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Venus And The SAKURA  作者: モカ☆まった~り
マイカ帝国編
156/165

0155 宗教戦争

 ヤヌス王国訪問中のマイカ帝国皇帝ロンベルクは神殿を訪れていた。

「この御方が女神クリス・サリーナ様ですか!」


 神殿の最奥中央に鎮座しているクリス・サリーナ像を前にひれ伏している。

 元々、マイカ帝国はクリス・サリーナを信仰している国だったが300年前にサリーナが姿を消してから徐々に信仰が薄れ、今は軍が布教している信仰が増えて行ったのだという。


 では何故、ロンベルク一派がクリス・サリーナを信仰しているのか?それは王家代々信仰してきた女神という事もあるが、軍が信仰している教義、クリス・サリーナは権力を傘にして民衆を苦しめている、我が神こそが民衆を幸福へと導いてくれる唯一神だと言っている事に疑問を持っているからだと言う。 


 実際に300年前にクリス・サリーナは姿を消した。しかし、それをいいことに権力を傘にしているのは王族や貴族、軍であり女神ではないという事をロンベルクは知っている。知っているのだが、長い歴史の中でマイカ帝国が大国になったのは軍が精力的に活動をしたのも事実。しかし、軍はクリスサリーナを信仰している民に圧力をかけ、神官たちを虐殺してきた事実もある。


 圧力を受けた民衆は恐れからクリス・サリーナを捨て、軍が推奨する信仰へと改宗していたが、一部では隠れてクリスサリーナを崇めていた。


 皇帝ロンベルクはクリス・サリーナ像を前に懺悔の念を抱きながら膝を屈している。そこに美しい声が響いた。クリス・サリーナである。


「私の名はクリス・サリーナです。皇帝ロンベルクよ、我が声が聞こえますか?」


 声を聞いたロンベルクは嬉しさと恐怖で身体を震わせている。

 今までの行いを考えると断罪も受け入れる他ないだろう。そう考えていた。


「今まで、苦しい環境の中で私を敬って来たことに感謝致します。何故、私が姿を消していたのか話しましょう。」


 サリーナは300年前に起こった事実を包み隠さずロンベルクに話した。


「では、その悪魔がサリーナ様をつまはじきにしたという事ですか?」

「その通りです。ですので復活の為に今は勇者オウカに全てを託しています。」

「申し訳ございません。我が国はサリーナ様に反旗を振ってしまいました。この罪をいかに償えばいいのか分りません。」

「私の使者のオウカを信じなさい。良いですね。」


 皇帝ロンベルクはクリス・サリーナより名前を賜り、眷属となった。そしてサリーナを国教とすべく動くことを誓うのである。


 後日、桜花はマイカ帝国に訪問をすることを約束し、ロンベルクはマイカ帝国へと帰って行った。





「女神クリス・サリーナ様を唯一神とし、我が国の国教とする!」


 皇帝ロンベルクは国の中央広場にある演説会場にて高らかに宣言をした。


 これに驚きと歓喜の声を上げたのは『隠れクリス・サリーナ派』である。

 これで、堂々と信仰を行えるのだと、ある者は涙し、ある者は信者同士で手を取り合い喜びに浸っていた。


 同じく動揺したのは、反クリス・サリーナの貴族と軍である。即座に皇帝に抗議をするのだが、皇帝は取り合わず、即座に今の信仰を止め、クリス・サリーナを崇めよと命令をされるのであった。





「皇帝は血迷ったか・・・。これこそが神だと言うのに。」

 ここは貴族たちが集まる神殿にある会議室である。部屋の奥には黒い鉱石があり、これを神と崇めているのだ。


「今こそ、我が宗派を神殿に集め、皇帝に異議を申し立てる!」



 神殿には数万の反クリス・サリーナの信者が集まっていた。それぞれが胸に黒い鉱石のペンダントを握りしめている。


「我が神よ、どうか我々を導いてください!」


 神殿長の声に祭られている巨大な黒い鉱石から声が響いた。


「我が親愛なる者達よ、我の指示に従いなさい。」

 その声に信者全員がひれ伏し信仰する神が発する次の言葉を待った。


「反逆者、皇帝ロンベルクの暗殺とクリス・サリーナを崇める信者を始末しなさい。彼らはこの国に災いをもたらす者達です。正義は我を信仰するあなた達にあります。いいですね。一人残らず始末するのですよ。」


 その日を境にクリス・サリーナを信仰する者のあぶり出しが始まった。所謂、踏み絵である。これを拒絶したものは、反逆者とみなされ虐殺されて行った。


 その光景を皇帝ロンベルクも黙って見ている訳ではない。すぐさま王直属の軍を派遣し、武力による鎮圧を始めた。しかし、虐殺の現場は無数にあり全てを抑えることが出来なかった。


 ロンベルクも抹殺の対象と知り、常に厳戒態勢が敷かれ昼夜問わず、緊張状態が続いて行ったのである。



 ある日、ヤヌス王国のバレットにロンベルクより書簡が届く。

 書簡には反女神教の輩に女神クリス・サリーナを信仰している者達が虐殺をされている、我もまた、暗殺の対象となっているので助けて欲しいとの内容だった。


「オウカさん、一緒にマイカ帝国に行ってもらえませんか!戦争です!」


 バレットが焦り、悲痛な声で桜花に頼みに来た。これはただ事ではないと桜花はすぐに承諾し、全傭兵団を連れてマイカ帝国へと赴くのであった。





「この異教徒め!悔い改めながら死んでいくがいい!」


 クリス・サリーナを信仰している者への虐殺は留まることなく進んでいき、その者達が住む住宅もろとも火を掛けられ、辺り一面、火の海と化していき、その中に虐殺された者達の死体が放り込まれて行った。


 逃げるものを騎乗兵が追いかけ、後ろから斬りつけ、家族であるという事だけで赤子も虐殺の対象となっている異常な自体に、ついにロンベルクも意を決し、虐殺を行っている者の粛清を言い渡すのであった。


 マイカ帝国内での宗教戦争の始まりである。


 至る所で剣が交わる音が聞こえ、街中が血で染まって行く。その光景の中、バレット率いるヤヌス王国軍が到着した。


 バレットは皇帝ロンベルクと情報交換し、その間にオウカ率いる傭兵団が鎮圧にかかる。

 ある傭兵団員が、反女神教の信徒の特徴に気づいた。


「オウカ様、反女神教の者達はいつかの黒い鉱石のペンダントを首に下げています。」


 黒い鉱石・・・。旧リンド法国にて民衆を惑わせていた物だ。桜花は信徒を捕まえ、黒い鉱石を奪えと全傭兵に伝えた。


 オウカの狙い通りに黒い鉱石を奪われた者は、自分は何をやっているのか?と言っている。という事は、発信源となる鉱石があるはずだと、セバス率いる隠密部隊に命令を下し、引き続き鎮圧活動に移ることにした。


 徐々に反女神教の反乱が抑えられ、好転の兆しが見えて来た所に反女神教精鋭部隊が姿を現した。ヤヌス王国軍が迎え撃つのだが、やはり強い。この分ではやられてしまうだろう。


 桜花は魔法部隊を前線に出し、これらを拘束、それぞれを縄で締め付け黒い鉱石のペンダントを奪った。


「オウカ様、神殿に大型の黒い鉱石を発見致しました。」


 セバスの報告に桜花は神殿へと向かう。傍らには洗脳されないようにとナツが同行し、襲い掛かる者達をジギル達がはねのけた。


 神殿の中にはリンド法国にあった物より数倍大きな黒い鉱石が置かれている。

 これらを守るように神官たちが祈りを捧げ、その周りを軍隊が囲っている。


 幸いにも神殿内は洗脳をする空間ではないようだ。

 軍はジギル率いる傭兵団が抑え、神官達はナツが精神支配で動けないようにした。


 桜花は刀を取り出し、鉱石を粉みじんに切り捨てた。その瞬間に街中で起こっていた暴動が収まり、神殿内も嘘のように静まり返った。


「ハハハハ!またもやお前か!三ツ谷桜花よ!」


 リンド法国でも聞いた声だ。相手が男なのか女なのか、はたまた若いのか老人なのか解らない声が神殿内に響く。


「どうだ、我と共にこの世界を手中に収める決心はついたか?お前なら歓迎するぞ。」

「何度言われようと俺はお前に組することはない!お前こそ邪悪な考えを捨てろ!」

「ククク、そうか。ならば近いうちにお前と相まみえようぞ。楽しみにしておくがいい。」


 黒い鉱石は灰となり消えて行った。



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