十四章 マタタビ吸ってまた旅立つ 編
飛び起きた海にあっけない知らせが・・・・
突然の地響きに飛び起きた。
既に隣に居た筈の夏の姿が無い。
ベッドの下にはきちんと畳まれた、ツナギ。
その上に、ホルダーと・・・ヘルメット?。
「海何時までもたもたしてんの、そっちワイヤー掛けて」
「え・・・わかった」
これから綺麗に皮を剥かれ、辺りに積んである丸太のように
艶肌を見せるであろう大木が、等間隔に敷かれていた若干細い
丸太の上に載せられていく。
「行かないのか」
「それなら後、後こっちが先」
「菜穂がクレーン乗ってんの?」
「UFOキャッチャー好きが高じて免許取っちゃったんだって」
「助かっちゃった、ココからなら私も皮むき出来るし」
「お役に立てて、泊めてもらったお礼が出来たかな」
「ええ、何だったらもう少し働いて行ってもいい位よ」
「私にもゲーマーという職が・・」
職なのかあれは、ゲーマーなんて履歴書に書いたら
採用してくれるとこねえぞ。
後に、それが有ったのだから、世の中解らん。
それを書いた此奴の頭の中は、もっと解らん。
日向で猫たちは、のんびり蹲っているし。
「もう少しで、一発目が上がってくるから
荷物大丈夫?」
「本当にありがとう、新しい家に住んだら連絡してね
御馳走するわ」
「楽しみ、あとそれ父から猫ちゃんたちにって」
早急に作ってくれたのか、ログハウスチックな小屋が。
親切に、全てビス止めで容易に組み立てができる作りだった。
勿論急いで解体させられた海。
頂いた薪広い用の背負子に載せる。
これを担当するのも勿論海だ。
「ところでさっきの続き・・」
「笑っちゃったわ、其処の木皮見てみてよ」
どっかで見たことのある、キャットマークが其処ら中に。
夏が樹奈の居場所を確認した、クレーンの操縦席に座り何やら
菜穂に指導を受けている。
「それ、手紙らしいよ。明け方近くにブルーが見つけたの
相手のボスが降参だって、静かに暮らすからって、仲間の
猫ちゃんたち解放されたみたい」
「へ?」
「残念なのは菜穂じゃない、あんなに持って来たのに
出番なしだもん、来たみたい・・・帰ろ」
菜穂がクレーンを操る姿に感心の様子で煙草を吹かす
樹奈の父の姿があった。
「まったく面白え姉ちゃんだ、華奢なくせに家の野郎ども
使いこなしやがった、あいつ等何時もより動きやがって」
「はははは・・・」
んん?
「夏、あれ」
「あら、アディ―が行ったわ」
入り口の向こうに一匹の猫が居た。
門を挟んで何か会話を交わしたらしいアディ―がやって来た。
「菜穂ちゃんに・・・頼んでくれ、海ちゃん」
「何を?」
「あいつ等、静かなとこに旅立つんだって、マタタビ有っただろ」
「おう分かった要らねえからくれるだろ、ちょっと待っとけ」
俺は菜穂から受け取ったマタタビのパッケージを
アディ-の口に咥えさせた。
受け取った猫はゆっくりと草薮に入って行って見えなくなった。
「姉ちゃん、また来いよ」
「機会があったらね、バイバイ」
従業員たちが菜穂にヘルメットを振った。
「必ず連絡する、二人お幸せにね」
「うん」
「ありがとう」
こうして俺は、偶然出会ったブルーマーリンこと樹奈のもとを後にした。
揺れる荷台に乗った、俺・菜穂・ブルー兄妹・アディ―親子・バッタ
ウインク・青。
帰ってからが騒がしくなるだろう。
夏は得意先ともあり、助手席ともいえるスペースに座った。
相変わらずのハイテンションで菜穂が一言。
「山に残った猫たちよ、マタタビ吸ってまた旅立つのじゃ」
心の中で俺は言った。
座布団全部取りなさい、アディ-君と。
一瞬振り返った猫たちだったが、すぐに居眠りを始めた。
心に聞こえた声が。
「キスしたくせに・・」
あれは不可抗力だろ・・・・・。
アディ―が欠伸交じりに鳴いた声は長かった。
それは猫語で、ブルー君座布団全部取りなさいだった。
期待外れな形で山を下りてしまいました。
少々物足りなかった方々、また次話でお会いしましょう。
有難うございました。
不器用な黒子