怪獣
「うわ〜〜素敵〜このバッグも〜」
革製品の雑貨屋さんに着いたわたしたち。
想像通りのリアクションをする里奈。
店内には、ありきたりの革製品が置かれている。
ディスプレイも、特に工夫した様子はない。
わたしはこの時点でこのお店に興味はなかった。
店の奥のほうで里奈が呼ぶ。
「明美〜こっちこっち〜」
里奈のほうへいくと、小さなショルダーバッグがハンガーにかけられていた。
色は茶色、紺、赤の3色だ。
大きさは大きすぎず、小さすぎずちょうどいい感じに見えた。
「里奈、これにしない?おそろで。」
わたしは心の中で戸惑っていた。
え。。おそろ?
その言葉を聞いた瞬間に嫌な予感がした。
そう。里奈は最初からわたしとお揃いのバッグを探しにきていたのだ。
しかもお店に入って数分で決めるなんて、
事前に下調べしたに違いない。
「え、あ、いいね、おそろって」
「でしょ〜〜!」
里奈は二つ並べて笑顔で鏡を見ている。
こいつまじか。
わたしはの頭に一抹の不安がよぎった。
こいつ、まさかレズじゃないだろな・・
いやいや、まさかな。子供の頃のよくあるお遊びと同じ感覚だろ。
里奈は子供っぽいし、そうに違いない。
「明美、どの色がすき?」
強者が言う。
正直どの色もクソもない。
皮は安物で柔らかすぎるし、紐も細くてすぐに切れそうだ。
そしてなんと言ってもその西部劇みたいなひらひらの飾りがついているのが許せない。
この令和の時代にどういうことなのだ。アンティークでもない、西部劇としかいいようがない。
お前はクリントイーストウッドか!
しかもボタンをよく見ると、馬の蹄の形をしている。
里奈がわたしの肩にバッグをかけて、鏡を見せてくる。
「明美、赤似合うね〜」
いやいや、似合わねーだろ!
ただでさえ嫌いな形なのにさらに目立つ色にしろってか!
「そうかな〜〜。。」
「そうだよ!明美は赤がぜ〜〜たい似合う!」
子供がよく言う絶対というセリフ。それほど信用できないものはない。
と次の瞬間里奈が発した言葉にわたしは仰天した。
「あたし、こっちにしようかな〜」
いやいや!おそろちゃうんかい!
しかもそっちのバッグの方がよっぽどシンプルでましじゃないか!
「そ、、そうだね〜そっちのほうが可愛いかもね〜」
「だよね〜。あたしこっちにする!」
おいおい!まじか。なんでお前がそっちなんだよ。
あたしだけ西部劇かよ。
「いいね。そっちの方が似合うよ。」
何言ってんだわたしは。。
「だよね〜。明美はそっちが似合うよ。」
いやいや、もういいし。
そんなこんなでお揃いだけは回避できたものの。。
里奈が店員さんにすぐ使いたいんですと言い放って、
わたしは終わった。
新宿の街を西部劇のヒーローのように歩くわたし。
すれちがう子供が指で鉄砲の真似をしてくるんじゃないかと
恐怖で震える。
「里奈、ありがとうね。」
「ううん。喜んでくれてあたしも嬉しいよ。」
いやいや、よろこんでねーし。
「うん。このバック好きだよ。」
そうしてわたしの誕生日のお買い物は終わっていった。
「明美、このあとランチ予約してるんだ!」
「え、そうなの?」
落ちていたわたしは、その言葉に少し救われた。
腹が減っては戦ができない。
この強者、いや、怪獣と一日デートなんて拷問に近い。
そして、怪獣が予約したのは
外観のおしゃれなイタリア料理店だった。
少しホッとするわたし。
だったが、席についてメニューを見ると、
何やら聞いたことのない食材が書かれていた。
イノシシのプロシュート各種、イノシシのサラミ各種、イノシシのラグー、、、。。。
まさかのジビエ料理に目が点になる。
気が付かなかったが、席の向かい側の壁には鹿の首がぶら下がっている。
人は見た目じゃないというが
まさにその言葉がピッタリの店だ。
外観からは微塵も感じさせない異様な空気感を感じ始めた。
よく見ると、オーナーらしき料理人、何かの毛皮を羽織っている。
勘弁してくれ。
ジビエなんて食べたこともないし、わたしの人生で絶対に口にすることはないと思っていた。
「この猪のコースくださ〜〜い」
怪獣は横で吠えていた。