表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/5

第2話 契約しない魔法少女

「え〜、では本日の報告です。星空りん、魔力特性:きらめき系。魔法使用:昨日と本日、合わせて3回。

 目撃証言あり、映像記録あり、協会への正式契約なし。……うん、立派な違反者♡」


「言い方ぁ」


 朝のトーストをかじりながら、わたしはソファに寝そべった。


 ルチルが頭の上でくるくる回ってる。うるさい。でもちょっと癒される。


「ていうかさぁ、ほんとにわたし“監視対象”になってんの?」


「なってるどころか、今“実験対象No.1”だよ? 協会の研究班、君の魔力構造見てざわついてたし」


「え、あたしってそんな変なの?」


「“演出過剰型魔力拡張体質”。別名、“うっかり魔法少女属性”」


「ひどない?」


 ルチルはしれっと言ってから、わたしのスマホの上に座った。やめろ、それロック解除できるから。


「でも、協会的には“放置できない未契約魔力持ち”って扱いだよ。そろそろ誰か派遣されると思うよ、対話用とか説得係とか」


「ふーん……誰が来ても落とすけどね〜♡」


「君、もしかして“面接不合格フェチ”?」


「ちがうし! でも、ちゃんとわたしのこと“否定”してもらわないと、逆に困るでしょ?」


 正義のためとか、正解のためとか、そういうのは、他の誰かがやってればいい。


 わたしは、わたしの“好き”を守るだけ。


◇ ◇ ◇


 その日の午後、中央公園の片隅。


 わたしはフリル多めの衣装で、ささやかにステージの練習をしていた。


 もちろん魔法は使ってないよ? これは“表現活動”だから合法♡


 ルチルがちょっと離れたベンチにいて、スマホでタイマーを見てる。


「はい、振り付け9秒ずれた〜。あと目線ブレてた〜。顔はかわいかったけど〜」


「顔はかわいかった♡ よし合格☆」


「うん……ああ、なるほど、君が問題視される理由わかってきた」


「はいはい、あとで♡」


 わたしはリボンを整えながら、夕暮れの風を感じた。


 そのとき。


 空気が変わった気がした。


 背中に、視線。……いや、“魔力の気配”。


 

 そして、聞こえた。


 

「――あなたが、星空りん?」


 

 静かで、低いけど、まっすぐな声。


 振り返ると、そこに立っていたのは――


 風守いずみ。


 協会直属の精鋭魔法少女。その目は、冷たく光っていた。



 目が合った瞬間、空気がピンと張りつめた。


 その子は、風をまとっていた。


 制服じゃない。協会の戦術魔法少女用スーツ。

 無駄のないシルエット、冷たい銀のアクセサリ。

 髪はすっきりまとめられていて、目つきは鋭い。まっすぐ。


 ――なんか、真面目そう。


「あなたが、星空りん」


「は〜い♡ ピンポ〜ン☆ って、だれ?」


「風守いずみ。魔法少女協会、戦術局所属。任務で来た」


 やっぱり、協会の人だ。


 っていうか、え、ガチの魔法少女来るの早くない? 昨日落ちたばっかなのに。


「おつかれさまです♡ 差し入れとか持ってきてくれた?」


「……違う。未契約魔法少女への警告と確認だ」


「あ、そっちか。うん、わたし契約しませ〜ん♡」


 にっこり笑って答えると、いずみはほんの一瞬だけ、言葉を止めた。


 ……あ、今の刺さったな。


「君の魔力使用は、規定違反に該当する。昨日の行使も含めて、すでに協会は君を“異常魔力保持者”とみなしている」


「ふむふむ。“異常にきらめいてる”ってことで、よろしいかな?」


「勝手な解釈はやめろ。これは警告だ」


 その目は、本気だった。真っすぐすぎて、ちょっとだけ怖い。


 でも、わたしは引かないよ。


「じゃあ、聞くけど」


 わたしは一歩だけ、前に出た。


「“契約しないと魔法使っちゃいけない”って、その契約が“絶対”って、誰が決めたの?」


「秩序を守るためだ。魔法は感情で暴走する。だからこそ制御と監視が必要になる」


「……じゃあさ、“わたしが暴走しない”って証明したら、契約なしでもいいの?」


「証明できるなら、の話だ」


 その声には、確かに揺らぎがなかった。


 でも、どこか――小さく、迷ってる気配もした。


「ふーん。じゃあ、見ててよ」


 わたしはふわっと回って、スカートをひらり。


 風の中に、きらめきを巻き散らすように立つ。


「わたしの魔法が、わたしのためのもので。

 それが誰かを傷つけたり、奪ったりしないってこと。

 ちゃんと、見せてあげるから」


「君の魔法は、自己満足だ」


「うん♡ その通り」


 即答したわたしに、いずみの目がほんの少しだけ――揺れた。


「でもね」


 わたしは、微笑んだ。


「自己満足でここまで輝ける子、なかなかいないと思うよ?」



 いずみは何も言わずに去っていった。


 わたしは見送るでもなく、その場にしゃがみこんで、ジュースのストローをくるくる回した。


 風、まだちょっとだけ残ってる。


 彼女の魔力の名残。


 すごいなって思った。

 あれだけ真面目で、完璧で、迷いがなさそうで。

 “協会の魔法少女”って言われて、納得しちゃうくらいには、絵になってた。


「でも……それだけ、なんだよね」


 口に出して、苦笑いした。


 誰かの“正しさ”は、いつだって押しつけがましい。

 その“正義”を疑えない人は、きっと――すごく、さみしい。


 

 わたしは、違う。


 正しさより、楽しさ。

 誰かのためより、わたしのため。


 それが、わたしのスタンス。


 

 だけど。


 

「……“わたしのため”って、意外とむずかしいんだよね」


 だって、ほんとはちょっとだけ、あの子の目、気になった。


 まっすぐで、冷たくて、でもどこかに揺れがある。


 

 それはきっと、“あたしの中”にもあったもの。


 だから、気づいてしまう。


◇ ◇ ◇


 その夜、風守いずみは報告書の前で手を止めていた。


「星空りん。観察対象A-07。未契約魔法少女。

 異常魔力保持、かつ協会規定への強い拒絶傾向あり」


 文字にするたび、違和感が膨らむ。


 彼女の言葉は、たしかに協会から見れば“逸脱”している。


 でも――


 

『自己満足でここまで輝ける子、なかなかいないと思うよ?』


 

 その言葉が、耳の奥にこびりついて離れなかった。


 

「……何を言ってるんだ、私は」


 首を振って、報告書に一文だけ追記する。


 

 『引き続き、観察を推奨。

  接触は最小限に留めることが望ましいが――注意すべきは、

  “彼女の魔力”ではなく、“彼女という存在そのもの”かもしれない。』


 

 風が揺れる。


 いずみは、視線をそらした先で――

 もう一度、あの歌声を思い出していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ