。銃刀法違反で捕まりそうになっても体に隠せば、誤魔化せそうだ。ちょっと面白そう。
思い切って、口の中に刀を入れてみた。異物感も何もなく通り抜ける。柄も何の感触もない。全部体の中に入り切った。
絵面でいえば、気持ち悪いことこの上ないだろうが、ちょっと楽しくなっている。
本当に体の中に刀を入れたのだろうか?
そう思ってしまうぐらいには、何の感触もなかった。
もしかしたら、体の中もすり抜けるかもしれないと思ったが平気だったようだ。
無事、体の中にしまうことができた。
今度は体の中から取り出してみた。上を向き、口のあたりにあるであろう柄を握る。それをずるずると引き抜く。心配だったが、唾液も何もついてない。当然、血もついてない。
「すげぇ~!」
何の役にも立ちそうにない刀は人を脅かすおもちゃぐらいには使えそうだ。…………だけどそれで、誰を脅かせばいいんだろうな。
引き籠っていた俺にそんなことができる友人は皆無だった。
平和主義な魔王と破滅願望な偽勇者、第一話どうだったでしょうか?
第一話ですし、まだ全然進んでいませんがこれから面白くなっていくはずです。よければ最後までお付き合いください。
目標は週一ペース更新で一年ぐらい続けるつもりです。
ついでに、次からは次回予告を試そうと思っています。
『平和主義な魔王と破滅願望な偽勇者』をどうかよろしくお願いします。