0131 先手を打つ
話は戻り、桜花が初めてサンの餌食になった2日後、桜花は王宮にやって来た。
今日はリンド評議国建国の立役者として賞詞を受ける式典に出席するためだ。
桜花はいつもと同じく、スーツ姿。でも、新調したものだ。
参列している貴族たちもいつもと変わらない顔ぶれ・・・ではなく、リンド評議国議長ジェイドさんの顔があった。
「オウカ殿、この度は、ありがとうございました。」
ジェイドは右手を胸に深々と頭を下げている。
ジェイドさん、こんな所にいる場合じゃないでしょう?それにまだ二日しかたってないのですよ?
「バレット国王からの書状が参りましたので、早馬でやって来た次第です。」
「それは申し訳ない。後でバレットに注意をしておきます。」
「あら、儲かりそうなお話しですの?私も混ぜて下さいな。」
商人ギルド本部・ギルドマスター代行のサウラさんの声だった。
サウラさんは胸が開いたドレス姿で、赤い眼鏡とよく合っている。センスが良いのだろうと感心してしまう。
「オウカさん、今日のお召し物はなんですの?この世界にはない衣類ですわね?」
「ええ、これはスーツと言いまして、僕の国では畏まった所や商人などが着る服装なんですよ!」
「まあ!それを早く言ってくださいな!売りたいので後でくださいましな。」
「ええ。結構ですよ。それにしてもサウラさんが居るという事は・・・。」
桜花はホールの中をキョロキョロ見回す。一人、とびぬけてデカい御仁がいる。
「おお!オウカ殿!」
満面の笑みを浮かべ、のっしのっしと歩いてくる男・・・。
冒険者ギルド本部・ギルドマスターのブニールさんだ。
ブニールさんは騎士風の白い制服、白に赤い裏地のマントを羽織っていた。これが正装なんだそうで。
「お二人は何でこちらにいらっしゃっているのですか?式典とは関係ないと思うのですが?」
「おお、確かに関係はない!ただバレット国王が話があると言うのでな、ならばついでにオウカ殿の晴れ舞台を見ようと思った訳だ!」
ガハハハ!と豪快に笑うブニールさんを見ているとこちらまで元気になりそう・・・。そんな笑顔だった。
「え~、皆さん、お静かに!バレット国王のお成りでございます!」
入場したバレットの服装は・・・?いつもと変わらない?何故なんだろうか?
「この度は、リンド評議国建国も改めて皆に伝えよう!だが、現在のリンド評議国はまだ、豊かな国とは言えない!よって、私もいつもの服装にて出席をすることにした!」
バレットは開口一番に、こう言ったのである。
そう言えば、いつまでも、どこまでも国民想いのバレットだ。当たり前の行動と言えばそうなのかもしれない。
「今日は立役者のオウカ殿に賞詞を与える!と同時に、ここにヤヌス王国、リンド評議国の国交を結ぶことを宣言する!よって王国はリンド評議国を全面的に支援する事を宣言する!」
ホールの中が、大きな拍手でいっぱいになり、慌ててジェイドさんがバレットの前に跪いた。
「では改めて、オウカ殿の今回の活躍を称え、賞詞、並びに褒美をあたえる!」
「オウカ殿、今以上に貴族の位をあげてしまうと「王族」になってしまう。それは嫌だろう?」
「確かに、その通りです。」
「よって、今回の褒美は宮殿を一つ与えることにする!以上だ!」
こうして、式典は終わった。
ー***-
「宮殿って、この前に家をもらったばかりだろう?なんでさ?」
ここは、王宮にある応接室。バレットと一緒にレストランミツヤから買ったという茶葉で淹れたミルクティーを二人で飲んでいる。
「この前の家は、神殿になったでしょう?なので改めて家をと思ったのですよ。」
「それにしても、ウチはベルサイユ宮殿なんだぜ?まだまだ部屋は余ってるぞ。」
「それは、上手く利用してください。」
「オウカさん、商人ギルドと冒険者ギルドの代表に会われましたか?」
「ああ、サウラさんとブニールさんだろう?何でも、お前が話があるからって呼び出したとか?」
バレットは黙り込み、真剣な眼差しで口を開いた。
「あの二人にリョウタさんを会わせます。」
「何だって!リョウタをか!大丈夫なのか⁉」
「その間を取り持って頂きたいのです。」
「取り持つって・・それはバレット、お前の役目なんじゃないのか!」
「勿論、私も同席します。が、私は「若い」。いくら言っても、まともに受けてくれないのが現状なのです。今回のリンド法国と同じなのですよ。」
バレットは国王と云えども20代の青年。王国の国民はバレットの手腕を知っているから大丈夫だが、他の国の大人達から見れば、まだ頼りない人物と見られても仕方ないか・・・。
「わかった。それで何時に話し合いをするんだ?」
「ええ。明日の昼食をご一緒しながら話そうかと思って。」
昼食!でかしたバレット!
「俺にいい考えがある!全て俺に任せておけ!今日は俺が二人を案内でもしてお世話するよ。」
ー***-
「今日は、俺が王都を案内しますよ!」
ここは、王都の中央広場。その場にいる俺、サウラさん、ブニールさん。
中央広場は活気に溢れ、内紛が起こった場所とは思えないぐらいに復興している。
「あの人達は、誰でございますの?」
緑のまだら模様の服を着た男たちを指さしたサウラさんが、オウカさんも同じ服を着ていましたわよね?と尋ねてきた。
「ああ、あれは俺の傭兵団ですよ。」
「ほう。何人位いるんだ?」
傭兵団と聞いて興味を抱いたのはブニールさんだ。さすがは武闘派と言えるだろう。
「300名位だったと思うのですが・・・。正確な数を覚えていないのです。」
「それは、何故だ?」
「この傭兵団は全てスラム街に住んでいた獣人族達なんですよ。ですので、見つけるとスカウトすることにしています。」
「スカウト?」
「あっ、勧誘ですね。」
「住む場所や、メシはどうしているんだ?」
「ウチの屋敷に住んでもらっています。食事もそこで食べていますよ。」
「その食事とは・・・。まさか?」
「レストランミツヤの料理人が作ってます。」
「「レストランミツヤ!」」
「俺は、クロゲワギュウステーキが食いたいぞ!」
「私は、オツクリですわ!」
ふっふっふっ。そうなるのを見越していたのだよ。
「この近くにレストランミツヤがありますから、ご案内しましょうか?」
「「もちろん!」」
「でも、どうしようかな~。」
何が?と言わん顔で二人は俺の次の言葉を待っている。
「実はですね。そのメニューは明日、バレットが用意することになっているんですよ。ウチの屋敷に来て頂ければ、レストランミツヤで出していない料理が食べれるんですよね?どうですか?屋敷で寛ぎながら食事と言うのは?」
「し、しかし、どうしたもんか・・・。」
「そ、そうよね・・・。」
二人は迷っている。好きな物を明日、食べることが出来るのは確実・・・。レストランミツヤで出していない料理も捨てがたい・・・。だが・・しかし・・・。
「屋敷に来て頂くのであれば、リリアを呼びますよ。」
「「屋敷に行きます!」」
二人は桜花の屋敷にて接待を受けることになり、舌鼓を打っていた。




