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Venus And The SAKURA  作者: モカ☆まった~り
ハイマギーの森編
139/165

0138 日本刀「桜幹」誕生

 仮眠をとったはずなのだけれど、寝たのか寝てないのか解らない。しかしテンションは上がっている。


 俺が徹夜をしているという事は、当然のように親父もムッタ棟梁も徹夜をしている訳で、少しふらついているムッタに対し、元気溢れているのが、ウチの親父。


 徹夜をしたので、朝の火入れはしなくても大丈夫な訳でその分、仕事にさける時間が増えるというもの。

 朝食は俺15分。ムッタ棟梁30分。親父1時間。不公平と思うかもしれないが、職人の世界では当たり前の事なのだ。多分。


 昨日に続いて今日は鋼を打つ。鋼は鉄よりも柔らかいので力加減が非常に難しい。しかし、しっかりと打つことが出来れば切れ味抜群の刃になる、いわゆる心臓部。


 はたからは豪快に打っているように見えるかもしれないが、俺達の心の中では「そ〜っと、そ〜っと」と言っている。


 鋼を打ち終わったら、鉄と鋼の「合わせ」をする。これが難しい。

 よく考えると「鉄」と「鋼」は違う金属。普通にはくっつくわけがない。

 それを可能にしているのが「火」と「打」である。下手くそが打てば、簡単に剥がれてしまう。うまく融合させなくてはならない。


 さすがにこの部分は、お前達では無理だと親父がやってくれることになった。

 親父の打つ一挙手一投足を俺とムッタ棟梁は瞬きをせずに見つめる。こうやって技術を盗むのだ。


 焼き入れをしては打ちを繰り返し、刀の形に仕上げていく。これが出来るかと言わんばかりに親父は打っていく。俺達はかたずを飲むように見つめている。

 刀には刀匠の魂が宿ると言われている。その訳を目の前で見ているのだ。

 何故だか、涙が溢れてきた。こんなに魂を込めて打っている親父がカッコいいと思ったからと、こんなに素晴らしい技術を継がなかった自分への不甲斐なさから出る涙だった。


 カンッ、カンッと次第に音が変わって行くのが解る。

 そんな時に親父の手が止まった。

 親父は俺を見て、最後はお前が打て!お前の刀なんだからなと言って来た。


 最後の一打、気を抜けない。下手な打ち方をすれば、ぽっきりと折れてしまう。

 俺は、全神経を集中させ、そして・・・・カーンッ!仕上げの打ちが終わった。


 これで、刀の下準備が完成である。

 親父が打ってくれたおかげで、午前中で終わってしまった。


 今日は飯食って寝ろ!と言われたので、火を消し、掃除をして後片付けをする。

 昼食は塩気の多い味噌汁と煮魚、酢だこにじゃこ飯だった。

 刀を打っている時は酒は飲まない。これは親父が昔から決めている事。

 というのは、自分が弟子だった頃、前日に酒を飲んだ兄弟子が鉄を打つ時に手元が狂い手を潰してしまった光景を見てしまったからだという。おかげで、ドワーフのムッタ棟梁は禁酒の日々が続いている。


「ところで桜花よ。」

「何でしょうか、カシラ!」

「今は親父でいい。何をしようとしているんだ?」

「実はサリーナという女神に心を鍛えろと言われて、他に鍛え方なんて知らないから。」

「サリーナってあれだろ?ムッタがいる異世界の女神だろ?」


 当初、親父に異世界だの女神だのと言っても信じてもらえないと思っていたから、言わないでおこうと思っていたんだけど、異世界バリバリのドワーフ、ムッタ棟梁を見てしまっては認めざるを得ないという所だろう。


「何で心を鍛えないといけないんだ?」


 親父の言葉が痛い。言わないといけないのか・・・。






「ワ—ハッハッハッハ!お前、男と寝たのか!これは愉快!」

 親父は予想通りに大笑い。ムッタ棟梁も同じ。


「だから、サリーナに治して貰ったんだけど、心を鍛えないと簡単に折れるぞと言われたんだよ!」

「そんな事なら、魔王様に治してもらえばいいじゃねぇか?」

え?ムッタ棟梁、何言ってんの?リョウタは精神科医でも泌尿器科医でもないですよ?

「ん?そっちの世界に魔王がいるのか?まるで御伽噺の世界だな!」

 親父は楽しんでいるようだ。

「ええ、だから息子さんは勇者として召喚された訳ですよ、カシラ。」

 棟梁が説明を終えると、親父は勇者ってなんだ?と言っていたので、昔で言う悪をやっつけるヒーローだよと教えてあげた。


「なるほどね~、世界を救う勇者様も男の夜這いには勝てなかった訳か」

 親父も棟梁も大笑いをしていた。





 一休みをして夕飯になった。

 お母さんは明日が本番ねと、気合の入るニンニクたっぷりの餃子を作ってくれた。


 ムッタ棟梁は、少し嫌な顔をしている。

「棟梁、餃子は嫌いなの?」

「この匂いがなぁ・・・。」

「でも、食べないと明日はみんなの匂いで仕事どころじゃなくなるよ」

「いや、実はドワーフってのは、鼻が利くんだよ。だから自分の匂いも解るんだよな。」

 棟梁は目を瞑りながら餃子を食べていた。





 翌朝。

「いい仕上がりになりますように」

 神棚に祈り、工房を掃除していく。

 火入れ作業も終わり、いよいよ今日は「研ぎ」をする日。いわゆる日本刀の完成の日となる。


「今日もよろしくお願いします!」

「おう!よろしく!」


 ムッタ棟梁尾は鉄を打つ作業、俺は研ぎの工程をやって行く。

 現代ではグラインダーという機械が砥石を回転させ、刀身を押し付ける方法が一般的だが、親父はそれを嫌が る。全て手作業でなければいい日本刀は作れないと信じているからだ。

 ここでも親父が言う「鉄の声を聞く」というこだわりがある。


 最初は荒く削り、徐々に砥石の目を細かくしていき、仕上げる。そんな工程だ。

 これが、手早く終わらない。だって鉄よ?鉄の塊を研ぐんだよ?手で。

 文句言わないで研げと頭をコツンと叩かれる。親父が言うにはこうやって作るから、日本刀には魂が宿るんだ。と言っていた。


 確かにひたすら研いでいくと、感触が違う部分があることに気づく。

 なんでそうなるのかと聞けば、鉄を打っている時にムラがあるからだと言われた。


 砥石を少し目の細かいものに変えて、研ぎを開始する。少しだけ、刃に文様が現れてきた。

 この文様で誰が打ったか解るとか。それでも江戸時代のころは文様の美しさを競って武器の性格よりも美術品の色が強くなっていったらしい。

 親父が打つ日本刀は「武器の色が濃い日本刀」だ。

 だから、あの時も大男を一刀両断できた訳だ。

 でも、いくらいい刀であっても使う者がぼんくらならば、刀は力を発揮しない。使う者を選ぶ武器であるのには間違いないだろう。


 もう、昼を迎えてしまった。今日は残り数時間となってしまった。


 俺は少し、焦りが出てきてしまった。

 その変化を親父は一瞬で見破り、注意をされた。


 砥石を中ぐらいの物に変えて、研ぎを再開。この工程をあと数度行わなければならない。

 研いでいるだけなのに、汗が止まらない。焦りも出てきた。


 夕方を過ぎた。仕上げにはもう少し。

 親父が言うには、あと5時間ぐらいで出来るだろうと言っていた。


 簡単に夕食を済ませ、研ぎを再開。日本刀らしくなってきた。

 午後10時を回った頃、一番目が細かい砥石へと移る。

 この砥石で行うのは、調整位の物で、簡単に終わった。


 出来た!と喜んでいたら、親父が和紙を持ってきた。

 まさか?ね。と思っていたら、和紙を空中に投げ、刀の刃で受け止める。和紙は刀に引っかかるように止まった。


 親父が研ぎを代わってくれた。時間にして30分位。

 もう一度、和紙を空中に投げ、刀の刃で受け止める。和紙は2つに切れ床に落ちた。


 完成だ。


「桜花よ。銘は何とする?」

 銘。刀の名前だ。親父に手伝ってもらったとは言え、自分で打った物だから「桜」の字は入れたい。


「親父、この刀の銘が決まったよ。」



 日本刀「桜幹」。



「桜の幹と書いてオウキ。どうかな?」

「いいんじゃないか?」


「ところでさ、親父?俺の「桜花」って名前の日本刀があるよね?」

「ああ、あるな。刀の名前をお前に付けた。」

「俺が生まれた時に桜が咲いてたからって言う話は?」

「桜が咲いてたのは本当だ。だから、お前にぴったりの刀の名前だと思って付けたんだよ。」

「俺に子供が出来た時は桜幹とつけようかな。」

「ああ、早く孫の顔を見せてくれよ。」

「親父はいくつになっても死ねないな。」


 刀身に「桜花」「桜幹」と刻まれ、日本刀「桜幹」が完成した。



 その夜。と言っても、夜中である。

「今日はお祝いにちらし寿司よ~!」母さんが作って待っていてくれた。







 ※刀を打つ工程などは、全て想像上の物で、事実とは異なります。ご了承下さいませ。


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