0071 兄弟盃と二ホン国
「オウカ様、ひとつお願いがあるのですが・・・。」リョウタが大きな体をモジモジさせている。気持ち悪い。
「なんだ?気持ち悪いな。」
「実は、やって欲しい事があるんです。」まだモジモジしている。
「だから、なんなんだよ!」
「私と、兄弟の契りをしてくれませんか⁉」
「はぁ?それって、盃を交わせってことかよ。」
「実は、先代勇者様と酒を飲む機会に兄弟盃の話を聞きまして、それでやって見たくて、やって見たくて!」
「それで、どっちが兄になるんだ?年齢的に言えばお前だよな?」
「何をおっしゃいます!私に名前を付けてくれたんですから、オウカ様が兄ですよ!」
「なるほどねぇ~、でも実際は俺が名づけしたんだから、俺が親でお前が子なんだけどな。」
「そんな、友達のように接してくれと言ったではないですか!」
「解った、解った!でも、作法とか知らないぜ!」
「私にいい考えがありますので、ご安心ください!」
「そうか?じゃあ、任せるよ。」
次の日、黒い振袖を着たエレンさんが、俺に着てくれと和服を用意してくれた。
「紋付き袴まであるのか・・・。」
エレンさんに案内をして貰ったのは、畳張りの広間。一番奥には神棚まである。
神棚を挟んで両壁には、「橘 良太」・「三ツ谷 桜花」と書いた紙が張り付けてある。
細長い赤い布には和紙が敷かれ、その上に三宝と言われる「鏡餅を載せる台」には、白い陶器の盃が置いてあった。
「媒酌人は私、エレンが努めさせて頂きます。」俺、リョウタそれぞれに日本酒を注ぐ。
「・・・・」
「・・・・ここまでしか知らないのです」とエレンさんが顔を赤らめる。可愛い!
「俺も、知らないぜ!」
リョウタはニヤリと笑い「ご安心を・・」刀の鞘を抜いた!
「お前、なにするつもりなんだよ!」
「これで、手を切るんです!」
「そんなことしたら、血が出るじゃないか!」
「その血がいるんです!」
「なんで!?」
「血を入れた酒を交換して、お互いに飲むんです・・・。」何故かリョウタの顔が赤い。
「ヤダよ!俺、人の血なんか飲めないよ!」
「これは、儀式だけじゃなくて、オウカ様にもメリットがあるんですよ!」
「どういう事?」
「私の血を飲めば、オウカ様に私の能力全てが使えるようになるんです。」
「何?本当か?お前には何のメリットがあるんだよ?」
「もし、私にない能力をオウカ様が持っている場合、その能力が頂けます。一番大きいのは神の祝福です。」
「そうか、なら仕方ない、さっさとやろうぜ。」
俺達は腕を切り、それぞれの盃に血を注ぎその杯を交換した・・・。
一気に飲もうとすると「お互いの事を想って三口で飲んでください。」
「え?」
「すみません、おぼろげに思い出しました。」
・・・こうして、つつがなく兄弟の契りの儀式は終わった。
夕焼けに染まるサイゲの森を眺めながら、二人で酒を酌み交わす。
「それにしてもだな、お前の国の名前、ややこしいんだよ。」
「何が、ややこしいのですか?」
「普通、魔王、魔族って、悪人なの!お前とお前の国民とは正反対の立場なの!わかる?」
「は、はあ…。」
「だから、お前の国の名前を変える!」
「オウカ様の言葉を承ります。」
「これからは、ニホン国・首都をエドと名乗れ!」
「それは、オウカ様と良太様の国の名前じゃないですか!よろしいのですか!」
「いやか?お前が好きそうな名前だと思ったんだけどなぁ〜。」
「ありがとうございます!このリョウタ、オウカ様と良太様の恩を一生、忘れません!」
「今日は祝日だな!」
「シュクジツ?とは?」
「ニホンって国が出来た祝の日の事だよ!」
盃を天に向ける。リョウタも合わせて天に向ける。
「乾杯!」




