0072 王子バレットの視察旅①
ヤヌス王国の広大な土地を急ぐように馬を走らせる集団があった。
武装した兵士4人を先頭に、王族の紋章が入った馬車、その後ろにも武装した兵士の集団、20名程が連なっている。馬車の中には、バレット王子と取り巻きの貴族が乗ってる。
集団が向かう先は王国の最東の村「コレット村」。畜産業を生業としているとの情報のベルハイツ侯爵の領地にある村だ。
村の入り口には、何事と村長達が立っている。が、王族の紋章に気づき、敬服をする。
「この村の村長は誰か!」と近衛師団団長が声をあげる。
「私でございます。」と一人の男が顔をあげた。
「本日は、バレット王子直々の視察である!皆の者、丁重にもてなすように!」
「もうよい、そんな話し方では村人が可愛そうだ。」バレット王子が馬車から降りて来た。
「し、しかし王子直々の視察なのですから、平民には頭を下げさすのが当然と思いますが。」
「だから、王族は駄目なんだ!」と一括。
「私の部下が失礼を致しました。どうか、許してください。」とバレットは頭を下げる。
「そんな、王子が頭を下げるなど・・・」と村長は恐縮している。
「今日、ここに来た理由は、この村の状況と実際に肌で触れるためです。どうぞ、私の事は、一村民、バレットと呼んでください。」
「は、はあ・・。」
「まずは、この村の状況・・・畜産業が主だった産業だと伺いましたが、何を育てているのですか?」
「この村では、ヤギと鶏を育てております。それに伴って、ヤギの乳、鶏のたまごなども出荷しております。」
「なるほど、そのヤギを見せてもらえませんか?」
「では、こちらに」と村長がバレットを案内する。
「王子!このような汚い土地を歩くのは私は反対致します!」とベルハイツ侯爵が言った。
「黙れと言うのが解らんのか・・・。」バレットは静かに威嚇する。
「申し訳ございません。」
「こちらで、育てております。」と案内された場所に、痩せたヤギが十数匹だけいた。
「畜産業の割には、数が少ないのですね。」
「はい、お恥ずかしい話ではありますが、今の収入ではこれでも無理をしています。」
「と、言うと?」
「収入のほとんどが餌代に消えてしまうからです。」
「収入が少ない?月の収入はいくら位なのですか?」
「はい、銀貨2枚と銅貨2枚と中銅貨8枚です。」
「何だと!」バレットは驚きを隠せない・・・。安い、安すぎる!
「それでは、村人は何を召し上がっているのですか?」
「それは、畑でとれたイモを食べています。」
・・・畑で採れたイモが主食?バレットは自分の普段の食事との差に驚きを隠せない。
民の事を考える王子・・と云えども、成人するまでは城外に出ることもなく育った、所謂"ボンボン"なので、王国民は皆、自分と同じ物を食べているものだと思っていた。その落差が驚きの本質なのだろう・・・。
「村を案内して頂けますか?」
「どうぞ、こちらに。」と言って、村長が村を案内する。
案内された村は当然、道は土のまま、ところどころに水たまりがある。建物は家と言うにはみすぼらしく、半壊している家もある。王都では考えられない光景だ。
それに、この匂い・・・。下水というものがないのか、鼻が曲がる気がする。
「どうか、されましたか?」村長が聞く。
「この村では、病気などはないのですか?」
「いえ、数年に一度、流行り病があり、その度に村人が減っております。」
やはりな・・・清潔な環境でない所には病気が蔓延するものだ。仕事よりも先に解決すべき問題だろう・・・。
「畜産業ということは、肉も納められているのですか?」
「年に一度、子ヤギを数頭納めております。」
「子ヤギを?親のヤギではいけないのですか?」
「親のヤギでは、肉が硬いのです。なので、肉のやわらかい子ヤギを納めております。」
「それでは、将来的にヤギがいなくなるのではないのですか?」
「オス・メス共に一頭ずつ残しています。」
「村人は、ヤギの肉は食べないのですか?」
「死んでしまったヤギや狩りで仕留めた獣を食べています。」
「死んでしまったヤギを食べる?肉が硬いと言っていた肉を食べるのですか?」
「そうしないと、我々が死んでしまいますので・・・それに村人、全員は硬い肉になれています。」
「貴重だとは思いますが、少しだけでいいので、その肉を食べさせてもらえませんか?」
「申し訳ございません、あいにく今は死んだヤギはおりませんので、肉はございません。」
「では、今は何を食べて・・・?」
「イモだけでございます。」
・・・何という事だ・・・これほど格差があるとは。
「ありがとうございました。これはお礼です。」と金貨5枚を置いていった。
バレット王子は「コレット村」を領地に持つ貴族の屋敷で王国の繁栄を確実にするための協議をする事にした。
王国を繁栄させるには、民の一人一人が豊かな生活を手にできるようでなければいけないと、成人前から思っていたことだ。それを実行するための視察と協議会である。
バレットはまず、税金の見直しをするように指示をだし、その上で各村の衛生管理を税金で行うようにと言ったのだが、この意見に貴族が反発をし、協議は平行線になっていた。
「話を元に戻そう・・・。君はどうすれば、この都市が繁栄すると思うかね?」
「それはやはり税を徴収する事でしょうな。」
「税を納めている民が、あんな貧乏暮らしをしなければいけないのは何故だ?税金が高すぎるのではないか?」
「税金は、皆等しい金額を納めてもらっています。」
「産業物、この場合はコレット村の肉や乳、たまごの買取価格が安すぎるのではないのか?」
「それは、買取業者を調査する必要があると思います。」
「税金は各村などへ、どのような使い道をしているのだ?」
「と、申しますと?」貴族は不思議そうな顔をしている。
コイツ、もしかして・・・
「例えば、村の建物の修繕や複数等の家畜が飼育出来るような環境を作る税の使い方をしていないのか?」
「何故、そのようなことをしないといけないのですか?民は我々貴族の為に働くのは当然じゃないですか。」
「それでは、税は何処に使われている?」
「もちろん、我々の権威を維持するために使っておりますぞ!」
「例えば?」
「これは昨日、届いた物です。」と壁に掛けられた貴族の自画像を自慢げに指差す。
「他には、こうやって王子が来られた時に満足してもらえるように、普段から良い物を揃えさせてもらっております。貴族は面子が大切ですからな」ワッハッハッハと大声で笑う。
・・・駄目だ、コイツは馬鹿だ。領民の事を一番に考えてこその貴族だろ!それこそが仕事だろう!能無しの王と言い、この貴族と言い、何故、私腹を肥やす事しか考えない!
バレットは席を立ち「わかった、もういい。今夜は休ませてもらう。」
「王子、体調が悪いので?」
「そんなことはない!気分が悪いだけだ!」
「それならば、寝酒にワインはいかがでしょう?良き物が手に入ったのですよ!」
「いらん!」とバレットは部屋を出て行った。




