0087 ミルクティーと言う目標
前公爵邸を見て愕然とした。
どこの家よりも大きな建物・・・入り口に大きな銅像が置かれてある。
「趣味・・・悪!」
入り口扉を開けると、床は大理石がびっしりと敷かれ大きな柱も大理石で出来ている。
その床の上に真っすぐに敷かれた絨毯には大きく金糸で刺繡が施されている。
壁には絵画展ですか?と聞きたくなるほどの絵画が掛けられ、窓も悪趣味な刺繡が施されたカーテンが掛けられている。
部屋の中にはこれまた高価なのだろうけれど、悪趣味な絨毯が敷かれ、王宮にもないような贅沢なテーブル、寝室には金持ちしか持たないであろう、カーテン付きのベッドが置いてある。
高価そうな家具の中にも、自慢だったのか絵が描かれた皿やグラスなどが置かれていて、急にお金持ちになりましたと言う人が陥りやすい、「高価な物やブランド品で固めれば勝ち組でしょ?」と勘違いをしている典型の屋敷だ。
「まずは、この建物から片付けよう、気分が悪くなる。」
という事で、招集している人達が集まる前に必要ない物の撤収。とは言え、高価なものだと思うので、倉庫にしまう事にした。
で、必要ない物という事で処分をしていると・・・物がなくなってしまった。
とりあえず、今必要な家具と食器は戻してみる。 不釣り合いだけど、なかなかシンプルになった。
「問題は・・・。」外に置かれた銅像である。「インフェルノ!」灰にしてやった。掃除掃除。もう少し時間もあるようだし、もう一度、街に出てみようか。
屋敷を出て、北に上がると中央広場。中央広場を抜けると住宅街。その先は広大な自然。
今度は中央広場から東へと歩く。こっちは商店が多く並ぶエリアのようだ。
服屋があるので覗いてみる。やはり、王都よりも見劣りがする。新しく仕立ては出来るのか?の問いには出来ることは出来るが元となる布が高くて買えないのだそうだ。
日本で言う所の八百屋らしき物があるのだが、置いている商品はイモばかり。他の商品はないのか?という問いにはこの地は東の果てという事もあり、王都からの輸入では商品が腐ってしまうそうだ。王都と取引をするのであれば、他国の方が近いのだと言う。
「確かこの領土の特産は、麦、ヤギだったか?」
では、肉屋はどうだろうか?品ぞろえは充実しているようだがその割には客足がない。店主に話を聞くと高すぎて売れないのだと言う。では皆はどうやって肉を手に入れているのか?の問いには、自分で狩りに出ているとの答えだった。
高い税金を納める為に物価を高くするけど、客は金を持っていない。だからほとんど自給自足に近い生き方をしている。腐る寸前に安売りをすると飛ぶように売れるけど、実は大赤字という事らしい。商人にとっては非常に頭の痛い現象である。
商品の買い付けは、どういう方法で行っているのかとの問いには、直談判。これがこの領土で一般的らしい。
野菜・肉と来れば次は魚と思っていたら、魚屋がない。先ほどの肉屋に戻り、魚屋はないのか?と聞けば、この領土で魚で商売をしている者はおらず、魚が食べたければ近くの川で釣りをしているそうだ。
そんな生活をしていて、飢えないのか?と聞くと、他に方法がないからと寂しい答えが返って来た。
残すところの中央広場から南側と西側には村がある。この領土には合計3か所の村があると聞いているので、視察もしないといけないだろう。
それに、バレットが一番心配している「コレット村」。ここには一番に行かないとマズそうだ。
さて、そろそろ招集した人達も集まった事だろう。屋敷に戻る。
屋敷の前に十人ぐらいの人達がいた。今日、招集した方々である。
皆この屋敷に入るのは初めてなのだそうで遠慮しているようだ。
大丈夫ですよ。と声を掛け、屋敷内に案内をするのだけれど、一人だけ入ろうとしない人がいた。
「どうぞ、お入りください。」
「いえ、私のような汚い人間は入ってはいけないのです。」
その人は、栄養が足らないのだろうか、かなり痩せ細っていて、お世辞にも綺麗な服装だとは思えない。
「あなたは、どちらの方なのですか?」
その痩せた人は「コレット村の村長です。」と言った。
「あなたの村の事はバレット国王から、よろしく頼むと言われているのですよ。何でも視察の時にお世話になったとかで。」
「王が、このような小さな村の事を気にかけてくれているとは」
「ええ。だから、今日はあなたに一番来て貰いたかったのですよ。ですので、どうぞ中にお入りください。」
「ありがとうございます。」コレット村の村長は遠慮気味に屋敷に入って行った。
「今日はお忙しい中、突然の招集に応えて頂き、ありがとうございます。」俺は頭を下げた。
権力者が頭を下げたという事で皆がびっくりしている。
「どうされたのですか?皆さん。」
「いや、前の領主様はこんな事はしてくれませんでしたから、驚きました。」
「そうだ、そうだ!全然違う!」と大騒ぎ。
「改めて、自己紹介を致します。今日から皆さんの領主をさせて頂く、オウカ・ミツヤと申します。これからよろしくお願いいたします。」再び、頭を下げた。
「やめてください!領主様!」と皆の慌てた声が聞こえる。
「では皆さん、席にお座りください。」
今回集まったメンバーは
・商人ギルド代表
・冒険者ギルド代表
・街組合会長
・コレット村の村長
・エ・マーナ村の村長
・ヤード村の村長
この人達が、この領土を支えているということになる。
「じゃあ、始めましょうか?リリア、皆さんにお茶を出して!」
リリアと茜、元々この屋敷にいた給仕達がお茶を運んでくる。
カップなどはこの屋敷に有った物をそのまま使う。高級品だろうけど。
「このお茶は、何と言う物ですか?」と商人ギルドが聞いてくる。
「これは紅茶ですがこの世界にはない物です。王都にある私の店で出している物で、バレット国王のお気に入りです。」
「国王と同じ物を我々が飲んでも良いのでしょうか?」街組合の会長が言う。
「構いませんよ。後、これも入れてくださいね。」と砂糖とミルクを出す。
「この白いサラサラしたものは、なんでしょう?」
「それは「砂糖」と言います。舐めてみてください。甘いですよ。」
皆が一緒のタイミングで砂糖を舐める。初めての甘さにびっくりしている。
「これは、はちみつよりも甘いぞ!」と言う人もいる。日本じゃはちみつの方が高級品なんだけどね。
「この白い液体は・・見た所、ヤギの乳のように見えますが。」
「これは「ミルク」と言います。ヤギではなくウシの乳ですね。」
「どうぞ、お茶に入れて飲んでみてください。」
皆、緊張している。そりゃ、無理もないか。王と同じ物を口にすることがないのだから。
「・・・・。」
「いかがですか?」
「美味い!」
「美味しい!」と騒ぎ出した。
「さて、私の目標なのですが・・・。」全員の視線が桜花に集まる。
「このお茶をヒガシムラヤマの民達全員が、毎日飲める生活が出来るぐらいに豊かにすることです。」
そう、日本では当たり前の事が出来る生活基準に持っていくことが俺の目標である。




