0090 スペリア・ビースト族
「君たち傭兵団の人達だよね?」10名の近衛兵に声を掛ける。
「ローズ、この人達の戦闘スキル見てくれない?」
「わかったわぁ〜」ローズが近衛兵を見渡す・・・。
「どうだ?」
「この中に、私のタイプはいないわぁ~。」
「真面目にやれ!」
「だから、誰も強くないのぉ、王都の傭兵団の人達よりも弱いわぁ。」
「わかった。君たち、今を持って傭兵団を辞め、コレット村で手伝いをしなさい。」
ー※ー※ー※ー
「主様、今日は、どちらへ向かわれるのですか?」ジギルが声を掛けてくる。
「今日は、北の大森林に探索に行こうと思うんだよね。」
「それじゃぁ、私も行くわぁ。」とローズがしがみついてくる。
「わかった、わかった。一緒に行こうな。ローズ。」
「ごしゅじんさまぁ、優しい。」と更にしがみついてくる。
「あ、あの。」と冒険者ギルドの人が声を掛けてくる。
「北に行かれるのは良いですけど、カブレラ大森林には行かないのが得策ですよ。」
「どうしてです?」
「あの森には、恐ろしい獣人族がいるとの噂ですので・・・。」
「え?この二人も獣人族だよ。」
「ちょっとぉ、私は獣人族とは違うわぁ。」ローズは俺の腕から離れない。
「獣人族が出ても、捻りつぶすのみよ!」とジギルはやる気マンマン。
「それなら、よろしいのですが・・・。」何だか意味深に去って行く。
「それじゃあ、行くか!」
俺達3人は北に向かって歩き出す。
カブレラ大森林。ここはヒガシムラヤマ領から、さほど遠くはなく、日帰りで行ける程度の森。
領地の人達が狩りや山菜取りに出向く森と聞いている。
しかし森は大きく、全ての探索が終わってないのも事実。サイゲの森ほど大きくないことを祈る。
森に入った所に、山菜などが生えているのを確認。この辺りで採取しているのだろう。
「奥の方に行ってみるか。」3人は更に奥へと進んでいく。
「ん?」ジギルが足を止めた。
「どうした?ジギル。」
ジギルは辺りを凝視しながら、ため息をつき「気のせいだったようです。」と言った。
「ジギルぅ。アンタ、ビビってんじゃないのぉ?」とローズが茶化す。
「いや、確かに何かの気配を感じたはずなんだが・・主殿、気を付けた方がよさそうです。」と注意を促してきた。
「ジギルがそう言うのなら、注意しようか。」と俺も警戒態勢に入る。
森の奥に入るにつれ、うっそうとした茂みが増えてきたのだが、サイゲの森よりかは、視界は良好だ。
それにしてもこの森は、様々な植物、動物がいて、豊かさを表している。
茂みの先に広場が出てきた。それもかなり広め。
その広場の中央に焚火をした痕跡があり、冒険者がここで野宿をしたのか?と考える。
「王都の冒険者ギルドでは、冒険がないと言ってたけど、地方になると変わるのかね?」
そう言いつつ、焚火のある方へと進んで行くと、物音と同時に凄みのある声が聞こえた。
「何者だ!ここは我らの支配下にあると知った上で荒らしに来たか!」
そう言いながら、森の中から出てきたのは「二足歩行のトラ」だった!
「あれは!」とジギルが声を上げる。
「どうした?」
「スペリア・ビーストと言って、我々獣人族の祖、上位種の存在です!」
「やはり、強いの?」
「我々、獣人族が束になっても敵わない相手です。」
なるほど、だから余裕で出て来たのか。
「私たちは、散策に来ているだけです。決して荒らそうという訳ではありません!」
すると、その「トラ」は、威嚇をするのを止め、こっちに近づいてくる。
意外と、友好的だな。と思っていたら、いきなり飛びかかって来た!
「主様!お逃げ下さい!」とジギルが俺を庇う様に前に出る!
「お前のような獣人族に俺らは負けんよ。」と右手の拳が飛んできた!
ジギルは拳を手のひらで受け止め、「まだまだ!」と叫ぶ!
気づけば、俺達は囲まれていたようで、周りは獣だらけ。
「ご主人様は私が守ります!」とローズは鞭を取り出した!
「ほう、ラミア族か。いい相手が出て来たな!」と茂みから、一頭の「二足歩行のヒョウ」が現れた。
ローズの鞭は飛ぶのだが、ヒョウの柔らかな身のこなしでは相手が悪い。
「ほれほれ、どうした?全く当たらんじゃないか?」ヒョウは余裕そうだ。
「ならば、これでどうかしら?」とローズは鞭を捨て、ヒョウに突っ込んでいく。どうやら接近戦に持ち込むつもりらしい。
それでも、ヒョウはしなやかに躱し、そしてローズの打撃の隙をついて攻撃・・・と言うより、「小指で突いた」。
たったそれだけの攻撃なのに、ローズの口から血が吐き出される。
「なんだぁ、もう終わりか?」ヒョウは息すら上がっていない。
「これぐらい、何ともないわよ!」と飛び蹴りをする。
今度は、力を試しているのか、腕をクロスさせて、防御をする。ヒョウは、微動だにしない。
「つまらん。」と、ローズにとどめを刺すつもりだ。指を伸ばした。
その瞬間に、炎が二人を分ける。
「もう、その辺にして貰えないですかね。俺の大事な二人なんでね。」
「ほう、人間ごときが、我々に勝てると思っているのか?」
「面倒くさい。二頭同時にかかってこい!」
「二頭」と言う言葉に頭に血が昇ったのか、「獣のように言うな!」と飛びかかってくる。
俺は、相手の攻撃を刀の鞘で受け止める。あれ?攻撃が軽くないか?
「どうした?本気でかかってこい!」
「ならば、俺が!」とトラが拳を突き出してくる。
もろに顔面に食らった!「フフフ、人間なんて、こんなものよ!」とあざ笑うトラ。
俺は、顔に当たっているだけのトラの腕を掴み、「よいしょ」と地面に叩きつけたら、地面にクレーターが出来てしまい、トラは泡を吹いていた。
「お前、何をやった!」と、ヒョウが、全速力で向かってきて俺に鋭い爪を差し込もうとしてくる!
「遅い・・・。」俺は、そのヒョウの腕を掴み、トラが寝ている同じクレーターに叩きつけた。
「後は、焼くだけだな!」と炎を出す。
「インフェルノ!」「お待ちください!」と森から声がする。
茂みから現れたのは「二足歩行のライオン」だった。
「お待ちください。強き者よ。私はスペリア・ビースト族の族長の者です。」と頭を下げてきた。
「この森は、我々が住まう土地でして、この二人も森を荒らしに来た者と勘違いしたのでしょう。重ね重ね、申し訳ございません。」
「いえ、こちらこそ申し訳ございません。同族の方を倒してしまって。」
すると族長は大きく笑い「いやぁ〜、それにしても驚きましたぞ!この二人は我らのなかで、一番、二番の強者だと言うのに!」
「え?そうなんですか?弱すぎるでしょ?」
「いやいや、それほどあなたがお強いという事です!参りました!」
そして、族長は俺に手の平を見せ、何やら呪文を唱えている。
「ん?」と族長は不思議そうな顔をしている。
「何をしているのですか?」
「いえ、何でもありません。」
「よろしければ、友好を築きたいと思ってるのですが、スペリア・ビースト族の皆さんとしては、人間と関わる事をどのように考えていますか?」
族長は、少し空を見上げ、「今夜は、宴を開きましょう。話はその時にでも。」
「それでは、私の部下たちも連れてきて良いですか?獣人族が多いのですよ。」
「それはそれは、構いませんとも。」と族長は笑みを浮かべていた。
そして、その夜。
俺は、獣人族の部下を連れて、再び森の中へ・・・今日戦ったヒョウがいた。
「道案内の為です。」と昼間と違い、随分と腰が低い。
戦った広場に出てくると、宴の準備。と言うか、丸太を置き、中央に火がたかれているだけ・・・。ドラゴン族の時も予想はしていたけど、料理は「肉中心」。
このメニューに我が傭兵団も目の色が変わり、肉を頬張っている。やはり、日ごろは我慢をしているってところか。
「ところで、族長。」俺は出された酒を飲みながら、尋ねた。
「昼間に族長が俺に手の平を呪文を唱えながら見せてたでしょ?あれって魔法ですか?」
「ホッホッホ。見破られましたか。敵いませんな。」
「何の魔法だったのですか?」
族長は答えにくそうに「即死魔法です。」と答えた。
「しかし、あの魔法も効かないとなると、本当に負けたと言わざるを得ません。」
「そうなんですね。」
「ところで、スペリア・ビースト族と獣人族は何が違うのでしょうか?」
「我々の仲間の中に人間と交わり、そして子供が生まれる。その子供たち同士で更に子供を儲ける・・・。という事の繰り返しで、今の獣人族があるという事です。我々は獣人族の祖と呼ばれるのは、そういう訳があるのです。」
「なるほど、だからジギルやローズでは太刀打ち出来なかったんですね。」
「ラミア族も、本当はもっと強い種族だったのですが、人間と交わることで弱くなってしまいましたな。」
「それで、人間との関わりについてですが・・・。」
「我々が、この森に住み着いているのは、人間の為でもあるのですよ。」
「それは、どういうことですか?」
「人間からすれば、我々のような者はモンスターと変わりません。恐れをなしてしまうのです。」
「それでは、人間が怖がらないようにわざと森に隠れていると?」
「そうですね。それにこの森に住む獣は強いのが多い。それから人間を守る事をしています。」
俺は立ち上がり、族長に右手を出し、
「それでは、人間達と一緒に住みましょう!人手が欲しかったんです!」
「あなたは、いったい・・・?」
「私は、この領地の主、桜花と申します!以後、よろしく!」




