0070 ゼノンの悩み
「これはこれは、司祭様、晩餐会以来ですね。」オウカが挨拶をする。
「オウカ殿、今は公の場ではありません。私の事はゼノンと呼んでください。それに今日はお忍びで参っておりますので、このことはご内密に・・・。」
「ここでは何ですから、応接室でいいですか?」
「出来れば神殿があればそちらでお願い致します。」
「そうですか。ではこちらに。」
ベルサイユ宮殿の一番奥、本来ならば「教会」と言うのだろうが、神殿が見つからない今では「神殿」と呼んでいるのが、この世界のならわしだ。
とにかく、神殿までは遠い。ベルサイユ宮殿の広さがうかがい知れる。
広場で訓練をしている傭兵団を見て、ゼノンが言う。
「戦士の数も随分と増えたのですね。」
「ええ、王都のスラムに住んでいる人たちを全員、ここで引き取りましたから。」
「神の祝福がありますように・・・。」
「着きましたよ。」
ベルサイユ宮殿の大きさの割に神殿は小さい作りで、その理由は設計をした人にしか解らない。中に入るとその大きさがしっくりくるので、それを計算に入れての事なんだろう。天井には絵画、大きなステンドグラスと贅を尽くした内装になっていて、一番奥に一体の女神像が置かれている。
ゼノンは宮廷に置かれている女神像と違う事を目にし、
「オウカ様、この女神像は・・・?」
「ああ、これが女神クリス・サリーナの実体ですよ。宮廷の物とは随分と異なりますが、直接会ったドワーフの職人に作らせました。」
本当はドワーフが勝手に作ったんだけどね!
「なんと神々しい・・・。」ゼノンは跪き、祈りを捧げている。
「オウカ殿!この像を是非とも王宮の神殿にも頂けないでしょうか!」
「そういうと思いまして、今ドワーフ達に作らせていますよ。」
「作用ですか!ありがとうございます!」
「それで、今日はどのような御用でしょうか。」
「実は・・・最近になり「神力」が弱くなっているのです。」
「神力?なんですか?それ?」
「今までは、毎日祈りを捧げると神託が降りて来ていたのですが、最近になってその神託が降りなくなって来ているのです。」
「例えば?」
「例えば、毎朝の祈りの際に、今日も神の加護を受けさせて頂きありがとうございます。と言うと、「あなたの祈りは私に届いてますよ」と返って来たりしていたのです。」
「それが最近になって、なくなったという事ですか?」
「そうなんです。」
「何かキッカケとかなかったですか?」
「申し上げにくいのですが・・・実はオウカ様達がこの世界に来てからなのです。」
「へ?という事は、俺らが原因という事ですか!」
「そうは言ってませんが、同じ時期なのです。」
「ちょっと、待ってって下さい!」俺はスマホを取り出しサリーナに連絡する。
「あ~、もしもしサリーナ?ちょっといいか?」
「なんだ?」
「お前、ゼノン・カレラ司祭を知ってるな?」
「ああ、知ってるとも!毎日、欠かさず祈りを捧げてくれる熱心な信者だ!」
「その司祭様が、最近になって神託が降りてこないって悩んでるんだけど?」
「何?桜花よ!スピーカーに切り替えてくれるか?ゼノンと話したい。」




