電話ではなく、メールを
〈2015/11/27〜〉拍手お礼ページ掲載。
本編『30』読了推奨。
『30』から『31』の間のお話。その4
ちゃんとメールが打てるようになりたいんです!
さて、そろそろ明日の準備をしようかと思い、鞄の中の教科書を取り出していた。
すると携帯電話から優雅なクラシックの曲が流れ出した。
(今日もですか……!?)
ちゃんと電源を入れろと言われてから、毎日これである。
数分話して、“おやすみ”で終わるだけ。
(鈴原さんとは電話しないんでしょうか……?)
いや、番号をゲットしたなら毎日電話しているはずだ。
するなら祀莉との電話を終えた後だろう。
しかし、その時間から長電話しては相手が迷惑ではないか?
きっと楽しくわいわいと会話しているんだろう。
それとも、恥ずかしがって微笑ましいほどにグダグダな会話だろうか。
(あぁ、盗聴したいです……)
要から与えられた携帯電話を眺めながらため息をつき、通話ボタンを押した。
「もしもし」
『明日の準備はすんだか?』
「今からです」
大抵この会話から始まる。
いつも同じような内容の会話だ。
要が話して、それに相打ちをうったり質問に答えるだけ。
しかし、今日は意を決して祀莉から積極的に話した。
「あ、あの! その……要、夜に電話するのはちょっと……」
『なんでだ?』
「えっと……」
なんでと言われても困る。
自分と電話する時間を桜のために有効に使ってくれれば……と思ったんだが。
う〜ん……と少しだけ考える。
「あ! め、メールの練習をしたいんです!」
とっさに思いついた言い訳を口にする。
「電話の方はもう慣れました。今度はちゃんとメールを打てるようになりたいです。それまでは、できるだけ電話は控えたいんですけど……」
だめでしょうか……と控えめに訪ねる。
『……分かった』
「ありがとうございます! 返事はゆっくりになりますが、怒らないでくださいね」
『それは分かってる。待ってるから、絶対返事を返せよ』
「はい!」
メールの練習もしたいと思っていたところだったから、ちょうど良い。
諒華とたくさんメールできるようになりたい。
要には短文でも良いから、ちゃんと返せと言われた。
何度もメールしているうちに長い文章も打てるようになるだろうからと。
『じゃあな、……おやすみ』
「はい、おやすみなさい」
電話を終えてほっとしていると、メールが届いた。
『今日、織部と何を話していたんだ?』
さっそくのメールにドキドキしながら、返事をしようとした──が、ここで問題発生。
(……メールの仕方がわかりません)
電話は自宅の固定電話を使ったことがあったので、どうにか操作できた。
しかしメールの方はさっぱりである。
作成の仕方どころか、どうやったら文字が出てくるのかも分からない。
(…………明日、要に聞きましょう)
変に操作して壊してしまったら大変だ。
メールの返事を送ることを早々にを諦めて、祀莉は眠りについた。
次の日。
うっすらと目のまわりにクマを作った要が迎えにきた。
寝不足と不機嫌でつり上がった目尻を見て、寝ぼけいていた祀莉は一瞬で目が覚めた。
そして、昨晩の会話の一部が脳裏をかすめる。
──待ってるから、絶対返事を返せよ。
「あ……、えっと……」
まずい、非常にまずい。
メールの仕方が分からないなら、もう一度電話をすれば良かったのに、次の日で良いか……なんて思ったから。
惜しみなくイライラを醸し出している要は、無言で祀莉を睨みつける。
(ひぃいい……!!)
祀莉は泣きそうになりながら、謝罪と言い訳を続けるのであった。