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タイトル未定2025/04/20 15:22

 彼、トワさんは悪魔だったらしい。

 正体を探ろうなんて意図はなかったのだが、何故か悪魔であることを暴露。

 たしかにトワさんが異形の存在だとすれば納得のいくところはある。書類に用いられたあたしの知らない言語。呪いが使える理由等々。

 それでも正直なところ信じ難いが、確かめる術もないのでこの話は流すことにした。

「驚いたかい」

「ええ、それはもう」

「いろいろと理解も追い付かないだろう、今日は休むと良い。自分の家だと思って好きにしてくれ」

「はい、どうも」

 あたしが素っ気ない返事を繰り返していると、トワさんは距離を詰めてくる。見上げるあたしと、見下ろすトワさん。40㎝ほどある身長差以上にあたしを威圧する何かを感じる。それが何かは分からない。ただ、あたしは今、怖い。

「手、だして」

 恐る恐る手を差し出すと、そこには鍵が置かれた。人に対して怖いと感じたのは初めてだったかもしない。

「私は地下室にいるから、それじゃ」

 トワさんは奥の暗闇へと消えていった。怒っていた訳ではなさそうだった。



 その後、休もうにもまだ昼間だったことに気付き、寝るわけにもいかないので暇つぶしに家の中を散策して回った。外から見ていて分かってはいたが、この家は相当広い。

 部屋の数は多いし、二階建てだし、地下まであるらしい。明らかにこんなに必要ない。

 二階は物置としてすらも使われておらず、完全に持て余している。一階ですら使われていない部屋があるくらいだ。

 一階と二階の内見が終わって、次は地下だと入り口を探しているが階段は見つからない。それどころか行き止まり。

 トワさんは地下室に行くと言って、確かにここを通って行った。

 暗くてその後はよく見えなかったけど。

 分岐のない行き止まりの不自然な通路。

「まさかね」

 疑心を抱きながら突き当りの壁に触れる。そのつもりでいたが触れられない。壁が水面のように波紋を描いて、指先がすり抜けていく。

「これも呪いなの・・・」 

 感触のない指先と幻の壁を見て声が漏れる。

 やはりその先には地下への階段があった。地下には書庫とトワさんの寝室らしき部屋があった。

 書庫を見つけたあたしは、あまりの嬉しさに持てるだけの文献を適当に掻っ攫ってしまった。しかし、その全てに例の言語が用いられており、とてもじゃないが読めなかった。

 自力での解読は効率が悪すぎる。

 そのことでトワさんに文句を言いに行った。

「休まないのかい」

「生活リズムは崩さない主義なので」

「そうか。解読法を教えてもいいが、それだけで理解できる内容じゃないぞ」

「どのみちいつかは必要になるでしょう」

「そうだが、道筋ってものがある。先ずは基礎からだ。」

 解読法は教えてもらえなったけど、まあいいか。

「魂・HOPEの存在、理屈は理解しているかい」

「はい、あたしは使えませんが」

「呪いもHOPEと同じ。どちらも元はただの思念でしかない。HOPEは思念が形を持ったものだ。こんふうに」

 トワさんの前に、白く輝き炎のように揺らめく魂が現れた。

「これがHOPEですか」 

「見るのは初めてかい」

「はい、空想のものだと思っていました」

「呪いには形がない。だが、肝心なのはそこじゃない。呪いとHOPEには根本的な違いがある」

「勿体ぶらないでください」

「ああ、HOPEの根幹は「○○をしたい」なのに対して、呪いの根幹は「○○をしてあげたい」にある」

「それはつまり・・・」

「呪いの起点は自身ではなく、対象の他者にある。それ故に必中だ」 

「それだと呪いは攻撃に使えない訳ですか」

「そう、基本はね。それに一人だと使えない」

「何と言うか欠陥だらけですね」

「さっき呪いを使っただろう。実はあれが数年ぶりの呪いだった」

「あの炎と音が消える呪いがですか」

「ああ、助かったよ。シオンがこなかったら暖炉に火も灯せていないからね」

「あたし助手というよりただの道具ってことですか」

 あたしの存在意義が危ぶまれる。

「いやいや、シオンにはやってもらいことがちゃんとある」

「よかったです。才能の無駄遣いは嫌いですから。それであたしは何をするんですか」

「それは今度教えるよ。先ずは基礎からだ。外へ行こう」

 そうですかと返して、あたしたちは家の裏山へと移動する。こうも近くで山を見ると、山というよりも絶壁のように感じる。

「行くよ」

 見慣れない景色に見とれていると、トワさんはそう言って山の中へと入っていった。あたしも後を追う。

 整備されていない足場の悪い道が必要以上に体力を削る。まだ傾斜はさほどないが、肩で息をするほどに険しい道のりを進む。トワさんに疲れた様子もなく、身体能力の格差を強く感じる。

「シオン、このペースだと日を跨ぐぞ」

「無理、はぁ、ひわないで、はぁ、ください」

「もう限界か」

 トワさんはため息をついて指を鳴らした。

 途端に疲労が回復する。

「行くよ」

 トワさんはペースを上げて突き進む。あたしも後を追う。

 疲労が回復しただけでなく、明らかに身体能力まで向上している。

 木々の隙間を風のように駆け抜ける。5m以上ある崖すらもひとっとび。

「これも呪いですか」

「そうだよ」

「すごいですね」

 胸に手を当てて呟く。きっとトワさんには聞こえていない。

「ペースを上げるよ」

「はい!」

 まるで小学生のように無邪気な返事で答えた。ほの暗い夕日の微かな明かりを元に進んでいく。


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