1-5 説明
「はじめまして。早速で申し訳ありませんが、こちらがユーザー登録書になっておりますので、まずご記入ください。それからシステムに関する重要なお話をさせていただいて、ご不明な点を質問いただける時間を設けます。その後、チュートリアルが開始される予定となっております。」
スッとペンが付いたボードに乗せられた紙を差し出された。
え? 今どきオンラインゲームのユーザー登録で書面? いや、デジタルだけど。
とにかく記入してみようとペンを持ってユーザー登録書に目をやると、
氏名(ご本名)
年齢
性別
ご住所 ×プライバシー情報につき記入不要
お電話番号 ×プライバシー情報につき記入不要
キャラクターネーム
※アバターなどのご説明は、チュートリアルで行います。
なんか本当にお役所に来てるみたいな気がしてきた。とにかくさっさと済ませよう。住所や生年月日、クレジットカードなどの情報は書かなくていいみたいだし、オンラインゲームの登録書にしたら情報スカスカすぎる気がするけど、企業運営じゃないんだったらこんなものなのかな。
名前(ご本名) 神埼達也
年齢 30才
性別 男
キャラクターネーム レン
「これでいいですか?」
「はい、大変結構です。では、改めましてこんばんわ」
「あ、どうも、こんばんわ」
今度はちゃんと声に出さないように、脳波入力に伝えて発声できた。
今のHMDには、自分で発声する声を取り込むマイク入力と、第2世代までは少しラグが発声していたのが、この第3世代から驚くほどスムーズに発声出来るようになった、脳波入力によるHMD側でのシステム発声が選べるようになっている。とくにアパート暮らしや音に気を使う環境での使用は、たいていの人が脳波入力によって、システムに自分の代わりに発声させている。
そしてシステム発声では、有名な声優や俳優や女優などの声データをオプションボイスとして購入できるので、ロールプレイには無くてはならないシステムなのである。
かく言う自分も、先日までプレイしていたオンラインゲーム内で、威厳ある魔法使いキャラを育てていたので、もちろんそれに見合う声色をオプションで購入して使っていた。
今はまだキャラメイクすらやってないので、デフォルトの声色から変更してないのだが。そもそも対応してるのか?
「かんざきさま でよろしいですね」
「はい」
「ではこれより、one’s onlineの世界についての説明をさせていただきます。質問などは後でまとめてお伺いしますので、まずは説明をお聞きください」
「はい、おねがいします」
「まずはじめに、システム的なお話をいたします。このone’s onlineは、オンラインMMORPGと呼ばれるジャンルに分類されるゲーム世界で、必要スペックPCと指定機種のHMDセットをお持ちの、日本語をお使いいただける方にのみ提供しております」
なるほど、ほぼ日本人限定なわけだ。だから日本語が書かれた書面で申し込みか。
「そして、お使いのアカウントを消失されるまで、またはサービスが終了するまで、ずっと無料でご利用いただけます。アイテム課金なども一切ございません」
お金がかからないのはいいね。それよりも、金つぎ込んで強い装備そろえただけの奴らが無課金を見下さないのが大変よろしい。
「ではここでアカウント消失の条件をご説明します。今お使いのアカウントは、リアルワールドの神崎様のみがログインできるようになっており、他人が神崎様のHMDを奪い取って使おうとしても、ログインできない仕様になっており、そのアカウントが失効されるのは、one’s onlineの世界で死亡するか、リアルワールドで神崎様が死亡した場合になります。」
おーぅ!? 死んだら終わりってやつですか! リアルで死んだら終わりなのは当たり前だが。ずいぶん攻めてる設定だなぁ。
「あぁ、one’s onlineで死んだらリアルでも死んでしまうとかいう事はありませんので、残念ですがご期待には添いかねます。」
・・・・・期待してないし・・・・ネタか!ネタなのか?
「ですので、この世界でも、リアルワールドでも、命は大切にお使いください。」
「はぁ・・・」
「死亡後は、いかなる手段を用いても、神崎様が再度ログインすることは不可能となります。また死亡以外でも、この世界にふさわしくないと判断されますと、即アカウントが失効されますが、通常のゲームプレイにおける行動でしたら、たとえPKを行ってもアカウントを消されることはございません。具体的にどのような事で失効されるかは、申し訳ございませんが、今の時点でお話しできない設定になっております。」
PKやばいな、気をつけよう。PKするような人間は、ぜったい居るはずだ。
「では次に、ログアウトについてです。今この部屋の中だけは特別として、チュートリアル中や、ゲームフィールドに移動した瞬間から、アバターのログアウトが不可能になります。」
ん?・・・・え?
「難しく考えず、こう思っていて下さい。神崎様がログアウトしても、神崎様のアバターは、その場に残り続けるということです。リアルワールドで例えるなら、いきなり睡眠状態になると想像していただければ、理解がし易いかと思います。」
なるほどーって、え? 仕事行ってる昼間とかはどうなるんだ!?
「ですので、確実に安全を確保してからログアウトすることをお勧めします。もちろんログアウト中に、魂のないアバターが狼に食べられても死亡扱いとなり、アカウントが消失しますのでご注意ください。」
どうやってログアウトすればいいんだ、見張りを依頼するのか?
てか、狼いるんだ・・・
「では次に、one’s onlineの世界についてご説明いたします。この世界は、今までのオンラインゲームには無かったような、かなりリアルなファンタジー系の世界となっております。死亡したら終わりという設定もそうですが、見た目やグラフィック・音などの表面上のリアルさという意味ではなく、リアルワールドにより近い世界になっていると考えて頂いて問題ありません。」
死んだら終わり以上にリアルな設定って、なんだか嫌な予感がしてきた。
「おそらく一番判り易く、一番驚かれることは、one’s onlineとリアルワールドの1時間は同じ長さで、24時間が1日となっております。」
なん・・・だとぅ!