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Venus And The SAKURA  作者: モカ☆まった~り
ハイマギーの森編
144/165

0143 ゴブリン

 ゴブリンってさ、緑色の貧弱な『雑魚モンスター』だよね?

 Wikiでも『悪戯好きの妖精』って、書いてある。


 俺の目の前には、地響きと共に走ってくる完全武装の『巨人達』。


 もう一度、言おう。

 ゴブリンは『雑魚モンスター』なのだ。


「なんだ!あれは!」

 俺は思わず、叫んでしまった。


「オウカ様、あれがゴブリンです!」

 ジギルが、ローズが、ラムが、ダダンが、傭兵団全員が、口を揃えて言った。


 その『緑色の集団』は、一人では持てないだろうという位の大きな斧・棍棒などの武器を持ちながらも、オリンピックの短距離走に出れば金メダル間違いなしと思わせる位のスピードで雄叫びと共に突進してきた。


「全員、抜刀!」

 俺の号令に合わせ、全員が戦闘態勢に入る。リリア達食糧班はラムが安全地域まで運ぶ。

 魔法が使えるチームが土壁を作り足止めを狙うが、一瞬にして粉みじんにされてしまい、更に加速をしてきた。


「いいか!奴らは、明らかに敵意がある!構わず、斬ってしまえ!行くぞ!突撃!」


 俺達もゴブリンを目掛け、突進していく。コイツラ、近づけば近づくほどデカさが分かる。多分、腕だけで俺のウェスト位はあるのではないか?

 そのたくましく血管が浮き出た両腕は俺よりも大きな斧を大きく振りかぶり、俺目掛けて振り下ろした。


「そう、簡単にやられねぇっての!」

 振り下ろした斧に合わせ、後ろに飛びゴブリンの攻撃を交わしてみると、地面がえぐり取られるぐらい深く刺さっているのに、何事もなかったように引き抜いていた。見た目だけの筋肉ではなさそうだ。当たったら、完全に身体は真っ二つになるだろう。


 それにしても、こんな大きな身体なのに、動きに切れがあるんだよな。普通はさ、図体に合わせて動きが遅くなるもんじゃないの?何?その動き。反則級ですよ!人間なら、絶対にお友達になりたくない!喜ぶのはプロレスラーか相撲業界だけでしょ!


 他の団員達は、小回りを生かして細かく斬り付けて削っているように見える。団員の持つ日本刀は練習用にムッタ棟梁が鍛えたものだ。親父の刀程の成果はないように見える。棟梁の修行はまだまだ続くのは確定だな。


 でもよ・・・。俺の刀は一味も二味も、違うよ?

 再度、ゴブリンが斧を高々と挙げると振り下ろすタイミングを見切り、一太刀で両腕を斬り飛ばした。ゴブリンは、何事?と動きが止まったのだが、自分の両腕がなくなっていることに気づくと、悲鳴を挙げながら、地べたを転げまわっていた。


「静かにしてもらうよ。」

 刀を喉に突き刺し、とどめを刺す。他のゴブリンと傭兵団は、もつれあっているようにも見える。中には棍棒で吹っ飛ばされた団員もいるようで、ゴブリンよりも団員の悲鳴の方が大きく聞こえるようだ。


 ジギルは、一回り大きなゴブリンを相手にしている。どこかのアメリカ映画のように、ゴブリンが一発殴ればジギルが一発殴るファイティングシステムになっているようで、ジギルもゴブリンもニヤリと笑いながらの格闘だ。ローズは、中距離からの鞭の攻撃が相性がいいのか、はたまた、闘技場の経験なのかゴブリンを次々と倒している。ローズの妹達・・・。

 え?この子達って、ジギルと同じファイティングスタイルなの?素手で戦ってる!それでも、二人でゴブリンを一体、相手しているようだ。


「お前ら!戦いに酔うな!さっさと、始末しろ!」

 俺の号令が聞こえた団員は、一瞬にしてトドメを刺し、あちこちでズーンとゴブリンが倒れて行く音が聞こえた。


 そして、残っているのが「ジギル」だった。

 ジギルは、闘技場に居た頃を懐かしんでいるのか、はたまた、単純に相手が強いのか、中々、決着が付かない。他の皆は終わっているというのに。自然とジギルの周りに団員が集まり、そして「ギャラリー」になってしまった。


 ファイティングスタイルは、そのままの殴り合い。二人ともフラフラである。それでも、通じ合ったのか、お互いフッと笑い、殴り合いが再開される。そして、力尽きた二人は、倒れてしまった。


「相変わらずだな」ジギルが荒い呼吸の合間に話し

「お前もな、ジギル。」ゴブリンも大の字になって、天を仰いでいる。

 二人って、知り合いなのか?


「あら、久しぶりね!」

「お前もな、イバラヒメ!」


 ローズがゴブリンの手を持ち起こしている。やっぱり、闘技場の元・チャンピオンだ。


 ジギルはまだ苦しそうにしているので、ローズに説明をしてもらった所、このゴブリンはジギルの前の無敗の王者で、ジギルに負けた事によって引退したのだと言う。それで、故郷に戻って、今はゴブリン村で傭兵をやっているらしい。話しが出来そうなので、ポトフに頼んで、このゴブリンだけ回復魔法を掛けてもらった。


「お前は敵なのか?」

「何を言っている。お前たちが俺達の土地に踏み込んで来たんだろうが。だから、攻撃をした。自然な事だろ。」


 ゴブリンは片眉をピクリと上げ、俺を睨むように歯を見せる。しかし、その状況をローズが黙って見ているはずがなく、鞭がゴブリンの首を締め上げる事になった。


「あ〜な〜た〜ね〜。誰に~文句言ってるの~。」首に回った鞭の締め上げが、更にきつくなっているのが、鞭のギリギリという音で分かる。


「わ、分かった、分かったから、鞭をほどいてくれ!息が出来ん!・・・。本当に容赦ねーな!お前は!見ろ!首に後が付いちまった!」


 ゴブリンは首を摩りながらやれやれといった顔をしている。闘技場でのローズもこういった感じで接していたんだろう。慣れもあるのだろうか?それでも、笑みを浮かべている。


「で、この土地に何の用だ?まさか、俺に合う為に軍隊で来た訳じゃないだろう?」

抵抗はしませんよ、降参ですという風に両手を上げ、ゴブリンは胡坐をかいていた足を崩し、そして両腕を後ろに付き、寛いだご様子。


「俺達は、戦争を仕掛けている訳じゃない。エルフを解放するためにやって来たんだ。」

 俺もゴブリンの前に胡坐をかき、少し穏やかに理由を話した途端に、ゴブリンの顔色が・・・。元々悪いけど、青ざめて行くのが分かる。


「それは・・・。やめておけ。」

 絞りだすようね、悲壮なと言う表現がぴったりの声でゴブリンは俺の要求を拒んで来る。それもそうか、奴隷を解放しろと言われているんだ、そう簡単に手放すはずもないか。


「何故だ?エルフを解放するだけで良いんだぞ?」


「俺にはそんな権利はねぇ。」ゴブリンは首を横に振る。更に、もう一度、止めておけと言った。


「お前には、その権限がないって事だな?お前の上の奴に会わせろ。俺が話しを付けてやる。」


「ゴブリンの頭は、俺だ。でもな、無理な要求だぜ、あんちゃんよ。」


「何故だ!トップのお前が決めればいいだけの話しじゃないか!」


 ゴブリンは、面倒くさくなったのか、よっぽど言いたくない事なのか、何度も頭を振る。


「エルフを解放しろ!」


「俺達がエルフを奴隷にしてるんじゃねぇ!エルフが俺達を奴隷にしてるんだよ!」


 え?エルフだよ?あのか弱いイメージの。実際は魔法が使えるから強いと思うけどさ。そのエルフが、こんなマッチョなゴブリンを奴隷にしてるの?コイツ、嘘ついてるな?ゴブリンの瞼は涙が溢れている。嘘じゃないようだ。


「分かった。それじゃ、エルフからお前達を解放する。エルフの元に案内してくれ。」

 こんな泣いているマッチョゴブリンをほっとけないしな。何だか最初の話しから違ってきているような感じがするんだけど、最終的にエルフを連れてくればいいだけだしな。エルフと話し合いをしよう。

 俺の言葉に顔面いっぱいの笑顔で抱きついてくるゴブリン。よく見ると、周りのゴブリン達も、歓声を挙げている。本当に奴隷になっているようだ。


「我々を解放していただいた暁には、我々ゴブリンはあなたに付き従います!」



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