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1-3 ダウンロード

 家庭用ネット回線の速度がテラビットレベル水準になっている現在、大作と呼ばれるオンラインゲームや有名なソフトウェアコンテンツのダウンロードなんて、1分もすれば大抵は終了してしまうのだが、思ったより時間がかかっていた。


 回線が重たいのか、それとも相手のサーバーが弱いのか?

「企業の作ってるゲームじゃないから、その辺は期待しても仕方ないか。」


 暇を持て余し、なにげなく記憶装置のアイコンに視点を移動させると、ドライブプロパティウィンドが1秒ほど写し出されて消えた。


!?


 目の錯覚かと思える数値が書かれているように見えて、慌てて再度プロパティ表示を出すように念じる。

 合計サイズ 930Tb / 空き容量 42Tb


「おいおいおいおいおい、何の冗談だ! ウイルスか?」


 たしか3割ほどしか使っていなかったはずのドライブの残りが、いつの間にか1割を切っていた。いや、間違いなく原因はこのゲームだろ!

 そしていつの間にか、ダウンロードも終わっていた。


「・・・・・とりあえずウイルスチェックするか・・・・時間かかりそうだな」


 結果的には、ウイルスは見つからなかった。いや、もしかしたら新種のウイルスで、検知できていないだけなのかもしれないが。

 なにも無ければ、インストールして起動すれば、オンラインゲームならログイン画面が現れるはずである。が、しかし・・・


 ウイルスチェックの間、one’s onlineのプレイ動画やレビューなど、どこかに書かれてないかと検索しまくってみたが、1件もヒットせず。そもそも検索で出た公式ホームページ以外の検索結果も、『one’s』の部分だけが引っかかったサイトだったり、オンラインゲームでも何でもないサイトばかりだったのだ。


「飯でも食うか」

 まずは落ち着こう、そうしよう。


 何だかんだで夜の8時を過ぎていたので、仕事帰りにコンビニで買ってきた弁当をレンジに入れて温めて食べる。


「しかしただのゲームで700テラって、どんな超大作だよ」


 まさかほぼすべて動画データなのだろうか?何時間になるんだ、と色々思案してみても、結局答えは見つからず、プログラムを解析できるスキルなど持ってないし、そんな気力も失せる容量である。


「まぁダメ元でやってみるか。お金かかってないし、ウイルスも無いっぽいし、悩んでいても何も始まらないし。」


 アンチウイルスソフト先生、仕事してくれよ!

祈りを込めて起動ファイルを見つめ、スイッチを押すイメージをする。通常のゲームインストールがそうであるように、CPUが仕事を始めた合図である水冷却装置とファンの回る音が静かな部屋にこだましているのが、HMD越しにかすかに聞き取れた気がした。



ようこそ one’s online の世界へ

0%■■■□□□□□□□□□□100%



 目の前に浮かびあがる、少し古臭い表示の棒グラフが、じわじわ伸びていくのを眺めながら、いつセキュリティからの警告画面が現れるかと、ドキドキしながら待っていたのだが、問題なく100%に近付きつつある。

 そして、どうやら心配し過ぎだったようで、15分も過ぎる頃にはインストールも無事に終わったと、画面に表示が出ていた。


 ログイン画面を起動しますか? Y/N


「はい・いいえボタンじゃないのかよ。とりあえず Y だ」


指定機種のモーションコントローラーが装着されていません。

リトライ? Y/N


「そうだった。ゲーム始めるには、これも装着しなきゃね」


 一度目の前のディスプレイを額の上にスライドさせて、コタツの上に置きっぱなしになっていた、ちょっとごついグローブちっくなモーションコントローラーを両手にはめていった。

 この装置は、壁際の棚に鎮座しているPCの横から少し見下ろすような形に置かれた、モーションセンサーとリンクして、なおかつグローブ部分に内蔵されている各種センサーからの情報を瞬時にPCへと送り、対応する動きや技などを出すようアバターへと命令する装置である。

 もちろん、そのままの動きをトレースさせることもできるのだが、ゲーム内で剣を振り回すのに、リアルでもそんな動きを要求させられたら、自分のような狭い部屋の住人には遊べないのは容易に理解してもらえるだろう。


 中にはマニアックな人が居て、まったく同じ動きに設定してアバターと同じ動きでプレイしている動画を配信する奇特な方もいらっしゃるが、ここでそんな事をやると、間違いなく大家さんからアパートを追い出されてしまう。

 だから常に最少の動きで、コタツ前の座椅子に座った状態で大丈夫な設定にしてあるのだ。それでも熱が入ってくると、時々指先をコタツにぶつけたりもするのだが。


 きっとプレイ中の自分を客観的に見ると、さぞ間抜けな感じなのだろう。撮影してみることもできるのだが、正直凹みそうなのでやったことは無いし、今後もやるつもりはない。


「さて、今度こそ準備OKだ。明日も仕事だし、0時にはログアウトするか。」


 HMDの機能に、寝落ち対策なのか目覚ましなどに使えるアラームが標準で装備されてるので、11:50にセットしておけば、時間になれば音が外に漏れることなく、スピーカーからアラームが聞こえてくるのだ。


 モニターをスライドさせて目の前に下ろしてきたら、Y/N のまま止まっていた。


「Y 起動!」


 あ、ちょっと声に出ちゃったかも。

 誰も居ないのに恥ずかしくなって、ごまかすためにだんだんブラックアウトしていく画面を、注視し続けていた。


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