0071 名前の意味
俺はスマホをスピーカーに切り替えた。
「我が愛しき信者、ゼノン・カレラよ!我が名はクリス・サリーナです。」
スピーカーから美しい声が聞こえる。・・・アイツ、また余所行きの声を出しおって。その声にゼノンは驚き、俺を見てくる。
「その声は、まぎれもなくサリーナの声ですよ!今、連絡をとったのです。」
「ゼノンよ、オウカより聞きましたが、我が声が聞こえぬようになって来たと言うのは本当ですか?」
「はい、その通りでございます!」
「そなたは、祈りを捧げるときにどの様にされているのですか?」
「これを両手に握りしめて祈りを捧げております。」と十字架に似たアイテムを出してきた。
「それをオウカに・・・。」ゼノンは桜花にアイテムを渡す。
「ふむ、ゼノンよ。このアイテムの力が切れかかっています。」
「何ですと!」
「そなたが、私と通じ、私の言葉を聞くことが出来たのは、そのアイテムの力であって、そなたの力ではありません。」
「そ、そんなことは・・ございません!私は毎日、朝夕と祈りを欠かしてはおりません!」
「では聞くが、そなたは何歳ですか?人間なのです、80年も生きれないでしょ?」
「私は齢、45歳で、ございます。」
「そなたの名前は、誰が付けたのですか?」
「前代のゼノン・カレラから名前を引き継ぎました。」
「それは、何故ですか?」
「代々、伝わる司祭の名前ですので・・・。」
「ゼノンよ・・・今のそなたの名前はお飾りと同じです。名前の効果は300年前に効力を失っています。名無しと同じなんですよ。」
ゼノンの顔がひきつる・・・。
「そこで、どうでしょう?私の眷属のオウカに新たにゼノン・カレラの名を受けるのは?この者に名を受けると、そなたの神力・アイテムの神力も復活します。そして、その名を次の司祭に継承すればよいですよ。」
「女神様のおっしゃる事でしたら、このゼノン、名を承ります。」
「とは、言っても桜花に直接、名づけをして貰うのも釈然としないでしょうから、オウカは儀式を担当してもらうだけにしましょう。」
「オウカよ、ゼノンの頭に右手を、左手にはアイテムを持つのです。」
俺は、サリーナに言われるまま、ゼノンに手を乗せた。
「汝、我が子よ。女神クリス・サリーナの名の下に、司祭の権限と名前を授けます。今日から汝は、ゼノン・カレラと名乗りなさい。・・・。」
「これで、大丈夫ですよ。ゼノンよ。」
「ありがとう、ございます。このゼノン、生涯を掛けてサリーナ様にお仕え致します!」
「それとゼノンよ。この先、なにがあっても、オウカを信じる事を命令します。良いですね?」
幸福に満ちたゼノン司祭を見送った後に、改めてサリーナに連絡をとる。
「もしもし、何度もスマンな。」
「どうした?」
「さっき、今持っている名前は意味がないって言ってたよな?」
「ああ、言った。」
「名無しと同じって言ったよな?」
「ああ、言った。」
「と、いう事はこの世界の者たちは、全員お前の加護を受けていないって事か?」
「そうなるな。」
「どういう事だ?」
「エルフ族の長老に聞いていたのではないか?」
・・・300年前に神殿が消えてしまった為に神殿に行けなくなった。神殿に行かないと加護が受けられなくなる。加護は名前に宿るので、神殿に行けない現状だと、名持の人でも名無しと同じという事か。
「何をしないといけないのかが、解ってきた気がするぜ!」
「さすがは桜花!期待してるぞ!」
「それよりも、お前の余所行きの声!ププッ!笑いをこらえるのに一苦労だったぜ!」
「何をー!神事は素のままでは出来んだろうが!イメージも大切なんだ!」
「悪い、悪い、あまりにも面白かったもんで、つい。」
「素のわらわを見せておるのは、桜花だけなのに・・・。」
「何か言ったか?」
「何でもない!切るぞ!」




