表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

とあるAクラスの男子生徒の勘違い

〈2015/11/27〜〉拍手お礼ページ掲載。


本編『30』読了推奨。

『30』から『31』の間のお話。その3


登場人物(クラスメイト)の名前は本編には関係ありません(今のところは)

誰が何を喋ってるか分かるように適当につけました。

 Aクラスには鷲塚(わしづか)という名字の生徒が5人いる。

 全員、食品会社大手の鷲塚一家の子息令嬢である。


 そのうちの一人、鷲塚蒼太(そうた)が偶然、四方館の近くを通りかかった。



 四方館は体育館棟の裏に建てられている。

 周囲には人が一人分歩ける通路があって、一階の倉庫に用事がある生徒がここを通ることがたまにある。


 空調をつけるほど暑くはなく、ほどよい風が入ってくる日だったため、祀莉たちはその日は窓を開けて過ごしていた。



 そんな日に、倉庫での用事を済ませた蒼太が四方館横のルートを通った。




 ──そして、そこで聞いてしまった会話に驚き、急いで自分のクラスへと戻っていった。







「お、おお、おいっ、聞いてくれよ!」

「はぁ? 何を?」


 顔を赤くして教室に入ってきた蒼太に、放課後残っていた数人のクラスメイトが不審な目を向ける。

 残っていたのは、蒼太のイトコたち。

 なんとなく目の形が似ている彼らは放課後、人の少なくなった教室の娯楽スペースで寛いでいた。


 蒼太の「聞いてくれ」に「何を?」と聞き返したのは中世的な顔立ちをした鷲塚理紅(りく)

 肩に付くくらいに髪が伸びているが、れっきとした男子生徒だ。



「もっと落ち着いてから話してはいかが? あ、紅茶飲みます?」


 そういって、ティーポットを持ち上げたのは、5人の中で唯一女子生徒である鷲塚(あい)




「だ、だだ、大丈夫だ! それより聞いてくれ! ささ、さっき四方館の近くを通ったらさ! こ……声が聞こえてきたんだ……!!」

「声? え、何それ気になる!」


 鷲塚緋呂(ひろ)が読んでいた雑誌から顔を上げて蒼太を見た。



 四方館という単語を聞いてまず思い浮かべるのは、彼らのクラスメイト西園寺祀莉と北条要だ。

 今年その施設を利用できるのはこの2人だけ。

 その声は間違いなく祀莉たちのものだろう。



 興味が湧いたイトコたちは、ずいっと蒼太につめよった。

 いったい何があったのかと。




 蒼太は驚いた勢いで「聞いてくれ!」と騒いでしまったが、本当に言っても良いのかと不安になった。

 しかし、ここまで言ってしまってはもう後には引けない。

 興味を抱いてしまったイトコたちに今更無理だと言っても、無駄だろう。


 腹をくくって話すことにした。




「そ、そしたらさ……西園寺さんと北条の声が聞こえてきたんだ」

「ふぅん。で、それがどうかした?」

「そ、その内容が……──」







 その内容が、これである。




「ちょっと、何するんですか!」

「……こんなもん必要ないだろ」

「あぁっ! 脱がさないで下さい!」




「ダメです! やめてくださいっ」

「なんだよ、恥ずかしがることないだろ?」




「きゃーーっ! 見ないでください! 返してくださいっ!」



 その後に、ドタバタと床が鳴る音。






 実際は本の奪い合いで祀莉が暴れていたのだが、会話だけ聞いた彼はとんでもない勘違いをしてた。

 それらしい言葉と祀莉の嫌がる声に、何を想像したのか“要が祀莉にいたずらしている”とイトコたちに報告した。





「…………」



 教室は一瞬にして静寂に包まれた。



「そ、そんな……北条様が……。あ、でも良いかも……」

「なに言ってんの!?」



 うっとりと危ない想像に耽る藍に若干引き気味の男性陣。

 しかし、彼らも似たようなことを頭に思い浮かべていた。


「あぁ……西園寺さんがとうとう北条の毒牙に〜」

「いくら2人っきりだからって、あんな場所で……」

「せめて窓は閉めろよ……」



 蒼太は悔しそうに、緋呂は心配な顔で、理紅は呆れた表情で呟いた。

 その後、堰を切ったように次から次へと思い思いの言葉を口にする。


 教室内は要と祀莉の話で盛り上がっていた。







「──お前ら」


 今まで一言も発することがなかった男子生徒──鷲塚橙真(とうま)が低い声を出した。

 口々に噂するイトコたちがすぅっと静かになって彼を見やる。


 静寂に包まれた教室の中、真剣な眼差しで橙真は彼ら語りかけた。



「それ、絶対に誰にも言うなよ。このクラスに……いや、学園にいられなくなるぞ」

「…………」


 彼らは無言で目を見合わせ、一斉にうなずいた。







 翌日。

 鷲塚家の生徒たちは、昨日知ってしまった衝撃の事実に混乱していた。

 今日も一緒に登校してきた祀莉と要に、どうしてか、まっすぐ目を向けられない。



 そんな彼らの心中をもちろん知らない祀莉は、むすっとした様子で諒華へと話しかける。



「聞いてください、諒華。昨日のことなんですけど、要ったら酷いんですよ!」

「何が?」


(ええぇぇ……!?)

(ちょ……教室(ここ)でそれを言うの!?)

(西園寺さんっ、もっと恥じらいを持って……!)



 教室での大胆発言に、内心動揺しまくりの彼ら。

 いくらなんでも、こんなところで友達に話す内容ではないだろうに。

 対して要は一切の動揺がない。

 祀莉の会話は聞こえてるはずなのに、いつも通りである。



(どうなってんだ、この2人!)


 祀莉の口を塞ぎにいった方が良いのではと思った時には、次の言葉が発せられていた。



「わたくしから本を取り上げた上に、汚さないようにと大事につけてるブックカバーを外すんですよ! もう、本当いじわるなんですよ!」

「はいはい。仲良しねー」

「諒華っ!」




(…………)



 瞬時に何かがおかしいと感じた。


 祀莉はその後も放課後、四方館でのできごとを諒華に愚痴っていた。

 聞こえてきた会話と、昨日の話を掛け合わせる。


(…………もしかして、昨日の会話って……)



 鷲塚家の生徒が蒼太に一斉に視線を向けた。

 彼はこれ以上ないくらい顔を赤くして机の下に潜り込み、しばらく出てこなかったとか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=584041099&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ