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地球のどこかで起きたかもしれないSF(すこしふしぎな)×SS(ショートショート)集

ヒーロー投下作戦

作者: 有馬 泉貴
掲載日:2025/12/18

ある日、世界のある国に正体不明(しょうたいふめい)の怪物が現れた。

それは10メートルを(ゆう)に超える(うろこ)(おお)われた緑色の巨体(きょたい)に、爬虫類(はちゅうるい)のような縦長の瞳孔(どうこう)の瞳、口には鋭く(とが)った牙がびっしりと()えそろい、手足には鋭い鉤爪(かぎづめ)が何本も生えていた。突如(とつじょ)、海から現れたその怪物はずしんずしんと轟音(ごうおん)を辺りへ響かせながら、我が物顔(わがものがお)で国中を歩き回り、人や建物を踏みつぶしていった。


政府はさっそく国に所属する軍を総動員(そうどういん)総動員(そうどういん)し、怪物に攻撃を仕掛けた(しかけた)。しかし、どんな高威力(こういりょく)の攻撃も怪物に()いている気配が一切ない。それどころか、周りを飛んでいる戦闘機(せんとうき)や足に(まと)わりつく戦車が鬱陶しい(うっとうしい)のか、太いしっぽではたき落とされたり、踏みつぶされてしまった。


政府の高官たちは困ってしまった。他国と敵対したときの最終手段として、地球の半分を消し飛ばす超威力(ちょういりょく)の兵器も持っていたが、怪物がいるのは自国内(じこくない)。使ってしまうのは、自分の首を()めることになる。しかし、このままでは打つ手がなく国が(ほろ)んでしまう。


そこへ政府(せいふ)情報機関(じょうほうきかん)の職員が(あわ)てて駆け込んできた。

「総理!近隣(きんりん)小国(しょうこく)にヒーローがいるとの情報が入りました!」

「なに?!」


それはいつも自分たちが見下している、海を(へだ)てて隣にある国だった。昔、その国と戦争をしていた歴史があり、世界平和となった現代では表面上は何もないが、いまでも表面下では相手への規制(きせい)偏向報道(へんこうほうどう)を続けていた。こちらの方が世界的に見ても圧倒的に力が強く、助けを借りるのは(しゃく)だが、これを()に相手への規制(きせい)などを緩和(かんわ)してやってもいい。


「ヒーローの貸し出しを要請(ようせい)しろ。ただし、下手(しもて)には出るな。あいつらの顔色(かおいろ)をうかがう必要はない」

「かしこまりました」


早速、隣国に連絡をしたところ簡単に承諾(しょうだく)の返事がきた。

しかも、今後も同じことがあれば困るだろうから、譲り渡す(ゆずりわたす)という。ただし、給料などはそちらで支払うことと、こちらで困ったことがあれば返して欲しいとのことだった。


「馬鹿な奴らだ。こちらが少し強気に出れば、腰が低くなる。誰が、お前たちが困ったときに返すものか」

「これだから、落ちぶれていく国は嫌ですね。僕はこの国に生まれてよかったです」

政府の高官たちは顔を見合わせて笑い合い、隣国からのヒーローの到着を待った。数時間後には無事にヒーローが到着し、かくして怪物を倒すためヒーロー投下作戦が行われた。


そのころ。

ヒーローを(ゆず)った国の高官たちは、高級そうなホテルの広々とした広間で、ワインを傾け合いながら笑い合っていた。

「あいつが、いなくなってせいせいした」

「今頃、隣国では頭を抱えているんじゃないか」

実は怪獣の破壊活動による損害よりも、ヒーローの過剰(かじょう)な攻撃による損害の方が大きく、この国では長年悩みの種だった。ようやく怪獣を退治できる方法を見つけ、ヒーローがお払い箱(おはらいばこ)になったものの国民からは(した)われていることから厄介払い(やっかいばらい)ができず困っていたところだった。そこで自尊心(じそんしん)の大きい隣国に怪獣を誘導(ゆうどう)し、自発的(じはつてき)にヒーローを求めるように仕組んだ訳だった。


こうして隣国に(ゆず)った(てい)にすれば国民からも不満が出ないし、怪獣とヒーローの二段階(にだんかい)損害(そんがい)で経済に大打撃(だいだげき)を与えられる。

「ヒーロー投下作戦、成功しましたね!」

高官たちはグラスを掲げて乾杯し、作戦の成功を祝った。


【おしまい】

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