五章 猫らしく 編
アパートへやって来た山路婦人。
とにかく露出が・・・頼むから、大人しく・・
こんな感じですが、目を通してみてください。
結構な距離歩いたぞ。
背中に服が張り付いて気持ちわるい。
(そうだった)
「ちょっといいですか、・・ばあちゃ~ん」
買って来ておいたもなかと麦茶を、足早に作物の間を
走っていった俺は、ばあちゃんに。
収穫していたキュウリを分けてくれた。
「こんなに食べきれないんで、分けましょう」
「良いんですか、今高いのに」
「だったらなおさら、どうぞ」
歩道で、靴の裏の土を足踏み落とした。
「行きましょうか」
玄関近くで、俺は考えた。
(客人が居るから声はだめだ)
瞬間、心臓が跳ね上がった。
頭の中に、誰かが話しかけた、声はないが解るアディーだと。
もう一度試す。
こんなこともできたのか?と。
返事はシッカリと帰って来た。
やってみたら出来た、こっちは大丈夫と。
「汚いとこですが、このスリッパでどうぞ」
「失礼します」
これまでこのアパートに来た人で一番露出度が高い
と言えた奥さん、きちんと履物を揃える仕草、育ちの
良さが滲み出ている。
こういう人は、お見合い結婚なんだろうな。
なんてことをなるべく露出された部分に目が
行かぬようにしながら思っていた。
アメショーの隣で蹲っていた、デブ猫になって。
「まあ、日米交友ですわね」
「そ、そうとも言えますかね、はは」
二匹が起き上がった。
「お座りになって、今冷たいもの持ってきます」
「すいません、あら懐いてるのね」
足元にすり寄るアディー、ほんとこういうとこは
上手い、夏には見せられないとこだ。
飲み物を出し、すぐに靴下をはかせてやる。
これで大分痛みは和らいだはず。
話すことができないと、アメショーは
ひと鳴き声を上げた。
夏から突然電話が鳴った。
タイミングが悪いというか、良過ぎるというか
奥さんの声が。
「ちょっと?」
「あ、ああ」
こういうの苦手な俺。
「誰かいるの?女よね今の」
「ほら、山路さんとこの奥さん」
「いいわ、会った時詳しくね、アディーは?」
「それを見に来た奥さんが見てる、あとアディーの
友達が暫く家に居ることになりそうだぞ」
「近所の野良?ダメよ、ダメダメ」
「面白くない、同じ能力猫だアメショーの」
一人で勝手に盛り上がる夏。
「来るとき連れてきて、じゃあね」
「彼女から?そろそろお邪魔しないとね」
「夕方、こいつら連れて食事なんで、待ち合わせです」
「ならもう少し、猫ちゃんと遊んでもいいかしら」
「どうぞ、大した芸出来るわけじゃないですけど」
「何言ってるんです、こんな凄いのに」
(何ぃ話してないよな、何した)
見てほっと溜息をついた、アメショーの振る尻尾を
デブ猫らしからぬ動きで、右へ左へ飛びよける。
(その辺までだぞ、調子に乗るなよ)
奥さんの放ったボールとじゃれ合う、そんなことで
やり過ごし、奥さんが腰を上げた。
「そろそろ帰ります」
「新しい芸を練習しときます」
「まあ楽しみ」
玄関のドアが閉まった瞬間、その場に座り込んだ俺。
「ふう~ぅセーフ、って感じだ」
突然ドアが、飛び跳ね立ち上がった俺。
「ごめんなさい、傘・・・」
またも二人の手が。
俺の手を素早く引いた婦人。
とてもやわらかいって、何で?。
「今日の御礼」
服の下、何もねえ・・・。
「あの、その・・・」
「お邪魔いたしました」
暫く自分の手を見つめる俺、心に懸命に言い訳していた。
事故だぞ、事故と。
後ろから聞こえた声。
「見たよな」
「見た見た」
「見ちゃったの、忘れて」
「夏ちゃん、可哀想」
「うんうん」
ほんの五分前は、あんなに猫らしかったのになぁ。
あとで、ささみジャーキーで手を打った俺だった。
出掛ける為に、秘密兵器の水のいらないシャンプーで
二匹をしっかりと洗わされたというのに。
次の話しでお会いできるかな、と少々不安ですがこの辺で失礼いたします。
お時間を使ってくれた方々へ、有難うございました。 不器用な黒子