まさかり
討伐二日目となりましたが、二日目も熊の退治には至りませんでした。
帰り道にまた広場の調査を行います。
「む?昨日と異なり丸太が散乱しているな。」
そう昨日よりも広場が荒れているのです。
転がっていた丸太の一部は股が裂けたように割れていたり、まっすぐと切れ目がついていたりしています。
「この切り口、斧みたいなもので切り付けた感じだね。」
切り口は小型の刃物で斬られたようです。薪の作成とは思えません。
「割れているほうは力任せにやってように見えるが……うーむ。」
おにーさんとおねーさんには皆目見当がつきません。
広場の主らしき者は見当たらず今日も帰ることにしました。
「熊退治も大切だが、あの広場もあのままというわけにはいくまい。」
おにーさんはおねーさんと方針を改めて話し合います。
「広場の主が良き魂のものならいいけど……熊の合間に調査を続けるしかないね。」
この地に呪を招く悪しき魂なら討伐しなければなりません。
しかしながら、なかなか出会うことができません。
熊退治を始めて7日目、おにーさんとおねーさんは今日も山へと入ります。
ぐおおおおおおおお!!
山に入って少ししたところ熊の咆哮が聞こえました。
「ついに現れたか!」
おにーさんとおねーさんと柴ーずは咆哮が聞こえた先に急ぎます。
そしてその聞こえた先はいつもの広場でした。
「この先は広場だったはず!正面から戦うことになりそうね!」
しかし、広場には先客がいました。
「む!?だれかいるぞ、いったん隠れよう」
おにーさんとおねーさんと柴ーずは近くの茂みに隠れます。
広場にいたのは2メートルくらいの熊と幼子でした。
熊は幼子に向けて手を振り上げ迫ります。
「なぜ、おのこがこのような場所に!?助けなければ!」
おにーさんとクロは茂みから飛び出そうとします。しかし、その瞬間幼子が動きました。
「てい!」
幼子は熊に向かった前転運動にて熊の手を回避します。そしてすれ違いざまに背負ったまさかりで熊の足を斬りつけます。
『ぐおおおお』
一撃くらった熊は一瞬怯みますが、効いていなさそうです。
幼子は回転運動からのバックステップで再度勢いを乗せてもう一度熊の足を斬ります。
『ぎゃううう』
さすがの熊も同じ場所に攻撃を受けたせいか体制を崩します。
「てい!てい!」
幼子はその隙を逃さずまさかりで頭に向けて乱打します。
熊は防御しますが、幼子の攻撃は止まらないため、たまらず後ろに下がります。
「とおっ!」
幼子は下がった熊に対しまさかりを投げ追撃を入れます。
まさかりは熊の眉間に当たったため、熊は大きくのけぞりました。
『ぎゃううううううう』
熊の大きな隙に対し、幼子は前進し熊の股座に入り込みます。
「はあっ!」
なんと幼子は熊の股座から足をつかみ抱えこむではないですか。
そして次の瞬間、幼子は熊を上へと放り投げました。
熊は慌てますが空中ではどうしようもできません。
幼子は空中の熊めがけて飛び上がります。
「えええええい!」
幼子は空中で熊を捕まえ、熊の首を肩に乗せ両手で熊の両足をホールドします。
そして熊を抱えたまま落下を続けます。
ガガァン!
地面と激突とともに土埃が辺り一帯に舞いました。
やがて土埃がはれ、おにーさんと黒はどうなったか目を凝らします。
埃がはれた後に見えたのは、両足をホールドしたままの幼子の姿です。
幼子が、両足のホールドを外すと熊はゆっくりと後ろに倒れこみました。
「今おのこが熊に対してやったのはまさに、首折り・股裂き・背骨折りを一度に行う荒業……なんというおのこだ!」
おにーさんは幼子が行ったことに対して戦慄します。
おにーさんはクロを横に従え、ゆっくりと幼子に近づきます。
幼子もこちらに気付いているようでした。
幼子と会話できるくらいの距離に近づいたとき、幼子はゆっくりと立ち上がりそのまま倒れました。
「む!?」
おにーさんは慌てますが、そのとき不思議なことが起こります。
空間が不思議な光に包みこまれ広場とは違う場所へと変化したのです!
『ヒトの礎を築くものよ』
男とも女ともつかない声が響きます。
「なにやつ!?」
おにーさんは辺りを見回しますが声の主は見つかりません。
『私はこの星のクリスタル、世界を救うためにその器を持つものに力を与えました。』
「器?」
『そうこの子らです。』
不思議な光は先の幼子を宙に浮かせます。
『器ですが、この子らもまたヒトとなりしもの、力は与えましたが自分の力で聞いて見て考えて世界とともに生きてほしいのです。』
『世界とともに生きるためにヒトの礎となるものとの接触を待っていました。』
「どういうことだ?」
『あなたたちの下でこのこらを育ててほしいのです。それがこの星の、この世界を救うこととなります。』
そして声が消えるとともに空間も消えていき、気づけば元の広場となっていました。
「いったいなんだったのだ……」
疑問は残りますが、おにーさんの腕の中には先の幼子がしっかりと抱えられていました。
「俺たちの下で育てる……」
「じゃあ名前つけないとね」
どうやらおねーさんも先の声は聞こえていたようです。
「さっきの嵐のよぅな鳥のような動きから、ハヤタはどうかな?」
「そうだな、お前の名前はハヤタだ!」
おにーさんとおねーさんと柴ーずに新たな家族が加わりました。
ハヤタの胸にはとても小さいクリスタルが抱えられていました。さきの星のクリスタルと同じ色の……。
かくして、ヒトの世界を救う旅ははじまった。
2人と3匹による器たる子を探す旅が……。
そしてその子らによる世界を救う旅が……。
子らは、今は知らないがいずれ知ることになる、自らに与えられた使命の大きさと、待ち受ける波乱の運命に。
子らが意味も分からず持つ不思議なクリスタル……。
はるか昔、その中には輝きがともっていたという。
さあ、旅立つのだ、ヒトの世界に輝きを満たすために。
知りませんけど。