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携帯電話の着信音

〈2015/11/27〜〉拍手お礼ページ掲載。


本編『30』読了推奨。

『30』から『31』の間のお話。その2

携帯電話を携帯する意味がない!

 放課後の四方館。


 ふかふかのソファーで寛ぎながら読書を楽しむ祀莉に、後ろから要が近づく。

 わざと足音をたてても本に夢中で全く気づく気配がない。


 祀莉が読んでいるのは先日、ショッピングモールで購入したものだろう。

 目的は漫画だったが、その他にも数冊の小説を手にとっているのを目撃している。

 自分が買う本を知られたくない祀莉は、10分だけ時間をくれと言って、普段からは考えられないほどに素早い動きで本を購入していた。

 常にそうだったら良いのにと、遠くから眺めていた。




 ブックカバーがついているから本のタイトは分からないが、だいたい見当はつく。


(どうせ、恋愛ものの小説だろ)



 祀莉の真後ろに立って、ソファーの背もたれ部分に両手をつき、覆い被さるように覗き込んだ。

 本に影が差しても振り返りもしない。



 あまりにも無防備なので、その手からひょいっと頭越しに小説を奪った。

 本に集中していた祀莉もさすがにそれを奪われたら気づくだろう。


「え……?」


 手から離れていった本を追って顔を上げると、数秒前まで読み耽っていた小説を持った要。

 何が起こったのか理解して、祀莉は文句を口にした。



「ちょっと、何するんですか!」

「……こんなもん必要ないだろ」

「あぁっ! 脱がさないで下さい!」


 手を伸ばして小説を追いかけるが指先が触れただけだった。

 要は届かないところまで持ち上げ、ブックカバーを外しはじめた。


 煌びやかな花に囲まれたキャラクターが描かれている表紙が顔を出す。

 さぁっと顔を青くした祀莉は、本を持って離れていく要を追いかけた。



「ダメです! やめてくださいっ」

「なんだよ、恥ずかしがることないだろ?」



 祀莉の反応が面白いのか、ニヤリと笑みを浮かべてこれ見よがしにパラパラと中身のページを捲った。


「きゃーーっ! 見ないでください! 返してくださいっ!」


 青かった顔を今度は赤くして大声で訴えかけた。

 何度も飛び跳ねて小説を奪い返そうと試みる。


 楽しそうに笑みを浮かべる要は、届きそうで届かない位置をキープしたまま祀莉を見下ろす。

 本を奪い返そうとする姿が、両手を広げて抱きついてくるように見えてドキッとする。



「ああ、もう! ──えいっ!」

「ちょ……っ」


 小さく跳ねていたが、今度は飛びつくような渾身のジャンプだった。

 胸元に当たる2つの柔らかい存在に、思わず動揺してしまった。



(普段は自分から近寄ってこないくせに……本の事となると、なんでこんなに必死なんだ……)


 同時に自分が持っている小説に嫉妬する要なのであった。





***+++




 ようやく小説を取り戻せた祀莉は、それを大事そうに両手でギュッと抱きしめる。


 やはり身長差と腕の長さでは、背伸びしてもジャンプしても届くはずがなかった。

 ついには着地に失敗して要に抱きついてしまうというハプニングまで起こしてしまった。


 どう足掻いても取り替えそうにない祀莉は、抱きついた状態で若干涙目になりながら、返してください……と懇願した。



 すると、あっさりと手元に戻ってきた。


(もう、いったい何がしたかったんですか?)



 かまってほしかったんだろうか。

 暇なら帰れば良いのに。


 続きを読もうとソファーに座りなおしたら、当然のように要が隣を陣取った。



「祀莉、携帯はどうした?」

「持ってますよ?」



 開きかけた小説を閉じる。

 足下に置いていた鞄を持ち上げて膝に乗せた。

 がさごそと手を入れて底に眠っていたピンク色の携帯を取り出す。


(そういえば、ちゃんと持ち歩けと言われていたような……)



 そのことを思い出して一瞬冷やっとしたが、持ち歩いてはいるのでセーフだろう。

 要が手を伸ばし、祀莉の手から携帯を奪った。

 電源を入れると数件のメールが一気に受信された。


 ほとんど要のメールだった。



「電源が入ってないと意味がないだろ」

「う……」


 携帯の電源を入れろと暗に命令している……。

 みんなの前で恥ずかしい思いをさせようと働きかけている!



「わたくしだって、使いたいです! なのに要が……」

「は? 俺、なんかしたか?」


(自分がしたことを覚えていないっ!?)



 あんな嫌がらせをしておいて覚えていないとは、何ともいい加減な。

 どうしましょう……と、あんなに頭を悩ませていたのに!


「何が気に食わないんだよ?」

「…………着信音がイヤなんです」

「は……?」



 小さく呟くような祀莉の答えに、“なんだそれ”とでも言いたいような顔をしている。



「イヤだったのか?」

「……はい」

「そうか、悪かったな。お前の好きな曲にしておいたんだが」


(え……?)



 カチカチとボタンを叩く音が聞こえた。

 素早く親指を動かして携帯を操作している。


 要は善かれと思って設定したらしい。

 祀莉の好きなアニメの曲だし、同じ趣味のクラスメイトと話すきっかけになるだろうと。


(そうだったんですか……)



 勝手に誤解していた自分が恥ずかしくなった。

 でも、やっぱりアニソンはちょっとイヤだ。


「ほら、適当にクラシックの曲に変えておいてやったから」

「あ……、ありがとうございます」


 これでいいだろ?と、要は祀莉に携帯を手渡した。


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