難航する水着選び
〈2016/2/5〜〉拍手お礼ページ掲載。
校外学習に行く前の話 その3
「才雅、これなんてどうでしょう?」
諒華と話している才雅に気に入った水着を見せた。
色とデザインがたくさんある中から祀莉が選んだものは、パステルカラーの花柄が特徴的な水着。
自分の体の前で合わせるように持って感想を待っていた。
「そうだね。良いんじゃ──……ん?」
才雅が“良いんじゃない?”と言おうとしたら、胸ポケットに入れていたスマホにメールが届いた。
手にとって確認してみると要からだった。
内容は──
“却下。露出が多い。”
「…………」
──直接言いにこいよ!
そう言いたいところをぐっと堪えた。
向かいの店舗から覗いているんだろうが、まさかわざわざメールしてくるなんて……。
仕方なしに要の言葉をそれとなく祀莉に伝える。
「……姉さん。それはちょっと露出が多いかと……」
「そうですか。では他のものを……」
水着を置いてあった場所に戻して、別のデザインを再び吟味する。
「何言ってんの。今時これくらい普通でしょ?」
今のやりとりを見て諒華が意見した。
「はい……。俺もそう思うんですけど……」
近くにある水着を見ても、どれも似たようなものだった。
形やデザインは色々あるにしろ、肌を覆う面積はだいたい同じだ。
水着だから当たり前なのだが、すぐそこに隠れている要はそう思っていないみたいだ。
「じゃあ、これはどうですか? ここのフリルが可愛いですよ!」
「本当だね。似合うと思──…………またか」
「え?」
「いや、なんでもない」
またメールの着信を告げる音。
確認しなくても分かる──要だ。
この後も、祀莉が水着を手にとって才雅に伺うと、要からの“却下”がメールで届く。
それを告げるたびにしょんぼりと水着を選び直す祀莉を見て心が痛んだ。
(いっそスマホの電源を切ってやりたい……)
そう思ったが、要の気持ちも分かるのでそれはできない。
でも、こうやって要の反対意見ばかり伝えていると、自分が祀莉に嫌われるかも……と才雅の心に一抹の不安が広がった。
(どうしよう……。帰りたい)
まさに板挟み状態。
こそこそするのが面倒臭いからと、祀莉と合流したことに後悔した。
「あーーもう、めんどくさい! ちょっとその迷惑メールの男をここに呼びなさいよ!」
「えぇっ!?」
ついに諒華がキレた。
さっきからスマホをちらちら見ていることはバレバレだった。
その相手が要であることも。
「近くにいるんでしょ? 北条くーん、出てきなさいよー」
「諒華さん!?」
「じゃないと、めっちゃくちゃセクシーな水着を祀莉に買わせるわよー」
近くに隠れているであろう要を呼びつける諒華に驚いた。
今まで要に対してこんな態度で命令口調の女の子は初めてだった。
呼び出した言葉が効果的だったのか、数秒もしないうちに要は現れた。
向かいの店舗から渋々っといった感じだったが、諒華を睨みつけながらこちらに歩いて来た。
「やっぱりいたか……」
「か、要……っ!?」
靴音をならして近づいてくる要は、むすっとした表情で不機嫌オーラを醸し出していた。
普通、女子がそれを見たら怯えるのだが、諒華は特に気にした様子もない。
祀莉は要のいかつい表情とイライラオーラを感じとって、反射的に諒華の後ろに隠れた。
「な、なな、なんで要が……!?」
「姉さん、驚きすぎ……」
グループに要が加わり、水着選びは再開されたが──
「才雅、これなんてどうでしょう?」
「ダメだ」
「な……っ」
さっきからずっとこうだった。
才雅に意見を聞いているのに、要の方が先に口を出してくる。
しかも内容は“ダメ”ばかり。
一生懸命選んでいるのに、だんだんと腹が立ってきているのをひしひしと感じる。
水着を持つ祀莉の手が震えている。
「あれもダメ、これもダメって……。わたくしが自分で買う水着なんですよ! 口出ししないでください!」
とうとう祀莉が爆発した。
なのに要は全く気にした風ではない。
才雅はハラハラしながらそれをみていた。
「分かった。俺が買う。それなら文句はないだろ」
「……はい?」
祀莉が目をぱちくりさせている間に、要はさくさくと売り場を歩いていった。
そして、手に水着を持って祀莉の前に出す。
「これはどうだ?」
「イヤです」
「じゃあ、コレ」
「好みじゃありません」
「……」
さっきの仕返しというわけではなく、本当に好みではないのだ。
祀莉は明るい色で、可愛らしいフリルがついたものが良いと言っていた。
それを要は上手いこと避けて選んでくる。
どちらかというと、大人の女性向けに販売されている暗い色で、大人しいデザインのもの。
わざとじゃないかと邪推してしまうくらいに、彼が選んでくるものは祀莉の好みからかけ離れていた。
「もう! わたくし、自分で選びます!」
「なんでだよ」
「わたくしはこういうのが良いんです!」
ずっと手に持っていた水着を要の前に翳す。
当然、要にしては却下対象なので、ひょいっと取り上げる。
「ダメに決まってるだろう」
「…………ぅ」
(あ……っ、そろそろヤバいっ!)
下を向いた祀莉がスカートをギュッと掴む。
フルフルと震える拳に、ぽたりと雫が落ちた。
「なんで……、わたくしのっ、水着なのに……っ」
「……」
一方的に言うことを聞かされていた昔に比べれば、祀莉は要に意見するようになった。
それでも要は頑固に自分の意見を押し付ける。
理不尽な振る舞いにとうとう祀莉は泣き出してしまった。
(あぁ……。やっちゃったぁ……)
ちらっと、要の様子を伺う。
昔からだが彼は祀莉が泣いた時、どう対処して良いかわからず途端に押し黙る。
無表情に黙った要はどこか威圧感があった。
実は泣かせてしまったことに後悔して、どうしようか考えているのだが、泣いている祀莉にそれが伝わるはずがない。
祀莉が要を怖がる一因でもある。
「これじゃあ、埒が明かないわね……」
「はい……」
声を掛けづらい状況で、諒華と才雅はただ2人のやりとりを見ていた。
店員も困っている様子。
この場をどう収めようかと考えた諒華は、店内を見渡した。
そして、その中から水着をとって祀莉と要の間に差し出した。
「もう、これにしときなさい! 4ピースでショーツとトップが付いてるから、そこまで露出は高くないでしょ?」
ビキニの上からもう一枚ずつ着ると、ワンピールに見える水着。
色も柄も祀莉が選んでいたものに近い。
祀莉は差し出された水着をぎゅーっと抱きしめた。
くぐもった声で「これが良いです」と言った。
しかし、要は不満そうだった。
「待て祀莉。こっちの方が──」
「これ以上文句言ったら、祀莉にきわどい水着を着せるわよ」
「…………分かった」
(要兄さんが引いた!?)
水着を抱きしめる祀莉を見て、わざとらしくため息をついていた。
もう諦めたようだ。
諒華の一言でこの場はどうにかなって、ほっとした。
(織部さん、すごい……)
「では、わたくしはこれを買ってきますね」
すっかり涙が引いた祀莉は、諒華の選んだ水着を持って会計へと向かった。
すると、横から要に水着を奪われた。
まだ色々といちゃもんをつけて祀莉の買い物を妨害するのかと思いや、向かう先はレジだった。
「え? え??」
「俺が買うって言ったんだから、これは俺が買う」
「でも……」
「良いじゃない。買ってもらいなさいよ」
「はい。あの……ありがとうございます、要」
「……別に」
取り返そうとしたところで、諒華の言葉に祀莉は頷いてお礼を言った。
(織部さんの言うことは素直に聞くんだ……)
要が複雑な顔をしているのが、後ろ姿からでも分かった。
「要……もしかして──」
そうだよ、と才雅は心の中で頷いた。
要だって祀莉にプレゼントしたいんだ。
笑顔で“ありがとう”と受け取ってもらえればそれで良いんだよ。
「──ポイントが欲しかったんですね……」
(違うから……っ!!)
心の底からつっこんだ。




