十三章 地獄耳ゲーマー編
つかの間の休息となった村と呼ばれる場所。
ここで思わぬ人物に・・・・・
中々下りられなくて、もう少々お付き合いを。
「そうかそうか、まさかお嬢さんが社長の娘さんとは」
「うちで扱ってたログハウスの材料が此処からだったなんて
変な縁ですね」
「帰りは、うちの運搬用のトロッコがいい、麓まで休める」
俺はズッコケた。
「トロッコ・・・・あったんじゃないか」
「そうね、でも楽しかったでしょ」
「ゆっくりしててくれ、最後のトロッコが戻ってくる
明日の分積んでおかないと、さあやるぞ」
立ち上がった従業員。
その誰もが、丸太のような腕を振り回す。
「樹奈はいいや、夏休みにこんなとこ来たんだ」
「今日は特別に洗濯物たたんでやろっかな」
「そりゃ楽しみだ、久しぶりに母ちゃんが畳んだ仕事着が
着れる気分だ、わあっは・・・」
ひと際太い腕の男が言いながら、分厚い皮手袋を嵌めていた。
「それにしても猫が好きなのね」
「え、ええ。この辺で最近変わったこと、何か聞いてない?」
「猫で思い出した、随分熊にやられてたらしいよ」
悲惨な状況は、そう見えても不思議はないだろうが
熊にしてみれば、いい迷惑だろう。
「でも助かっちゃう、何時もなら捨てちゃうとこだけど、
綺麗に食べてくれたもん」
「ははは、・・・」
こいつら少しは遠慮しろ・・・まあしょうがないか。
「ああここ、電波ある」
「ああそれね、何か大手の建設屋さんが、国に掛け合ったんだって
裏にアンテナ建ってるよ」
取引先と連絡とれなきゃ、社長らしいな。
「住まいはどっちなの」
「○○埼のすぐ近く」
「わあ、偶然・・今度そっちに家が建つの」
「家だって、案外海が建てたりしてね」
「あり得る」
ブルーが足元に擦り寄った。
「ん?」
「開けてほしいみたいね、ちょっと待って」
ところが、ドアは空いたがブルーはドアの前から動かない。
「一人で行くのが怖いのかな」
「私が行くわ」
夏がブルーを抱え出て行った。
「海君・・」
「え?んん・・・」
振り返った海は言葉を失った、正確にいうと出せなかった。
目の前に彼女の顔があり、その唇はしっかりと海の唇に重なっている。
「んあ、何で?」
離れた唇から出た第一声。
「お見合いを断ってくれたお礼よ」
夏が大間のホンマグロだとすれば、こっちはブルーマーリン
メカジキってやつ、逃した魚は・・・ってやつか。
「今のは忘れてね、あんな可愛い彼女じゃ勝ち目無かったし」
「そんなことない、十分可愛いし」
「ありがと、やさしいね」
そういって軽い気持ちで太腿辺りを叩いた樹奈。
「あぐうっ」
「え?」
「いやなんでも・・・はは」
傷口開いた。
浮かない顔で戻ってきた夏、ブルーを床に下した後も
半ばぼーっとしたままチェアーに腰かけた。
「どしたの、夏」
「残るって」
「傷がか」
「ばか」
「バカが残るって何」
「ブルーに決まったんでしょ、天然お前が残れ」
「それいい、でも私が貰っちゃうよ」
「駄目、やっぱ連れて帰る」
妹が残るって言ったのか・・・よーし。
俺はアディーを呼んだ。
猫語はさすがに無理だ、ここはコイツしかいない。
樹奈は各部屋の洗濯物に向かっている。
「アディー」
「わかってるよ、説得すればいいんだろ、で、何くれる」
足元見やがって・・・・っぷ、そうか。
「お前の嫁さんにしちゃえ」
「そ、そうかアニキその手があったじゃん」
食いついたのはブルーだった。
お袋猫も満足げに鳴く。
「向こうにも選ぶ権利がある」
話してみれば何のことはなかった。
行きたくないじゃなく、恥ずかしいから行きづらいだった。
「アニキのこと忘れてなかったんだって、拾ってくれたアニキのこと」
俺は思った。
猫は三日で恩を忘れる、ってのは嘘なんだと。
「樹奈あ~、珍しい客人がもう一人だ」
「は~い今行く」
「こんなとこに来る人、他にもいるん・・・」
ガチャっ
「二人の知り合いだって、凄い恰好」
「二人でアウトドアなんて、どうしてこの菜穂様を呼ばないかな」
「ほんとに聞こえたのか」
「菜穂それ何が入ってるの?」
「そりゃもちろん山って言ったらゲーム、色々よあと
あれ一杯増えてんじゃん、まあ足りるなこれ」
マタタビ?
「樹奈さんでしたっけ、これは挨拶代りでどうぞ」
「わああスイカ、いいんですか」
「どうぞどうぞ、麓の農家のおばちゃんと仲良くなっちゃって
貰い物ですけど」
その荷物に、そのでかいスイカでったく、でも待てよ。
「夏、コレ行けるんじゃねえか」
「私も思った」
「菜穂えらい」
思わず抱き付きそうになった俺は、何とか方向変換し
隣の夏に抱き付いた。
「意味わからん、岩場からでも落ちて頭打ったか」
「打った、打ったけど今ホームランを打ったのはお前だ」
菜穂は首を傾げ、樹奈と顔を合わせる。
樹奈も首は傾げられていた。
その日の夜、やたらごついおじさんに気に入られていた菜穂。
危なく裸踊りに参加しそうになっていたが、夏の手によって
それは免れた。
菜穂のリュック、中はほとんどどれも強力そうなエアーガンだった。
申し訳なさそうに、食い物が少々、普通逆だろ。
これもアディ-の不思議な力だったのかも知れない。
その頃、外に出た猫たちは。
「明日は誰も死ぬなよ」
「ああ、お前らみたいに良いとこ住みたいからな」
「住めるさ」
「来てくれて助かった」
「また、集まってワイワイやろうぜ」
「生きてな」
「青は無理すんなよ、妹の傍に居ていいぞ」
「冗談いうな」
一斉に鳴き声を上げる。
宣戦布告ともいえる声を。
ポツリとウインクが言った。
「おれ、夏って人は守りたいな」
頷き合ったあともう一度鳴いた。
何処かでフクロウが返事を返すように鳴いた。
また次話でお会いでき・・・・るかな
少々不安ですが、失礼します。
ありがとうございました・・・・・不器用な黒子