0149 プロポーズ大作戦
バレットの心の中を聞いてからはマリーは見た目は更に美しくなり、笑みが自然とこぼれているのだが、何故かバレットに会おうとしない。試合をするどころか、バレットが近づくと慌てて逃げるようになってしまった。
マリーに聞いてみるとバレットの気持ちが分かったお陰で恥ずかしくなり、目を見るのもためらうのだとか。
それならばと今度はバレットにケシかけてみると「僕は嫌われているんですかね〜」としょぼくれている。そんなことはない、男でしょ!頑張れと鞭を入れるのだった。
そんな日が過ぎて一週間。
「玲子さん。私、国に帰ろうかと思うんです。」
ここはレストランミツヤ。マリーは紅茶を眺めながら呟いた。
「バレット様の気持ちが分かってから、苦しくて仕方ないのです。それは心臓が破裂しそうなほど。だから一度、国に帰ってから冷静になろうかと思うのです。」
マリーの話しが聞こえたのか「それは困るな」とバレットの声がした。
「バ、バレット様」
「マリー王女、本当に帰られるのですか?」
真っ赤になったマリーは俯きながら頭を縦に振った。
「では、僕と試合をしてください。」
え?とマリーはとっさに顔を上げバレットを見た。
「僕から誘うのは初めてですね。国に帰ってしまう前に思い出にしたいのです。」
「解りました。」
「では、明日にしましょう。」
翌日。
王宮の庭で試合が行なわれるので、桜花、玲子が見物にやって来た。
バレット、マリー共々に金属鎧を着用し、すぐにでも戦える状況になっているのだが気合十分のバレットとは正反対に下を向きモジモジとするマリー。
「では参りましょう、マリー王女、僕たちの最後の戦いです。真剣勝負致しましょう。」
「は、はい・・・。」
「では、始め!」
号令と共にバレットが踏み込み間合いに入った。
大きく振りかぶるバレットの動きに追いつけず、剣で受け止める事しかできず、マリーは倒れてしまった。
「どうしましたか?これは真剣なのですよ!これが戦争なら王女は死んでいるのですよ!立ちなさい!」
マリーは頭を振りながら立ち上がり剣を握り構えをした瞬間にバレットが剣を振り下ろす。バレットの攻撃を剣で受ける事しかできないマリーは後ろに下がる一方でなすすべがない。
「どうしました!いつもの貴女らしくない!撃ち返してきなさい!」
腰を落とし振りかぶったバレットの剣はマリーの脇腹にめり込んだ。
グファ!マリーの悲痛な声が漏れる。マリーは動けなくなってしまった。
「情けない・・・。」マリーから小さく声が漏れる。
「本当に情けないですね!僕の好きなマリー王女はもっと真っすぐで強いはずだ!」
その声にマリーはぐしゃぐしゃになった顔をあげた。
「僕は君の事が好きだよマリー。」
「まだまだ、やられるもんですか!」マリーの顔つきが変わりさっきまでとは明らかに違うシャープな動きに変わった。
マリーの気の乗った剣が振り下ろされ、バレットは受け止める。今度は形勢逆転、マリーが押す状態になった。
マリーの攻撃をかわそうと後ろに飛び間合いを開けたはずなのに、一瞬で間合いを詰めてくる。バレットが剣を弾きマリーの剣は空を舞った。
通常ならこれで終わりのはず・・。だがしかし、マリーは空を飛んだ剣を受け止めバレットに襲い掛かろうと振り向いた時にバレットの剣が振り下ろされた。今度はバレットが優位だ。
マリーは体勢を低くし、バレットの攻撃をしのぐと脇腹に目掛けて横に剣を振るう、防御をしようと剣を構えたその瞬間。マリーは剣の軌道を変えた。
バレットの腕にヒットした剣はバレットの剣を空に飛ばす。
試合終了。初めてのマリーの勝利だった。
お互いを称える為に右手を出すバレットの手を握るとマリーは意を決した。
「私はバレット様が好きです!誰よりもバレット様を愛しています!」
マリーの勇気の言葉だった。
「僕と結婚してくれるかい?」
「はい!」
その様子を見送った桜花と玲子はその場を後にしたのだった。
その日の夜。ベルサイユ宮殿にて。
桜花と玲子はソファーに座りワインを飲んでいる。何度も乾杯をしている二人に不思議そうな団員や嫁達が集まって来た。
「今日はバレットがプロポーズをして成功したんだ!お祝いをするぞ!宴会だ!」
桜花の言葉に調理スタッフは厨房に消え、団員はエールの樽やワインの樽を用意し、魔法部隊はカラフルな光を部屋いっぱいに飾る。
厨房から牛一頭肉が出てくると団員の歓声が沸き、あっという間に準備が整った。
「それでは、バレット夫妻の今後の幸せを願って~っ、乾杯!」
『乾杯!』
宴会の最中、玲子と嫁達はバレットの告白の瞬間を肴に盛り上がり、桜花は桜花で団員と騒ぎ、はしゃいだ。
最初にバレットと会話をしたのはバレットが15歳の時だった。自分が若いからと何かにつけて桜花に相談や無理難題を押し付けていた。
バレット国王、現在22歳。新しい人生の始まりである。
そう感慨にふけっていると、嫁達が桜花の所に集まりだした。皆顔を赤らめている。
「どうしたのかな?」
「ご主人様、バレット様の話しを聞いていると我慢できなくなって来たのです。」
嫁達がじりじりと寄ってくるので、後ろに逃げようとすると他の嫁達に捕まってしまい逃げ場がなくなってしまった。
「ご主人様・・・。逃げないで。」
結局、嫁達に部屋に連れていかれ、抱くことになった。嫁達は感情が高ぶっていたのだろうか、いつもより声が大きく、そして身体を震わせる仕草も増えていた。
朝方。
桜花は中庭にある椅子に腰を降ろし、珈琲を一口。結局、一睡もできなかった。
「早いのね。」と同じく珈琲を片手に玲子がやって来た。
「バレットのプロポーズを見ていると俺達の事を思い出したよ。」
「あの時の桜花さんって、がちがちに固まって言葉も噛みかみだったわね。」
玲子がクスリと笑い桜花をからかう。
「なぁ玲子。」
「な〜に?桜花さん」
「これからもよろしくな。」
「ええ。これからもよろしく。」
二人は珈琲カップで乾杯をした。




