タイトル未定2025/04/17 23:43
この世は不思議なことでありふれている。
調べてみればただの錯覚、ただの嘘、ただの知識不足それらの理由によるものが大半だった。
初めは理由解明の喜びに心躍らせていたものの、いつしか退屈に頭を悩ませるだけだった。
そんな日々は13歳のある日から変わりだす。
それがあたしにとって本当に幸せなことだったのかは今もまだ分からない。
親元を離れ、バスで2時間ほど移動したのち徒歩で30分、ようやく目的の場所につく。とある研究者の研究所兼自宅。
研究の誘いはうんざりするほどの数を受けたが、その中で一番あたしの興味を引いたのがここだった。
研究内容は「呪い」。
興味を引かれたとは言ったが正直なところ期待はしていない。少し触って成果が得られなければ場所を変えるつもりだ。
扉を叩いてしばらくすると、件の研究者が出てきた。
「どうも初めましてシオンです」
愛想もなくなく最低限の挨拶だけを済ませる。
彼もいらっしゃいとだけ言ってあたしを招き入れた。
光が閉ざされた家の中はあたしに不安を抱かせた。更には大量の書類で散らかっており、気分だけでなく視線までも下に向けざるを得なくなる。
その一部を手に取って一瞥してみる。あたしの知らない言語が用いられており、内容は分からなかった。
「さっそく今日から始めるかい?」
「はい、ですがあたし呪いのことは何も知らないのでご教授願います」
興味だけで選んだから本当に欠片の知識もない。
「そうか、なら理屈で説明するよりも、実際に見せようか」
「呪いを使えるんですか」
それは期待の物言いではなく、疑心の意を込めた確認だった。
彼はあまりに平然と言ったが、にわかには信じ難いのが正直なところだ。
「あそこの暖炉を見ているといい」
彼は暖炉を指さして言った。
あたしがそこに視線を向けるとまばたきよりも先に一瞬にして暖炉の中は、鮮やかながらに苛烈な炎で燃えていた。
薄暗い心を照らすその炎は感動を覚えるほどに綺麗で美しく、あたしは文字通り言葉を失った。
それは驚きで声が出ない訳ではなく、世界から音そのもの消滅したかのように燃え盛る炎の音も、興奮で鼓動する心臓の音も聞こえない。
ただ、現状に混乱するでもなく、あたしは音のない世界を少しだけ寂しく思うだけだった。
現状の理解にそれほどの時間は要しなかった。この不可解な事象の原因に、この呪いの使用者に自然と意識は向けられる。
懐疑心を孕んだ凝視の視線を向けると、彼は微笑んでは指を鳴らした。その瞬間、ドクドクとした脈拍と、バチバチとした、まるで彼を称える拍手のような音が響いた。舞い踊る炎はそのままに、世界を彩る音だけが元に戻った。
「どうだい」
唖然としていると彼が問いかけてきた。
一つ確信を持って言える。
呪いのことは欠片も知らないあたしでもすぐに理解した。
彼は常人ではない、間違いなくあたしと同じ。彼となら安心を得られるとそう思っていた。
面白そうだと、ここでの研究を決意して唾をのむ。彼に向けられた疑念は、いつのまに羨望の眼差しへと変わる。そして、親愛の証と尊敬の意を込めてあたしは尋ねる。
「あの、お名前は」
「・・・卯月トワ、元・・・悪魔さ」
これがあたしのトワさんとの初めての出会い。ここからあたしの人生は幸か不幸かに傾きだす。