0083 新国王就任式
「久しぶりに着るな。」桜花はスーツ姿である。
新国王就任式に参列するにはどんな恰好が良いのだろう?と考えていたのだが、そこは日本のサラリーマン。やはりこれがしっくりとくる。
「主様!素晴らしい!」「キャァー!ご主人様!カッコいい!」と俺の仲間には高評価だ。
「オウカ殿、お迎えに上がりました!」と近衛師団の方々が、迎えの馬車を用意してくれた。すぐそこなんだけど・・・。これも体裁か?
「それじゃ、お願いします。皆、行ってくる!」
馬車の窓から街の風景を見る。瓦礫をどけ、新しい建物を建造しようとしている王都民の姿が目に入る。戦後の民衆は皆、強いんだよな。どこの世界でも。
その瓦礫のせいもあって、ベルサイユ宮殿から宮廷までは遠回りになる。遠回りになる分、戦争の後が嫌でも目に入る。あまり見たくないんだけどね。
思わぬところに瓦礫があったり、子供達が寄ってきたりと足止めを食った分、王宮に着くのに随分と時間がかかった。城壁は所々崩れ落ちていて、将来的には「はい!○○年にここで戦争がありました!」と後世に語り継がれるようになって欲しいもんだとも思う。
門をくぐり、城内へ・・・。所々に血が付いている。洗えよ、まったく!
「オウカ殿、お待ち申し上げておりました!」と出迎えてくれたのはアムさん。
先代の王が亡くなった後でも、後任の王の近衛兵団長を継続してくれる。戦争の時は王を守らんと最後の一人になっても戦っている忠誠の深さには見習わなければとも感じる。
階段を少し上がった所には、相変わらずの「デフォルメされた女神像」。早く正式なサリーナの像を届けなければ・・・あれ、そう言えば宮殿の他にも王国内に神殿もあるんだっけ?もう一体、作るようにドワーフに指示を出さないと。
一番奥ににある「王宮の間」に通される。玉座には新たなる王、バレットが鎮座している。俺は、バレットに片膝を付き「この度は、王の就任式にお招き頂き、光栄でございます。」と言うと、「うむ、ご苦労。」とバレットがいつもらしくない口調で労ってきた。普段とは全然違う態度だが、これも王としての役割か・・・。
貴族たち全員が揃ったので、王宮内にある神殿に向かう。新国王就任を女神に報告をするためだ。
王宮の神殿というからには、さぞかし立派な作り・・・と思っていたら、非常に簡素な作り・・・大きさこそあれ、何の装飾もなく壁には縦長の窓が7枚程、一番奥に「正式な女神像」が置かれていた。
その女神像を、貴族たちは初めて見るのだろう、誰かは眉をひそめ、誰かは跪いている。 まっ、そりゃそういう反応に判れるのは当然だろう。
ゼノン・カレラ司祭率いる、神官達が儀式を執り行って行く。最初にゼノン司祭の祝福の言葉、そして聖水をバレットが飲む・・・はずなんだけど・・・。
ゼノン司祭が儀式を中断して、俺のところにやってくる。
「オウカ殿、お願いがあるのですが。」
「どうかしましたか?」
「是非とも、女神クリス・サリーナ様から直々に祝福と王の名付けをお願いしたいと存じあげます。」
「なるほど・・・。」
俺はスマホを取り出し、サリーナと連絡をとる。サリーナは快く承諾してくれた。
「これより、女神クリス・サリーナ様、直々に祝福の言葉を賜ります。」とゼノン司祭が言ったと同時にスピーカーオン!
「私は、女神クリス・サリーナと言う・・・。」 神殿内にクリスの声が響く。
その声に、貴族たち全員が膝をつき祈りを捧げる。
「新国王よ一歩、前へ。」
「ハッ!」バレットが前に出る。
「先の戦争で多くの命が奪われました。そなたはこの事を自分の罪として背負う覚悟はありますか?」
「私が国王になったからには、全ての王都の民の為に働く所存でございます!」
「よろしい。それでは、そなたに祝福として名前を授けよう。桜花、前へ。」
俺と、ゼノン司祭がバレットの頭に手を置く。
「新国王よ、そなたはどのような名前を語ろうと思っていたのですか?」
「はっ、バレット・クロゲワギュウ・コローレです。」
「それで良いのですか?本当に良いのですか?」
うん。サリーナが確認をする気持ちがわかる。クロゲワギュウって、牛の名前だもんなぁ〜。現物を見たうえでという事だから、何も言えないけど。
「この名前が良いのです!」とバレットは決意をしたように声を上げる。
「よろしい。では新国王よ、そなたにバレット・クロゲワギュウ・コローレの名を授けましょう。今日からは、奢ることなく民の為に力を尽くしなさい。」
「このバレット・クロゲワギュウ・コローレ、命に変えましても女神さまとの約束は守ります!」
「それと・・・。」
空気が一瞬、止まったかのように静まり返り、
「桜花を信じるのですよ。頼みましたよバレット・クロゲワギュウ・コローレ新国王よ。」
新国王、就任の儀が終了した。
再び、王宮の間。ここでは新体制の発表、所謂「人事発表」が行われ、そして俺が呼ばれた理由の先の戦争にて武勲を挙げた者への褒章が行われる。
「これより、表彰を行う。オウカ殿、一歩前へ。」
「ハッ!」俺は、バレット新国王の前で片膝をつく。
「勇者オウカよ、そなたの働きで死者を1000人程度で押さえたこと、避難民の受け入れ復興への貢献、見事であった!よって、褒美を授ける!」
バレットが羊皮紙を広げ、「勇者、オウカには公爵の爵位を授け、元・ベルハイツ侯爵の持つ領地を授けることを持って褒美とする。」
「!」
「それだけではない。」とバレット新国王が言葉を続ける。
「我が妹、サリーをオウカに与えよう。これでオウカは、わが王族と並ぶ第一貴族とする!」
「!」
「我の決めた事に異論がある者は声をあげよ!」
貴族たちは、大拍手でこの決定事項を称賛した。
・・・・・俺を無視した決定かよ!冗談じゃない!
「・・・・断る。」
沸き立つ王宮の間が、水を打ったように静まり返った。
「オウカよ、この程度の褒美は不服か?」
「違います。称えて頂くのは、とても有りがたき事です。」
「では、何が不満なのだ?」
「私は、王都を出る訳には行きません。王都には大勢の家族がいます。」
「王都内でも、領地を持つことを許してやるぞ。」
「それだけでは、ありません。」
「何だ。」
「姫を妻として迎えることは出来ません!」
「何故だ!我の妹が気に入らんと申すのか!」
「今現在、私には150を超える妻がいます。」その声に場内がどよめく。
「では、我が妹は151番目の妻になるな。」笑いながら国王は答える。
「どうしてもと言われるのですか?」
「ああ、どうしても、だ。」
「それならば、貴族となった私の権利を行使したいと思います。」
「何をするつもりだ?」
「今から、緊急協議会を開きます!」
場内が凍りついた・・・。




