地球のどこかで起きたかもしれないSF(すこしふしぎな)×SS(ショートショート)集
ヒーロー投下作戦
ある日、世界のある国に正体不明の怪物が現れた。
それは10メートルを優に超える鱗で覆われた緑色の巨体に、爬虫類のような縦長の瞳孔の瞳、口には鋭く尖った牙がびっしりと生えそろい、手足には鋭い鉤爪が何本も生えていた。突如、海から現れたその怪物はずしんずしんと轟音を辺りへ響かせながら、我が物顔で国中を歩き回り、人や建物を踏みつぶしていった。
政府はさっそく国に所属する軍を総動員総動員し、怪物に攻撃を仕掛けた。しかし、どんな高威力の攻撃も怪物に利いている気配が一切ない。それどころか、周りを飛んでいる戦闘機や足に纏わりつく戦車が鬱陶しいのか、太いしっぽではたき落とされたり、踏みつぶされてしまった。
政府の高官たちは困ってしまった。他国と敵対したときの最終手段として、地球の半分を消し飛ばす超威力の兵器も持っていたが、怪物がいるのは自国内。使ってしまうのは、自分の首を絞めることになる。しかし、このままでは打つ手がなく国が滅んでしまう。
そこへ政府情報機関の職員が慌てて駆け込んできた。
「総理!近隣の小国にヒーローがいるとの情報が入りました!」
「なに?!」
それはいつも自分たちが見下している、海を隔てて隣にある国だった。昔、その国と戦争をしていた歴史があり、世界平和となった現代では表面上は何もないが、いまでも表面下では相手への規制や偏向報道を続けていた。こちらの方が世界的に見ても圧倒的に力が強く、助けを借りるのは癪だが、これを機に相手への規制などを緩和してやってもいい。
「ヒーローの貸し出しを要請しろ。ただし、下手には出るな。あいつらの顔色をうかがう必要はない」
「かしこまりました」
早速、隣国に連絡をしたところ簡単に承諾の返事がきた。
しかも、今後も同じことがあれば困るだろうから、譲り渡すという。ただし、給料などはそちらで支払うことと、こちらで困ったことがあれば返して欲しいとのことだった。
「馬鹿な奴らだ。こちらが少し強気に出れば、腰が低くなる。誰が、お前たちが困ったときに返すものか」
「これだから、落ちぶれていく国は嫌ですね。僕はこの国に生まれてよかったです」
政府の高官たちは顔を見合わせて笑い合い、隣国からのヒーローの到着を待った。数時間後には無事にヒーローが到着し、かくして怪物を倒すためヒーロー投下作戦が行われた。
そのころ。
ヒーローを譲った国の高官たちは、高級そうなホテルの広々とした広間で、ワインを傾け合いながら笑い合っていた。
「あいつが、いなくなってせいせいした」
「今頃、隣国では頭を抱えているんじゃないか」
実は怪獣の破壊活動による損害よりも、ヒーローの過剰な攻撃による損害の方が大きく、この国では長年悩みの種だった。ようやく怪獣を退治できる方法を見つけ、ヒーローがお払い箱になったものの国民からは慕われていることから厄介払いができず困っていたところだった。そこで自尊心の大きい隣国に怪獣を誘導し、自発的にヒーローを求めるように仕組んだ訳だった。
こうして隣国に譲った体にすれば国民からも不満が出ないし、怪獣とヒーローの二段階損害で経済に大打撃を与えられる。
「ヒーロー投下作戦、成功しましたね!」
高官たちはグラスを掲げて乾杯し、作戦の成功を祝った。
【おしまい】




