タイトル未定2025/04/29 22:08
出会いから、共に過ごした期間よりも離れていた期間の方が長くなっていた。
感動の再会のはずが、帰ると知らない女がそこに居た。
「ただいま戻りました、、、あの、誰です?」
珍しくそこに居合わせたトワさんに尋ねる。
「おかえり。彼女は二週間くらい前に川辺で拾ってね、名前はユキだよ」
「川辺で拾ったって、それ絶対捨てられた奴隷ですよね。そんなペットみたいに連れてこないでくださいよ」
女性の奴隷が捨てられる場合の殆どは、性病や妊娠が理由だ。見た感じは健康そのもの。妊娠もしてないようなので問題はなさそうだけど・・・。
なんだかね。
倫理というか、気持ちというか、なんとなくの受け入れがたさがある。
「仕方ないさ、その時シオンいなかったんだから。決定権はないよ」
「まあ、いいですけど。ちゃんと世話できるんですか?トワさん碌に掃除もできないようですけど」
あたしも掃除なんて碌にできないし、恐らく世話もできない。後から責任を押し付けらえるのは嫌なので、予めあたしは世話しないと釘を打っておく。
「私が世話をするんじゃない、私が世話をされるんだ」
何を言っているんだろうか。
「私が勝手に言っているわけじゃない、ユキがそうしたいと言い出したんだ」
「そっちの方が信用ならないんですが」
そんな言い合いが続く中、本来は中心人物のはずなのに何故か一人蚊帳の外のユキさん。あたしとトワさんへ顔を交互に振って切り口を探している。それに気づいたトワさんがあたしを静止するとユキさんは安堵して発言する。
「その、お二人はどういったご関係なのでしょうか」
ユキさんの発言は、奴隷とは思えない言葉遣いだった。
「娘だよ」
トワさんがそう言うとユキさんは相当動揺した様子だった。
「違いますからね。ただの研究仲間です」
”ただの”かは怪しいところだが。
ユキさんはまた顔を交互に振って不安そうな表情をしている。
傍から見るだけで助けてほしいと言っているのが良くわかる。
あたしにはその姿が、泣けば助けてくれると思っている赤子のように映る。
「まあ、ともかくユキも一緒に暮らすから。承知しておいて」
「はいはい」
ユキさんはトワさんに背中を押されてあたしに寄って来る。
その最中に何度も後ろを振り向いて、トワさんに不安を伝えている。
トワさんは力を緩めることなく推し進める。
顔と顔がくっつきそうな距離まで近寄って、一歩下がる。
「シオン様!よろしくお願いします」
至近距離で音量調整を失敗した大声が耳をつんざく。
耳ではなく、何故か目をつむっていたら、いつの間にかユキさんは腰を直角に曲げてふかぶかと礼をしていた。
「はい、よろしくお願いします」
先輩なのか主人なのか、どちらにしろ立場が上な事には変わりなさそうなので、平静に挨拶を済ませる。適当ともいえる。
それはそうと、
「トワさん今から時間とれますか」
「ああ良いよ」
良かった。二週間以上も停止していた研究がようやく動き出す。
「呪いのコツを教えてください。丸2日頑張りましたが何もできませんでした」
「頑張ったね、感心だよ。でも残念なことに既存の呪いはシオンには使えないよ」
唐突の残酷な宣告。
「それは技術不足という意味ですか」
「そうじゃない。今ある呪いは悪魔が創り出したものだ。だからその呪いは悪魔を基準に悪魔前提で作られている。シオンには不可能なんだよ」
それはおかしい。
「でも、トワさんは使えるじゃないですか」
「当然さ僕は悪魔だからね」
記憶の片隅に追いやられていた“あれ”が本当のことだったと知る。と同時にあたしには呪いが使えないと理解する。一瞬、首筋のあたりに冷たさを感じた。
「とは言ってもそれは既存の呪いに限ったことだ。呪いの様式を変えるだけでいい」
俯いた心に一筋の光が差し込まれる。
「あの、あたしの楽しみを奪うのは辞めてもらえますか」
「二週間サボった罰だよ」
その瞬間、既に思考を巡らせていた脳内に一つの感情が一閃する。
知っている。これは怒りだ。
だけど、少し違和感がある。
だが何も表情には出さない。
「そうですか分かりました。驚かせてあげますよ」
あたしは澄ました顔でゆっくりと優雅に寝室へと向かう。
扉を開けて入って閉める。
その瞬間、爆速で机に向かい呪いの改良を模索した。
あたしに罰を与えたことを後悔させてやる。
あたしが如何に優秀か思い知らせてやる。
明日だ、明日にはあたしだけの呪いを作る。
トワさんがどれだけ教えを乞おうと絶対に教えない。
後悔させてやる。
よし始めよう。
傷つけられまいと必死で未熟な精神と、天井突破のプライドが掛け合わさって闘争心は熱く燃える。
年齢には見合わないプライドの高さ。それは自身の頭脳への信頼でもある。
卯月トワが自身と同等、あるいはそれ以上と捉えているからこそ。
あたしの知らない感情。あたしは今、怒りではなく嫉妬している。
嫉妬とはもっと醜いものだと思っていた。
今はそうとは思えない。だってあたしは今、楽しいから。