苦い時間
里奈は、目鼻立ちの整った顔ををしていて、
服装もオシャれだし、化粧もうまい。
スタイルもスリムで足もそこそこ長い。
明るく、話しだすと止まらない。
令和のギャルといったところだ。
一方の私はモノトーンの服が好きで、シンプルかつ洗練された洋服が好き。
でも周りからは地味だと思われている。
でもわたしはそれでいい。自分が着心地良ければそれでいい。
今の時代、女も仕事をバリバリやってカッコよくオシャレでなければ?
そんなことはどうでもいい。無駄に強がって自分を見失うのは嫌なのだ。
さて、怪獣とのランチに戻ろう。
メニューを見ていて困っていたわたしは、ジビエが苦手な人でもおすすめ!
と書いてあった料理を頼んだ。
後から聞いた話だが、その料理はカンガルーだった。
当然私はそのあとトイレに駆け込む羽目になり、
げっそりしたわたしを、里奈は家まで送っていってくれた。
「ごめんね。明美。ジビエが苦手だと思わなくて」
いやいや。普通にジビエ食う方が珍しいだろ。
事前に相談してくれよ。
「あ、いいのいいの。今日お腹調子悪かったみたい。」
何言ってんだわたしは。。
「あ〜そうなんだ〜。実はね、わたしもジビエ苦手なの!
ちょっと食べてみたくて。」
おいおい。そう言うふうには見えなかったぞ、怪獣様よ。
めちゃくちゃ美味しそうに猪にしゃぶりついてたじゃねーか。
わたしは、ジビエ料理自体は否定しない。
べつにそれはそれで考えがあるんだろうし、
じゃあ牛や豚はいいのかって話になるわけで。
でも、趣味嗜好ってあるだろ。。
そうだ。。
その瞬間、私の中にちょっとした悪が芽生えた。
「ね、里奈、家よってかない?」
「え、いいの?うれし〜!」
「うん。お茶でも飲んで行きなよ。」
そう。あるのだ。
わたしの家には秘密の武器が。
そう。世界一苦いと言われる苦苦茶だ。
元彼がクリスマスの日においてったウケ狙いのプレゼントだ。
そんなプレゼントを置いていく元彼となんで付き合ったのかと長年後悔していたが、
今は感謝しかない!
このお茶で怪獣の息の根を止めてやるのだ。
「どうぞどうぞ。」
「おっじゃましまーす」
もともとわたしはポーカーフェイスが得意なのだ。
このテリトリーに入ったからは最後。
どんな怪獣でもわたしは倒せる。
「里奈、お茶入れたから飲んで行きなよ」
「あ、ありがとう。」
正座したこのかわいい怪獣がもうすぐ
苦苦茶でのたうちまわるのが目に見える。
「うひっ」
おもわず声が出た。
「え。明美、笑った?」
「え、、いやいや、なんでもない!ちょ、、ちょと思い出し笑いだよ」
「へんなの〜。明美変わってるね〜。」
里奈が部屋の隅のクローゼットに目をやると、
そこには、革のチョッキがかかっていた。
それにはまたひらひらの西部劇風の飾りがついていた。
「あ!あのチョッキ、バッグと同じデザインじゃない?」
「え。。え!いや!あれは、その、、」
そのチョッキは演劇サークルをやっている友人がたまたま
ほつれたところを直して欲しいともってきたものだった。
「な〜〜んだ!言ってくれればいいのに。西部劇好きだって!」
こうなったら、もう力づくで飲ませるしかない。
一気に大量に投入すれば、この悪魔、いや、怪獣を倒せるかもしれない。
「里奈!」
「え!っなに?」
わたしは里奈を押し倒した。
そして、テーブルのお茶に手を取ろうとしたそのとき、
里奈が言った。
「いいよ。明美なら。」
赤面した里奈の目には涙が流れていた。
「いいよって、、わたしは、べつに。。」
そのあと、わたしは里奈を帰した。
帰り際に里奈は涙を浮かべながら、
わたしに謝ってきた。
「ごめんね。明美。人は見かけじゃないね。。」