表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

転生させる者

作者: YolloY

「私は神だ」

「は?」


この俺、田中裕也は今日死んでしまったらしい。俺は普通の人生を送ってきた。容姿が優れているわけもなく、中肉中背。偏差値が平均的な高校を卒業し、大学を行く気にもならずに地元の会社で一年ほど働いていた。このまま過ごすのだろうと漠然と考え、しかし行動を起こすほどにはアクティブに出来ていなかったのだ。


そして今、この青年の姿をした自称神のミスによって本来死ぬべきだったはずの者が死なずに生きており、俺が代わりに死んでしまったのだと言う。


「ふ、ふざけんじゃねぇぞ!」


そりゃあ怒鳴るのも無理は無いだろう。なんせこちらに過失は何も無いのだから。


「本当にすまなかった」


神は土下座しながら謝っている。その頭に足を乗せながら俺は


「てめぇのミスなんだから、俺の言う事ぐらい聞いてくれるよな?」


と、脅すのもまぁ当然だろう。そうするとこの神とやらは、生き返るのはできないが転生していくつかの願い事を叶えるのならば可能だと言うではないか。その願い事として俺は最強の力やら不老不死やらの大量の願いを叶えさせ、さらに剣と魔法のファンタジーの世界に転生させる事にした。


「ああ、気をつけて行ってくるがいい」


そう言い放った神が気に入らずに蹴飛ばしてから、俺は転生できるという扉から出て行った。




------------------------------------




それからその男の人生はそれはそれはひどいものだった。たしかに最初は自分勝手に生きて人生を謳歌していた。容姿の優れた女を犯し、好きな酒や食べ物を片っ端から食い散らかし、邪魔をするやつらを殺し続けた。だがそれも不老の人間にとって短い間だけ。


洗脳した以外の周りの人からは嫌われ、心を読む力のせいで人が信用できない。いくつもの国から嫌われ続け、その敵対した国を滅ぼしたことも珍しくない。


ついにはその世界そのものである神が現れ、その男を拘束し地獄に落とした。不死としての力が無くなるまでの17万3600年の間、生地獄を味わうはめになったのだ。


それを見た"私"は


「あはははははははっ!!なんて無様な人生だっ!」


腹を抱えて哂っていた。

ああ、ああ、当然だ。そんな都合の良い話があるはずがない。


神によるミスで死んだ?まさか神が人間をそんなに事細かく管理しているとでも思っているのか。それに誤って殺してしまった所で、何の感慨も浮かばない。


嗤い終えた私は、あの男に土下座していた青年の姿をした人形を処分し、一息ついた。


たとえ冗談とは言え、雑魚風情に土下座などするわけにもいかない。そんなことは私の気分に大変よろしくない。アリを踏んでしまった所で、そのアリに対して本気で土下座をする者などいるだろうか。アリとの違いなど言葉を話すかどうかぐらいしかない。


先ほど私がやっていたのは、適当に死んだ人間を見繕って遊んでいただけだ。死んだ魂を連れてきて人形に対話させる。その人形は相手の思う気持ちを都合の良いように反射して相手に与える。


今回の男は自分はまだ死なない、と漠然と考えていたために相手に理由を求めた。その死んだ理由に対して悪意を持ったためその悪意をも反射した。つまり人形はその男に対して能力を与える過程で不幸になるように調整し、その能力を持っていようとも勝てない相手の存在する世界に送ったのだ。


「ああ、楽しかった」


私は満足した。今回は普通の男が神(の創った人形)に対して悪意を持ってしまったばっかりに不幸になってしまった喜劇だろう。だが今度は本物の悲劇が見たくなった。


不幸な人生を送ってきた善意の塊ともいえる人間の魂をすでに見つけている。その人間が転生した先に、どれほど善意を持とうとも不幸になってしまう、というのはどうだろうか。

不幸塗れの人生に絶望し死んだ後、実はその絶望がまだまだ底なしだと知れた時どのような表情をしてくれるだろうか。考え始めたら楽しみでたまらない。


私は別に転生させた人間全てを不幸にしているわけではない。転生した後幸福な人生を送ってきた人間も多くいるのだから。だからと言って善意を持っているわけでもなく、善意も悪意も合わせてただの暇つぶしである。


「そうだな、次は私が対話してみるか」


もちろん土下座などせずに。



神様なんてこんなもんだと思う。


人間に土下座とかしないよね普通

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ