四つ口の鹿
「ドワーフの国に行くには、どうやって行くのがいいんだっけ?」
「山脈を踏破するのが一番近いですけど、かなり過酷な道になります。迂回していくのが最も安全かと思われます。」ジギルが言った。
「急ぐ旅でもないし、迂回路で行きますか~食料は大丈夫?」
「はい、森路を通りますので、狩りをしながらだと十分かと!」
「水・塩は大丈夫?」
「はい!十分に確保しています!」
リリアが答えた。
「よ~し、では、出発!」
俺たちはドワーフの国を目指して初めての旅を始めた・・・。
「大体、1か月ぐらいかなぁ~、ドワーフの国まで。」
「そうですね。時間は掛かりますが、平坦な道が多いですので、こちらの方がいいかと。」
「ジギル、随分と詳しいけど、行ったことがあるの?」
「はい、剣闘士をしているころ、一度だけ遠征で魔王国に行ったことがあります。」
「その時は魔王には会った?」
「さぁ、解りませんね。大きな会場でしたし、私も生きるか死ぬかの戦いでしたので。」
「なるほど、見る余裕なんてないわな。」
「街並みとかはどうなの?」
「この王国とは違い、独特の建物が多かったですね。しかし魔王って名前は付いてますが、開けた街でした。」
「なるほど、イメージって怖いね。」
「ですが、油断は禁物ですぞ、主様!」
「解ってるって。」
「この辺りで、休憩しましょう!」
「随分、早い休憩だね?」
「はい、運搬用の馬もいますので、小まめに休息を取ります。」
「そうなんだ。」
俺たちは休憩をとりながら、次までの道のりを確認する。
「ここから先はサイゲの森と言いまして、比較的魔物が出る地域になって来ます。」
「その魔物は強いの?」
「いえ、我々のような大人数でのパーティーには手を出さないと思われます。」
「出るとすればどんなの?」
「スライムとかですかね。」
「スライム!」玲子が目を輝かせながら、話に割り込んできた!
「スライムって、やっぱり水色のボールのようなぷよぷよしているの?」
「はい、玲子様はよくご存じで。」
「一度、見てみたいわ~!」
「あとは、エルフがいます。」
「「エルフ!?」」
森に入る手前でキャンプを張り、リリアが料理を作ってくれる。
「やっぱり、リリアの料理は美味いな~」
「ご主人様、喜んでくれた?」
「ああ、大満足だ!」
「じゃあ、ご褒美ちょうだい」と唇を突き出してくる。
「コラ!」とローズが注意する。
「全く、油断も隙もないんだからぁ。」
「いいじゃない、キス位!」
「あなたはキスだけじゃ収まらないでしょ!」
その日の夜は、男性は交代で魔物の襲撃がないか見張り、女性陣対策として俺に夜這いが来ないか見張りもつけた。
大きな事故もなく、順調に進んでいたら、一頭の鹿が森道に現れた。
「へぇ~、この世界にも鹿がいるんだな」と近づこうとすると
「主様、危ない!」とジギルが俺を呼び止めた。
可愛いはずの鹿の頭が4等分に割れ、大きな口になり、俺を食おうとする。
「この!」刀を抜き、振り切る!首を落とした!
「さすがは主様、一刀両断ですな!」
「この鹿はどれぐらいの強さなんだ?」
「あまり大した事はないですが、奴らは群れをなす魔物です。まだいるに違いありません。」
「シッ、囲まれたぞ!」見たところ10頭ぐらいだろうか、大きな口を開けた鹿が、俺達を囲んでいる。
「一頭たりとも逃がすな!いくぞ!」と俺たちは戦闘を始めた。
ー※ー※ー※ー
俺たちは比較的広い場所に出たので、休憩をとることにした。
「リリア、この鹿で料理出来るか?」
「お任せください!」
「主様、決して美味い物ではありませんよ!」
「いいんだよ。俺は魔物を食って、その能力を奪うことが出来るんだ。」
「そうですか。不思議な能力ですな。」
出てきた料理は見た目とは違い、肉はやわらかく、ジューシーだ。
「リリア、どうやって調理したんだ?」
リリアは長い金属製の串を出して、「ひたすら突いて、筋と組織を切りました!」
「そうか、お手柄だぞ!こっちに来て一緒に食べよう。」
「はい!」
「さて、どんな能力が付いたのかな?」
「フン!」力を入れてみる。何も起こらない。
「おかしいなぁ〜、こうすれば能力が奪えるってサリーナが言ってたのになぁ〜」と頭をかこうとすると、腕が4つに割れて、大きな口になった!
「おお〜、これで食えるのか?ジギル、俺に向かって肉を投げてみてくれ!」
「畏まりました!」肉が宙を舞う。俺の腕がその肉を捕食する。
「おお〜、食えたぞ!でも、味がしないなぁ~、この能力、使い道があんのか?」
「さぁ、休憩終わり、行くぞ!」
俺たちは、歩みを進める。途中、念願のスライムが現れ、玲子が興奮して、持って帰ろうとするのを止めたり、比較的大きなムカデ型の魔物が出たり・・・。ムカデは誰も食べないので、俺だけが捕食した。効果は何もなかったけど・・・。




