0157 吹雪と春華
マイカ帝国の件も一段落し、桜花達にも寛ぎの時間が戻って来たように見える。
連日のように行われるパーティーや宴会、はた目には平和に見えるのだが、桜花には気がかりでない事が一つあった。
黒い鉱石。
あの老人なのか若いのか、男なのか女なのか解らない声。
相まみえようと言った言葉。世界を征服しようとの誘い。が頭から離れなかった。
「桜花さん、どうしたの?」
ワイングラスを片手に玲子がやって来た。何でもないよと言いつつも玲子にはごまかしが効かない。
「桜花さんは嘘をつくときは目線が変わるのよね。私は知っているんだから。」
「玲子には敵わないな。」
リンド評議国・マイカ帝国での黒い鉱石について玲子に話してみた。
玲子は意外にもあっけらかんとし
「桜花さんなら大丈夫よ。その時が来るまで楽しみましょう。ね!」
「そうだな。」
桜花はエールの入ったグラスをグイッと飲み干した。
それから数日後。
ヤヌス王国のレストランミツヤは今日も大忙し。
そこにバレット夫妻がやって来た。
この夫婦、レストランにやって来てはイチャツキおって。お陰で桜花は毎晩のように嫁に迫られることになり、本来ならば精魂尽き果てる所なのだが、カーミラ達の性属性魔法のお陰で桜花は今日も元気である。
そんな何でもない日を送っているレストランミツヤにて。
いつものように仕事をしている玲子が体調不良を訴えだした。
身体が熱っぽいし、吐き気がすると寝込みだしたのだ。
回復魔法を掛けてみるが一行に収まる気配がないことから、どうやら妊娠をしたのでは?との答えに行きついた。
第一夫人のご懐妊に一同は大喜び!毎晩のように宴会がくり広げられ、各国からは祝いの品が届けられた。
その中に、気になる品があった。
エランド王国ー。
サリーナが注意しろと言っていた国からの祝いの品だ。
品物はポーションのような瓶に入った液体。
文書が添えられている。
『ご懐妊おめでとうございます。祝いとして我が国に伝わる滋養強壮のクスリを進呈いたします。よきお子様が生まれますようお祈り致します。』
これは胡散臭い。
危険物だと判断したので、蔵の奥にしまい、時間がある時に解析をしようと決めた。
玲子の妊娠が分かると同時にローズまで妊娠が発覚した。
人間と獣人って子供ができるんだなと意外に思ったが、素直に喜ぶことにした。
玲子もローズも顔つきが優しくなり、慈しみの表情になっている。
まっ、ローズに関しては妊娠しているにも関わらず、夜這いしてくるのだけど。
玲子、ローズの妊娠発覚に、他の嫁達は火が付いたのか、毎晩のように求めてくるようになってしまい、桜花の寝不足は今や当たり前になってしまった。
そして数か月が経ち、玲子も安定期に入ったのでレストランに顔を出すようになった。
バレット夫妻がいつものように顔を出しては玲子のお腹を摩っている。マリーは早くバレットの子供が欲しいとせがんでいるのだが、バレットよ、少しやつれていないか?
バレットはクロゲワギュウステーキニンニクマシマシを2枚食べて精力を付けているようだ。今度、ヒガシムラヤマ領から高麗人参を進呈しようと思う。
まっ、性属性魔法を掛ければ一発なんだけど、バレットがどうなってしまうか心配だから止めておこう。代わりにマリーに魔法を・・・。バレットの身が心配だからこれも止めておこう。
「オウカ様、例の薬品について解析が終了いたしました。」
傭兵団に研究熱心な者が一人いる。これは元々持っていたスキルで、俺の血を飲んだのが原因で飛躍的に能力開花したのだ。
「やはり、毒でした。しかも微量の。」
「どういう事なんだ?」
「大人には効果はありませんが、子供には作用がある物でした。」
やはりか・・・。あの黒い鉱石の者の仕業に違いない。
「すぐに処分してくれ。」
「畏まりました。」
奴め、俺に喧嘩を売ったことを後悔させてやる。
子供が数か月で生まれると言う頃、俺は日本に帰っていた。勿論、生まれてくる子供の為に日本刀を打つためである。
岡山県にある鍛造所。ここが俺の親父がいる所だ。
弟子のムッタさんが出迎えてくれる。
おふくろは今日はどうしたの?と聞いてくるので実は子供が出来たんだと言うと大喜び!その日は手作りちらし寿司と鯛のお頭付きの食事となった。
わしも、おじいちゃんかと喜んでいる親父に、子供の為に小太刀を打ちたいと言うと、快く了解してくれた。
いつもなら玉鋼を選ぶところから修行だと言って何でもやらせるくせに、今回は親父が選ぶという。鉄を打つのもわしがやると言ってきかない。余程、孫が出来た事が嬉しいのだろう。結局、最後の一打ちしかさせてもらえなかった。
名前を吹雪、春華と名付けた。もちろん、この名前を自分の子供に付けるつもりである。
子供が生まれたら連れて来いよと言われながら、実家を後にした。
そして、いよいよこの日がやって来た。
二人そろっての陣痛である。
茜率いるニンフたちは右に左に大忙し。
魔法が使えるものは少しでも陣痛を和らげようと頑張っているが、それ以上の陣痛なのだろう、玲子もローズも汗でびっしょりである。
俺はと言うと「男は邪魔だから、どっかに行って下さい!」と叱られてしまった。少し、寂しい。
陣痛は数時間にわたり、女性陣の声や玲子たちの荒い息遣いが聞こえる。俺達男性陣は神殿に行き、祈るほかなかった。
そしてー。
「ご主人様、生まれましたよ!元気な男の子と女の子です!」
俺はすぐに二人の元に行き、生まれたばかりの子供を見る。赤ん坊と言うだけあって、身体全身が赤色でしわくちゃだ。
「抱いてみる?」
玲子の言葉に従い、抱いてみることにした。
「首が座ってないから、頭を支えてください!」と女性陣に言われ、おっかなびっくりと抱いてみる。俺の指を掴んで放さない、赤ん坊って意外に握力があるんだなと驚いてしまう元気な男の子だ。
「ごしゅじんさまぁ、わたしのこどももだいてぇ。」
ローズの子供は・・・。あれ?ローズってラミア族なのに生まれてくる子供は人間なんだなと不思議に思っていると、ローズが人間に擬態している時に妊娠した子供は基本的に人間体なのだとか。時間がたつと、本来のラミア族の姿にもなれるのだそうだ。こっちも元気な女の子だ。
子供が生まれたという事で、転移魔法でラミア族の族長であるサーペントを呼んだ。サーペントは孫が生まれたと大よろこびをして、ラミア族に伝わる加護の魔法を子供に与えた。 これで、子供は病気などにかかりにくくなるらしい。
ついでに、ローズの妹たちにも早く子供を作れと言って帰って行った。その日はこの二人が夜這いに来ることは間違いないだろう。
その日から、連日のように祝いの品や文書が届けられ、毎日バレット夫妻が来るわの騒ぎで何日も宴会が行われるようになった。




