0093 不思議の池
「んー、金がない!」と唸っているのは桜花である。ここは桜花の屋敷。傭兵団を覗いたメンバーでの会議と言うか、報告会と言うか、所謂「お茶会」。
「国王に頼むと言っておりませんでしたか?」茜がお茶を入れてくれる。
「それがさ~、バレットも王国を建て直すのが精一杯で、逆にお金を貸してくれと言われたよ。」
「当面は、自分の資産で何とかなるけど、このまま行けば破産だよ~。」
主である桜花が悩んでいる姿を見るのは辛い・・・誰もが暗い顔になっていた。
「ダーリン、ここはウチにまかすっちゃ!」とラムが出て行った。
「何をしようとしているんだ?」と話していると、
「キャァー!」「怪物!」「女神様よ!お助けを!」と叫び声が聞こえる。
慌てて外に出ると、「ドラゴン」がいた。
ドラゴンは、桜花を見つけると同時に、人型に変身、「久しぶりだな!オウカ殿!」と声を掛けてきた。族長のゴラドである。
「僕がここにいることがよく解りましたね!報告はしてなかったはずですが・・・。」
「報告?そんなことをせんでも、毎日、娘と交信しとる!」
「え?ラムとですか?」
「娘もあの変な口調が板についてきおったわい!」ガハハハと豪快に笑う。
「それで、今日はラムに会いに来たのですか?」
「い~や、オウカ殿にこれを届けにきたのだ!」と大きな袋を出してくる。
「これは?」
「金貨5000枚入っとる!これをオウカ殿にやる!」
「どうして、こんなことを・・・?」
「いや、さっき娘から交信があって、オウカ殿が金にピンチだと聞かされてな!それで持ってきたわけだ!」
「それは、嬉しいのですが、ゴラドさんの所は大丈夫なんですか?」
「ウチか?ウチは金貨なんぞ使わんからな!金貨が余って仕方ないのだ!」
「はぁ・・・。」
「それでは、帰るとするか!」と変身をしようとするので、
「ゴラドさん、魔王国以外の人間はドラゴンの存在自体、知らないんですよ!私が転移魔法で送りますから、変身しないでください。」
「おっ、そうなのか?それならば頼む。」
「では、行きますよ!」
「オウカ殿、娘をよろしく頼むぞ。」
ゴラドさんは国に帰って行った。
桜花の後ろでモジモジしているラムがいる。
「ラム・・・。」
「ダーリン・・・。」ゆっくりと目を閉じるラムにデコピン!
「痛い!何するっちゃ!」
「何を勝手なことをしてるんだよ!」
「だって、ダーリンが可愛そうって思って・・・。」泣き出した。
「これからは、俺の許可を取ってから、動くように!」
「はい、ごめん、ごめんよう・・・。」
「でも、助かったよ、ラム」頭を撫でる。
「エヘヘヘ、褒められたっちゃ。」
再び、桜花の部屋でお茶会が進む。
「これで、お金の心配はなくなった。ジギル、後で商人ギルドに持って行ってくれ。」
「ハッ!畏まりました!」
「他に誰かが困ってるとかないか?」
「やっぱり、野菜が少ないです。」と言ってくるのはリリア。
「そうなんだよな~王国貴族で野菜を育てている所と言えばウチぐらいだもんなぁ~。」
「もう一つ、野菜の為の畑を作るのは、どうですか?」
「人手なら、街組合に話を持って行くのはどうでしょうか?」
街組合・・・。組合と言っても、組合費はなし、どこかが困っているのなら、手の開いた人を回したり、街の掲示板の役割も果たしている団体だ。前領主の唯一の功績だと思う。
「そうだな、一度、話してみるか。他にはないか?」
「村と村を繋ぐ道も舗装をして欲しいとの意見を聞いたことがあります。」そう言うのはポトフ。 秘書官でありながら、会計も出来る優れモノのエルフだ。
「そうだよな。最終的には領土内は全て舗装する考えは持っている。」
「カブレラ大森林は領土に入れないのですか?」と言うのはスペリア・ビースト族族長ヒャクジュウである。
「あの大森林を手にしたとして、何か良いことあるの?」
「はい、まずは自然が豊かです。」
「うんうん。」
「なので、食料になる野草や動物も豊富です。」
「うんうん。」
「大きな川もありますので、魚も豊富です。」
「うんうん。」
「それぐらいでしょうか。」
「そうなんだ。じゃあ、悪い所は?」
「そうですね、森は深いがゆえに危険も多いです。」
「うんうん。」
「それと、不思議な池があります。」
「不思議な池?どんなの?」
「生き物がいないんです。」
「それは、どうして?」
「池の水が全部、お湯なんです!」
「何だと!もう一回、言ってみろ!」
「はい、池の真ん中から、水が溢れだしているのですが、どれもお湯で、不思議な匂いがしまして・・・。」
「すぐに傭兵団を集めろ!調査に行くぞ!」
「はい・・・え?」
俺達は、カブレラ大森林に調査をするために進行していた。
先頭はもちろん、場所を知っているヒャクジュウ。そして、俺達を囲むように、スペリア・ビースト族の傭兵団が警護をしている。
「オウカ殿、なぜ、「不思議の池」に行かれるのです?」
「その結果いかんで、カブレラ大森林を領土にするかどうかが決まるんだよ。」
「それは、どういうことですか?」
「俺の勘が当たっているのなら、その池は「温泉」だ!これは、財産になるぞ!」
「「オンセン」?聞いたことがない名前ですな。」
「ああ、温泉って言うのはだな、美容・健康に良い成分が入っているお湯の事だ。これを持っている、持っていないでは全然違うぞ!」
「あの触れられない程熱いお湯にそんな価値があるのですか?」
「ああ、あるぞ!一国を揺るがす発見だ!」
「オウカ殿、見えて来ました!」
硫黄の香りがする・・・間違いなく温泉だ!
俺は、お湯をボールにすくいとる。そして、大きな入れ物へと移す。
「いいか!屋敷の風呂に使うだけの量が必要なんだ!いっぱいすくいとるんだ!」
荷馬車いっぱいに温泉の水を貯めて帰って来た。
そして、実験である。
俺の妻たちに風呂に入った感想を聞いてみる。
「肌が、もっちもちです!」「ずっと、ぽかぽかしてます!」という意見が多かった。
次は、街の女性、何人かに入ってもらった結果、同じような結果になったので、
「カブレラ大森林を我がヒガシムラヤマ領にします!」




