三章 一言の御礼 編
夏への告白という第一関門は抜けた、いよいよ不思議な能力を身に付けたアディダスを夏に引き合わせる時が来たのだが・・・・・
二人に再会したデブ猫、アディダス。
パリ帰りの夏は、ネーミングが今ひとつだと、
腕組みをして考え込んでいる。
「俺はそんなにおかしくないと思うけどな」
「アディダ・ん~、アディス、どっかの国の挨拶みたいだし
ディス・・・アディ~、アディーいい、ね思わない?」
「アディーってより、ボディーに近いような」
「おっおっほん」
「おっ、い・・いいんじゃないか、パリ帰りの夏らしいよ、うん」
「アディー、決まり今日から家の飼い猫、やっほー、アディー」
「元に戻っていい?」
「元?」
「お前、デブ猫じゃないの?」
「これは、猫の世界で生きていくための姿」
トコトコと部屋を出て行ったアディー。
「どっかにファスナーでもあるのかな」
「いくら何でもそれは・・・だって小さくなってたし」
「へえ~」
「お、お前・・・そりゃちょっとかっこよすぎないか」
「これが今の俺、小さくなってたのは気付いてくれると
思ったから、逆効果だったけどね」
「ほんとに、しゃべれるんだね・・・・凄い」
「それよりさ、その足、いや・・手」
「これは本来はこうなんだ、術を使ってると消えちゃって
舐めたり水に濡らすと見えるんだけど」
「何で、あんなブサカワに?」
「ブサイクで可愛いか・・・喜ぶとこなのかな」
(そこか?ギャル言葉わかるお前のが、気になるとこじゃねえかぁ)
「しばらく渋谷に居たからさ、海ちゃん」
「こ、これも先に言っておく、こいつ人の
考えていること悟れるんだ、気を付けて」
途端に顔を赤くした夏が、アディ―を見つめる。
「大丈夫、言わないよ」
「え?なに何で俺の時はすぐ言うじゃん」
「何でもないよ、ねアディーっで、渋谷で覚えたの
その~おっきくなったり、小っちゃくなったり、
マギーさんみたいなのと、人と話せるの」
それは・・・・・・・
「いいんだ、無理に言わなくても、なぁ夏」
「違うんだ、どう言えば・・」
グルゥグルゥゥ
「おな・・か空いてるの?」
(そうだった、忘れてた)
「今取ってくる、鍵 キーっと」
「しっかしよく食べるな」
「結構、んぐっ体力使うんだ、術」
尿に納得する夏の足元で、かなりの量あったはずの
餌は、ニュース番組を見ていた俺たちが、五つ目の
ニュースに差し掛かった頃には、綺麗に皿まで舐め
られ無くなった。
「あの時どうして居なくなったんだろうね、今でも
家にあるよ首輪とハウス」
「あの時お風呂で大変だったな、暴れる暴れるで」
夏の膝で眠るアディー、撫でられながら時折触れる
指先に、ピクンと反応する耳。
再び目を覚ましたのは、夏が日本で最初に見たかったという
お笑い芸人たちの、物まね対決が大取りを務めた芸人を、ステージ
へ送り出したときだった。
「ふ~ん、人間が人間の真似するのが、面白いのかにゃ」
「猫はしないの、例えば友達の真似とか」
「猫は猫だ、おれには人間はどれも人間にしか見えない」
「それが猫目線なんだね」
「でもさ、お前みたいに話せるやつって、そうはいないだろ」
「そうだよね、一杯いたら怖いかも」
「毎月の集まりには、結構来る五、んにゃ六十位」
「お前みたいのが、六十匹もいるってのか」
「そんなこと世界のどこにも見つかってないよ」
「世間一般に知れてしまった奴は、術は使えなくなる、
知られてないのが当たり前だ。」
「お前は?」
「海と夏ちゃんが誰かに教えてしまえば、そうなる」
「ダメだよ、海」
「夏こそ、俺は言わない」
「なら、ずっと二人と話せる、あとこれを覚えた理由だ」
「大丈夫なのか、仲間に狙われたりは?」
「心配ない、逆に言わないと二人の傍に居れない」
「何で?」
「うんうん」
「言葉を話せることがわかって、その人の元で
暮らしたいなら、そうする決まりになってる」
「でも・・さっきから気になってたんだけど
アディーは何処かで飼われてたんじゃないのか」
「もしかしてこれのこと」
初めて見た時にプレートだと思ったのは
少々違う、古ぼけた小さな・・お札か。
「それが術を使える証しってやつかなんか」
「さすが夏ちゃん、でもちょっと違うかな、これが
ないと力が抑えきれない、このお札には物凄い気
が込められてるんだ、一応紐でぶら下げてあるけど
術を身に付けた者からは、離れないようになってる」
「誰かがそれに気を吹き込んだってことか」
「海ちゃんハズレ、詳しい場所は言えない、誰も
近寄らないような山奥ってことだけ、そこに、
もう一本しかないんだ。だから嵐なんかで折れた
枝を使って出来てる、今は術を使える猫を増やし
てない、いけないことになってる」
「じゃあもしその木が無くなった時は?」
「誰もわからないんだ、木が無くなったことがないから」
「でもさっき言ってたろ、気を押えきれなくなるって
見たことあんのか、仲間で」
「あるよ」
「聞いて大丈夫」
「いきなり体が大きくなって・・・・・」
「破裂したとか言うんじゃないよな」
「そう」
「大丈夫、私が守ってあげる」
(ああ~ああんなに抱きしめて、これで三つも
先越されたな)
「修業は何度も逃げたくなったけど、良かったな
夏ちゃんにありがとうが言える」
「ちょっとまて、それだけのために?」
「そうさ」
「だから居なくなったの?」
「ずっと居たかったけど、どうしても言葉で
通じたかったんだ」
「あの小さかった体で、一人で行ったのか」
「ああ」
(やべえ涙止まんねえ、コイツ馬鹿だ)
「もうどこにも行かなくていいから、わかった?」
「あのときは、本当にありがとう夏ちゃん」
「うん、うん」
よく猫の手も借りたいって言うけど、
本当に借りてたんじゃないか、それは
この先何度も助けられ、コイツの存在が
大きくなるにつれて、思わずにはいられない
疑問だった。
そのうち何処かの国の歴史書で、猫が言葉を・・・
なんて見つかるかもしれない。
たった一言のお礼を言う為に、言葉を覚える猫も
居るのだから・・・・・。
夏はこの日から、何処に行くにもアディーを
片時も離すことはなかった。
それは暫くしてアディーが恋人、恋猫を連れてくるまで
続いたのだった、夏の雌猫に対してのヤキモチといったら
私の息子とか言ってたもんなぁ。
仕事から帰ったアパートのテーブルの上。
メモ書きが・・・散歩行ってくるから、夕飯はみんなで。
二匹の散歩が、夏の日課になった。
さ~て先に風呂入ろう。
風呂のドア、ホワイトボード。
アディー入浴当番、俺じゃんか。
お時間を割いて読み終えてくれた人へ、感謝です。
またお会いしましょう、黒子でした。