0134 東京傷心旅行①
話は現在に進む。いわゆる桜花が衆道の快楽に堕ちてしまった時になる。
「俺・・・。しばらく休むことにするよ。」
桜花は落ち込むと言うより自信喪失。それもそうだ、女性で快楽を得ることが出来ない身体になってしまったのだから、心が折れるのは当然。
「そうね。ゆっくりとすればいいわ。」
玲子は止める事なんて出来ない。夫である桜花が男でしか快楽を得ることに玲子を含め嫁達は、原因はサンにあるとしても、それ以上の快楽をさづけることが出来なかった自分にも腹が立つ。結果、どこに怒りをぶつければ良いのか解らない状態になっていた。
「屋敷にいても、ゆっくりできないわね。リョウタさんの所にでも行く?」
「いや。東京に帰って治療を受けることにするよ。」
これはかなり深刻な問題だ。東京に帰って治療するとすれば、心療内科に行くか、カウンセリングを受けるかのどっちかになる。
カウンセリングなら、まだいいけど、心療内科だったら薬が処方される。そうなるとこっちの世界には帰って来ない、いや、来れないだろう。それだけは避けなければ。
「1週間だけ日本に帰っていいわ。それ以上はダメ。必ず帰って来て。それから治療を受けに行っても、薬を飲んじゃダメよ。分かったわね。」
「ああ、わかったよ。」
桜花は一人、東京へと帰って行った。
***
さて、東京に帰って来たものの、どうやって治療すればよいのやら・・・。
桜花はまずはEDの専門医を調べ、カウンセリングの予約を取った。本当は勃起しないのではなく、男にしか勃起しなくなったという事で、身体的な事ではなく心理的な物だと思ったからである。
ただ、予約が取れたのは3日後。本当の事を言うと今すぐにでもカウンセリングを受けたいところだが、仕方ない。
それまでの時間をどうやって潰すか。気晴らしに東京を満喫するとするか。意外と元に戻るかも知れんしな。
まずは、気分転換に服を買う事にした。
行きつけだった店に行き、久しぶりと店員に声を掛けた所、昨日もいらしてましたよ。と言われてしまった。コピー君、君はいいセンスをしていると思うよ。
異世界に持って行っても大丈夫かな?と言っても何でもありだった。
気を付けないといけないのは、みんなが同じ服を欲しがるところだ。
そうなると、あまり高い服は・・・イカンイカン、今日から1週間は俺の為の休みだ。お金も時間も俺の為に使おう。
俺は色々と試着したのだが、結局の所は気が乗らず、何も買わずに店を出ることにした。
次に訪れたのは本屋。新しい作物の作り方や、工業製品の作り方などを調べることにした。あれもこれもと選んでいると、13冊の本を買う事になってしまった。
でも、これで異世界の暮らしが豊かになるのであれば安いものだろう。
買った本はロッカーに預け、次はカフェで昼食をとることにする。
異世界では、和食とイタリアンがメインだから中華?いや、中華は品数は少ないけれど、 シェフが作る事ができる。ならば、フレンチ?いや、王都の料理は味は薄いがどちらかと言えばフレンチ寄りだ。では、どうするか・・・。
結局、カフェでの昼食はやめにして、街をぶらつくことにすると、スパイシーな香りが鼻腔を刺激する。この香は!カレーだ!
一般的なカレーもいいが、ここは本格的なカレーにしよう。
ネパール?インド?やっぱり、無難にインド料理にしよう。この店からが、一番いい匂いがしてたしね。
俺は、店に入りテーブルに着き、スタンダードなカレーをナンで頂くことにする。
バターの香りがするナンでカレーをすくい、一口。う〜ん、これよこれ。
こんなのが、異世界でも食べることができればなぁ。後でさっきの本屋に戻ってカレーに関する資料を買う事にしよう。
昼食も済ませ、再び街に繰り出した。
昼間の東京は平日であっても、人が多い。異世界に数年いた事もあってか、祭りでもあるのかと勘違いしてしまいそうだ。俺もこの群衆の中にいたんだよなぁ。今はコピー君が頑張っているけれど。そう言えば、少しは出世したのだろうか?あれから5年以上経っているのだから、今でも営業部長の地位と言うのは、考え方によれば無能とも言える。せめて営業本部長位にはなってもらいたいものだ。
少し、時間は早いけれどもお酒を飲みに行こうと新橋に行ってみた。この街には昼間でも飲める店もあるんだよな。
薄暗い店舗の中にあるカウンター席が8席ほどの小さな店に入ることにした。
何を飲みますか?とバーテンが静かに聞いてくる。やはり、最初はビールだな。異世界ではエールしか飲めなかったし。
キンキンに冷えたビールを流し込む。キューっと喉が鳴っているのでは?と勘違いしてしまうほどの、心地よいのど越し。ビールってこんなに美味かったっけ?
2杯目はウィスキーをロックで頼んだ。異世界にはウィスキーやブランデーはない。王国ではひたすらワイン。エールは王都にはなく、外国からの仕入れのみとなる。ビールに一番近い飲み物はエールだけれども、ドイツビールに近いのかな?常温のビールって感じ。
だけど、俺は日本人。日本のビールが最高に美味いと感じる国民なのだ!
バーテンダーがこちらをどうぞとミックスナッツを出してきた。そう言えばナッツ類は異世界で栽培出来るのかな?二ホン国では大豆の栽培が出来ているけれど、王都ではどうなんだろう?実験用に種か苗を買って帰ろう。
久しぶりにウィスキーを飲むと、妙にタバコが吸いたくなってきた。異世界に行ってから強制的に禁煙になったけど、元々は愛煙家だったのだ。玲子からは臭いと言われていたけど。
バーテンにタバコは吸えますか?と尋ねた所、大丈夫だったので煙草を買ってきますと告げると、せっかくですので葉巻を吸ってみませんかと誘われた。この店は葉巻を楽しむことが出来るバーだったのだ。
葉巻は吸ったことがないのでと言うと、ではこちらの葉巻なんていかがでしょう?とハリウッド映画俳優が吸ってそうなゴツい葉巻を出してきた。1本2000円だったので、それを買い、バーテンダーのレクチャーに沿って葉巻を味わう事にする。
何で、こんなに長いマッチなんだ?その疑問はすぐに解ることになる。とにかく、中々火が付かないのだ。その為に長時間燃えるマッチが必要だった訳だ。
葉巻の煙は肺には入れずにふかすもの。というのは聞いたことがある。が、ついつい無意識に肺に入れてしまう。その度にむせてしまう。
やっと、葉巻がなじんだころから、バーテンダーによる葉巻のうんちくが始まった。え?このバーテンダー、無口じゃなかったの?早く煙草を吸いきって逃げよう!そう思ったのだが、葉巻って長持ちするんだね。吸い終わるまで1時間かかったよ。その間、うんちくを聞かされたよ。
帰り際に気に入って頂けたのならと、葉巻を本格的に始められてはいかがですか?と薦められたのだが、妻が嫌がるのでとの理由で断ることにした。
店を出た頃には、日は落ちていて帰るサラリーマンの姿、これから飲みに行くサラリーマンと新橋駅近くは騒がしくなっていた。
俺は、コピーの俺に連絡を取り、仕事は終わったか?一緒に飲まないかと誘ったが、残業があると断られてしまった。
その代わりと、コピー君が後輩の子が飲みに行きたがっていたと言ってましたよと聞いたので、早速連絡。快く承諾してくれた。
ただ、この後輩、キャバクラ専門で他の店には目もくれない奴だったことを今思い出した。
待ち合わせは歌舞伎町の入り口。あのネオンギラギラの門の所だ。
俺はなんだか落ち着かない。異世界に行っていたせいで、都会の空気が怖い。周りをキョロキョロと見渡していると、後輩が走ってやって来た。
エスコートは後輩に任せ、彼が自信を持って紹介する店・・・。やっぱり、キャバクラだった。
キャバクラってさ、もっとキャピキャピした所だと思っていたんよ。ところがこの店は雰囲気も良く落ち着いた照明が高級感を感じさせる店だ。
そして、初キャバ嬢。意外に粒ぞろいなのは歌舞伎町と言う所なのか、どの子もキレイ、可愛いとバランスが取れている。それにドレスが・・・見えそうで見えない。これは日本の美学ですよ。
ただね。この子たちもキレイだし、可愛いんだけどさ。異世界の俺の嫁の方が数段、ランクが上だとこの時に初めて分かった。俺は美女に囲まれていた上に、毎晩のように美女を抱いていた事実。
女の子と話すのは楽しいし、毎日のように嫁達を褒めている癖で、ついついキャバ嬢にも誉め言葉を言ってしまう。気づけば、後輩そっちのけで俺に嬢が集まって来た。
その店を出るころには後輩はへそを曲げながらも、やっぱり先輩には敵いませんねと最後は笑顔で別れた。




