0096 酒の席と裸の付き合い。
ヒガシムラヤマ領が出来て1年の年が過ぎた。
作物は安定供給とまでは行かないまでも、それなりには出回るようになった。
その間にも、使節団の人達にはお世話になりっぱなし。
牛が産気づくと、急いで来てくれたり、収穫時にも顔を出しては、手伝ってもくれていた。
おかげで、村の人達も少しづつではあるが、作業にも慣れてきて一日のスケジュールを立てて動けるようになって来た。
増える収穫物の為に悲鳴をあげているのは「商人ギルド」。最初は小さかった建物も、増築に次ぐ増築で、今や立派な倉庫になっていた。
そうなると、人手も足りなくなってきたようで、本部から新たに人員の補充、現在では5人体制で業務に励んでいる。
不思議に思っていたのが「神殿がない」という事。中央広場に空き区画があったので、神殿を作るのだが、これがさっぱり解らない。急遽、ゼノン司祭に来てもらって、デザインをして貰い、神官を3名ほど寄こしてくれるようになった。
そして、玲子からの転移魔法で、「女神クリス・サリーナ像」が送られ、神殿に設置された。
やはり、現代科学が進んだ日本とは違い、こういった世界の土地には宗教と言うのは必要だろう。毎日のように沢山の人達が祈りを捧げる為に神殿に来ていた。
そして、ヒガシムラヤマ領の目玉商品、「温泉宿」の完成である。
三階建ての収容人数、300人程度。温泉は男湯と女湯、そして混浴の露天風呂。ムフフ要素は忘れてはいけない。
1階にはふすまで区切られた部屋が多数あり、全部を取り払うと大人数での宴が出来る仕組みにした。
メインの温泉は、さすがに源泉からは離れているので、用水路からは温泉が流れてくるのだが、この地に来る頃には冷めた状態。新たにお湯を沸かすシステムをドワーフに作って貰い、暖かい温泉に入れるようになった。
「これは、どのように運営するのですか?」商人ギルド代表のベンゼルさん。
「観光目的ですよ。目標はこの領土を観光地にしたいと思ってます。」
「観光地?そんなことが出来るのですか?」
「今すぐには無理だとしても、将来的な話ですね。それには、商人ギルドや冒険者ギルドの皆さんにも協力して貰います。」
「協力?どのような事でしょうか?」
「簡単ですよ。噂を広げてくれるだけでいいです。」
「それだけですか?」
「ええ、それだけです。後は国王に任せます。」
「国王に・・・まさか?」
「ええ、この領地に来てもらって、実際に温泉に入って貰うのですよ。」
「そして、温泉宿が流行ればその代金を運営費に当て、余った分は皆さんに何らかの形で還元しようと思っています。」
「領主様は、本当に欲のない人ですね。」
「そうですか?その内に、各村の儲けた金額、諸経費、資産などの公表もするつもりです。当然、私も含まれますよ。この国の皆が平等という事を解ってもらう為ですよ。」
「それでは!温泉宿が出来た事を祝して、乾杯!」
今日は、皆を集めての宴会を温泉宿で行う事にした。と言っても全員は入りきれないので、4日に分けて、宴は繰り広げられた。
「領主様、出来立てのニホンシュがあるぜ!」とヤードさんが、酒を持って来る。
「俺だけが飲んでもいけないから、皆にも分けてやってよ。」
「大丈夫だ!ちゃんと分けてある!」見ると、周りの人達は皆、酔っぱらっていた。
「ミソ・ショウユ・トウフも出来上がりました!」と街組合の人が持ってきた。俺は冷奴が食べたくなり、ショウユをトウフにかけ、一口。「美味いんだけど、やっぱりショウガとネギが欲しいな。」と言うと、「では採って来ます!」と走り出した。
「ご主人様、この地で採れたたまごの卵焼きです~。」とリリアが持ってきた。
卵焼きを一口。「美味い!これに出汁を入れて、だし巻きなんか出来たら、最高だな!」とショウユを掛ける。「美味い!マヨネーズがあれば、なお最高!」と言うもんだから、「出汁、マヨネーズ、出汁、マヨネーズ」と言いながら、リリアが去って行った。
「領主様、チーズとベーコンです!」とエ・マーナ村の村長が持って来る。これも美味い!
俺は、村長、街組合長を集めて、「今は、どれ位の量を出荷できている?」と聞くと、現段階では、領地に卸すのが精一杯の状況と答えている。
「まぁ、急いでも仕方ない。ゆっくりと拡大していこう!」と励ましておいた。
「おおー!」と場内が騒ぎ出した。
玲子がバレットを連れて来たのである。
「やあ、オウカさん。久しぶりですね!街を見てきましたが、順調そうでなによりです。」
「いや、まだまだだよ。それよりも王都の方は大丈夫なのか?」
「ああ、やっとひと段落と言った感じですね。ただ問題がありまして・・・。」
「問題?どんな問題なんだ?」
「食糧事情なんです。」
「ほう。」
「今までは、レストランミツヤのお陰で、何とかなってきましたが、他の露店に出回る食材が足らなくなって来ているんです。」
「なるほど・・・俺に何をしろと?」
「王都に食品の輸出をして貰えないでしょうか?」
「他の領地にも同じことを言っているんだよな?」
「もちろんです。他の領地には私の部下が行ってます。私が直接、頭を下げれるのはオウカさんだけですので・・・。」
「玲子には相談しているんだよな?」
「もちろんです。そしたら、オウカさんの承諾を得ることが出来ればという事なので、こうして、ここに来たわけです。」
「リョウタに頼むしかないか・・・。」
「え?今、何と言いました。」
「ああ、考えとくよ!まあ、今日だけは悩むのを止めにして、飲んで食べて温泉に入って楽しもうじゃないの!」
「ご主人様~お待たせしました~。」リリアが新たに料理を持ってきた。
「バレット、食べてみなよ。」
「おおー!憧れのクロゲワギュウ!ここでも食べれるなんて!」バレットは急に機嫌が良くなり、「ライスもくれ!」と元気になっていた。
その肉は「黒毛和牛」では、ないのだが・・・。まっ、いっか。
温泉の湯舟にて・・・。
「そう言えば、サリーは行儀よくしていますか?」
「ああ、皆の為にと言って献身的に活動しているよ。」
「少しは、見直した?」
「ああ、最初はわがまま娘と思っていたけど、あの子は純粋だな。」
「じゃあ、嫁にもらってくれない?」
「お前、まだそんなことを言ってるのか?」
「諦めたわけじゃないからね。」と悪戯っぽく笑う。
「おまえなぁ〜」俺は呆れる事しか出来なかった。
「ところで、オウカさん。先ほど、リョウタという人に頼むとか言ってませんでしたか?」
「ああ、もうそろそろ、良いころ合いなのかも知れないな。いつかは、バレットにも紹介しようと思ってたし。」
「その方は、王都の食料事情を解決してくださるのですか?」
「きっと、解決してくれると思うぞ。」
「是非、私に紹介してください。」と頭を下げる。よっぽど、切羽詰まってるんだな。
「解った。紹介しよう。ただし。」
「ただし、何ですか?」
「何があっても驚かない事、それにこれは、高度に政治が絡んでくるから、そのつもりでいろ!」




