才雅、尾行する
〈2016/2/5〜〉拍手お礼ページ掲載。
校外学習に行く前の話 その2
西園寺才雅は四大資産家のひとつ、西園寺グループの跡取りであり、西園寺祀莉の弟である。
現在、華皇院学園の中等部に通っており、北条要の後輩でもある。
祀莉とそっくりな顔の造り。
今は身長が伸びて体格も男らしくなったが、昔は2人で並ぶと双子みたいと言われていた。
「では、いってきますね。才雅」
「いってらっしゃい、姉さん」
土曜日。
嬉しそうにクラスメイトと出掛ける姉の姿を見送った。
そして才雅も出掛ける準備をした。
その目的は……
──祀莉の後をつけるからお前もついてこい。
昨夜、才雅の携帯に電話がかかってきた。
もちろん、相手は要。
なんで俺まで……と思いつつも、断れる雰囲気ではなかったので「はいはい」と了承した。
祀莉が出掛ける相手は、要か今日迎えに来たクラスメイトくらい。
(織部諒華さん、だっけ……? いつも姉さんが楽しそうに話をしてる人)
祀莉が諒華と2人だけで出掛けることがあっても、いつもは何も言わないのに、今日はどうしたんだろうか。
その疑問を解消するためにも、要に今日一日つき合おうと決めた。
西園寺家の敷地を出て数メートル近くに北条家の車を発見した。
「おはよう、要兄さん」
「あぁ。早く乗れ。出発するぞ」
要は手元のスマートフォンから目を離さずに、才雅に車へ乗るように促した。
手元を隠す様子がなかったので控えめに覗き込んだ。
画面には地図が表示されていて、ゆっくりと赤い点が移動している。
「兄さん、それって……」
「祀莉の現在地を表示している」
(やっぱり!)
つい最近、祀莉は携帯を持ちはじめた。
必要ないと言っていたのにやっぱり欲しくなったらしく、嬉しそうに家の人間に見せて回っていた。
要からのプレゼントということもあって、みんな微笑ましく「良かったですね」と受け答えしていた。
祀莉が持っていたのはキッズケータイだったが、携帯に不慣れな祀莉のために敢えてコレにしたんだろうと思っていた。
が、他にも理由があったようだ。
親が子供の居場所を確認する機能を使うためだった。
(心配なのは分かるけど、そこまでするかっ!?)
「もしかして、それでいつも姉さんの居場所を探ってる?」
「いなくなった時だけだ」
「……そう」
軽いストーカー行為に少し引いてしまった。
***
祀莉が向かった先は、セレブ御用達の百貨店だった。
場所は分かったが、どのフロアにいるのかまではいくら最新のGPS機能でも無理だった。
もしかして、ひとつずつ見て回るんじゃ……と考えてげっそりした。
「行くぞ、才雅」
「え! 姉さんがどこにいるのか分かるの!?」
迷いなく歩いていった先はエレベーター。
タイミング良く開いたエレベーターに乗り込んで、エレベーターガールに目的のフロアを告げた。
なんで分かるの?と疑問に思いつつ、才雅は大人しく後に続いた。
今日はポイントが2倍もえらる日らしく、思っていたより買い物客の人数が多い。
階が上がるたびに乗ってくる人が増えてきた。
「ねぇ、あの人カッコ良くない?」
「え? うわっ、マジイケメン!!」
乗り合わせた客は、ほとんど若い女性だった。
ちらちらと要を気にしている。
エレベーターガールも仕事をしながら熱い視線を送っていた。
(うわぁ……。なにこれ!)
要の隣にいた才雅はおこぼれの視線で居心地が悪くなった。
(早く降りたい……!)
ようやく目的の階に到着し、わざと密着してくる女性客から開放された。
「あの……要兄さん」
「──しっ! 静かにしろ。見つかるだろうがっ!」
「……」
この階に姉さんたちはいるの?と疑問を投げかようとした才雅に、小声で注意する。
要の視線の先は水着ショップ。
(あぁ。水着を買うから心配でついてきたのか)
全て理解した。
さすがに一緒についていくとは言えず、かといって変な水着を選んだらと思うと、家でじっとしていられなかっただろう。
(で、後をつけたと……)
面倒くさい義兄だ。
どうせこの後も物陰に隠れて様子を伺う気だろう。
「兄さん。もう面倒だから、俺行ってくるね」
「はっ!? 才雅!?」
こそこそしている要を置いて、ためらいもなく水着ショップへと入っていく。
隣には男性用の水着もあるからビクビクすることはない。
姉の後ろ姿が見えたので、少し大きめの声で呼んだ。
「姉さーん」
弟の声に反応して祀莉が振り返る。
「才雅!? どうしたんですか?」
「友達とプールに行く約束をしたから、水着を買おうと思って……」
「そうなんですか?」
後をつけられてきたと疑う様子もなく、「偶然ですね」と言う祀莉に「そうだね」と頷く。
「では、一緒に選びませんか?」
「もちろん」
適当に話を合わせつつ、会話の流れで一緒に水着選びをすることに成功した。
隣にいた諒華が突然現れた才雅に驚いた顔をしていた。
「……誰?」
「弟です」
「あぁ、なるほど。似てるね」
「初めまして、弟の才雅です。織部諒華さんですよね? いつも姉がお世話になってます」
人懐っこい笑顔と巧みな話術で、一緒にいた諒華とも打ち解けることができた。
小学校で祀莉に同級生を近付けなかった要が、それを許した相手。
実はどんな人か気になっていた。
会って話してみると、頼りになるお姉さんという感じだ。
なるほど、ぽけーっとしている祀莉にはちょうど良いと納得した。