女神クリス・サリーナの使者
「あなた、殺さない程度って言ったでしょ!」と怒るのは貴族風の女性。
「すみません。余りにも防具と体が柔かったもので。俺も軽く一撃を食らわせたつもりだったのですが・・・。」
「これで解ったであろう、この者は誰よりも強い!」
「その理由は女神クリス・サリーナ様の使者だからである!」
女神クリス・サリーナ。その名前に場内がざわつく・・。
「申し訳ございませんでした!」族長を除き、全員が敬服する。
・・・ここでもサリーナかよ。アイツはどれだけ影響力持ってんだ?
「重ね重ね、失礼を致しました使者殿。」急に丁寧な言葉使いになる族長達。
「それで、このサイゲの森を抜ける理由を尋ねてもよろしいか?」
「それは、ドワーフ王国に行くためです。」
「やはり、武器・武具の生産依頼ですかな?」
「はい、我々の着用している武具は王国一の物ですが、従者の一撃にも耐えられない軟なものですので、それ以上の物となると、やはりドワーフに頼むしかないと思います。」
「なるほど。しかしですな、使者殿。」
「先ほど、あなたが割った防具はドワーフ製なのですが・・・。」
「そうなのですか?余りにも弱かったですが。」
「それ程、あなたの力が強いという事でしょう。」
「ドワーフ王国へ手紙を書きましょう。それで、摩擦もなくなるでしょう。」
「ありがとうございます。」
「あっ、もう一つ頼みたいことがあるのですが。」
「なんですかな?使者殿?」
「エルフ族の皆さんが、ドラゴン族が怖いと言っているのですが。」
「あの者たちですか。勝手にサイゲの森に済みついたので追い払おうと思っているのですよ。」
「実は、エルフの皆さんに名づけを致しまして・・・。」
「なんと!」
「ですので、エルフ族は俺の眷属と言うか、仲間なのでいじめるのをやめて貰えませんか?」
「なるほど、それはうらやま・・使者殿の眷属ならば、何も文句はありません。後ほど、和解の使者を送りましょう。」
「ありがとうございます。」
「では、今夜は宴ですな!準備を致しますので、しばしの間、寛いでくだされ。」
・・・また宴か・・・。この世界の人たちは宴好きなのだろうか。
俺は自室に戻り、窓の外を眺めていた。サイゲの森が見渡せる。やはり、この森は広いな。他のモンスターもいるかもしれないし、実は珍しい物や植物もあるかもしれない。小まめに探索をしたいものだ。
「失礼致します」昨日、俺達を襲ったドラゴンの娘が部屋に入って来た。
「先ほどは、無礼な真似を致しまして、申し訳ございません。」
「実はあのものは長兄で、我が族で一番強い者でございます。それを一撃で倒すとは、さすがというしかございません。」
「そうなんだ、でも強かったよ。やられると思ったもん。それよりも…。」
「何で、そんなに畏まってるの?俺の中では昨日のイメージが強いんだけど、ネコかぶってるの?」
「だって、だって、また一人怖い人が増えたんだもの!畏まりもしますよ!」
「そうそう、その方が、君らしくって可愛いよ。」
「そ、そんな。可愛いだなんて・・・。」顔を赤らめている。
「ちょっと、桜花さん、」玲子がいつの間にか部屋に入って来た。
「無自覚に女の子を口説くんじゃありません。また嫁が増えますよ。」
「まっ、私は良いけどね。」
そうだった〜!余りにも嫁が多いから、毎日褒めるくせが付いていたんだった!
「そんなことを言いに来たんじゃなかった。宴の準備が出来たから広間に来てくれって。」
「ああ、行こうか。」
すると、ドラゴンの娘が手を繋いでくる。
「何をしているのかな?」
「ご主人様をエスコートしようと思って・・。」まだ顔が赤い。
・・・ご主人様?




